第7話 芦屋 廻子
花丸
「とっと、何処にいったっけな、、」
滅多に来ることの無い来訪者であったため、やや不慣れな手付きで、茶菓子のノボタイルとお茶を用意する。
花丸
「かーっ、しょぼいお菓子しかないな。光くん悪い、君のお菓子を少々分けてもらうよ」
戸棚にあった光用のお菓子を徴収し、研究室へ持っていく。
花丸
「お待たせしました」
廻子
「ああ」
廻子は足を組んで座っている。
花丸
「えーっと、陰陽師の方ですよね? 政府関係者の、あ、あ、」
廻子
「明頭螺だ。極秘裏に結成された組織だから一般には周知されていない」
花丸
「はぁ、、。それで、僕にどんな要件で来られたのです?」
嘘か真か定かではないが、タイミングがタイミングだけに非常に引っかかる来客であり、無碍に帰すのも気が引けた為、一応寄り添って話すよう心掛ける。
廻子
「あんたは霊魂に対して、どれ程知識がある?」
花丸
「ぶっちゃけると、一般に周知されている知識程度ですね。まず機械を通して初めて確認が出来たというところですから。まだ幽霊だと確定した訳でも無いですし」
廻子
「あんたが見たのは生霊と悪霊が混合した邪霊だよ。倉柿という男は、罪悪感に付け込まれて取り憑かれたんだ。あの世へ引っ張り込もうとしていたのは」
花丸
「ほう。邪霊、ですか。生霊を食べた悪霊と認識していいでしょうか?」
廻子
「それでいい。結果的に、その場にいた私が【分解して祓ったから問題無かったものの、あのままだったらあんたも危なかった】」
花丸
「あー、あそこに居られたのですか」
矢張傍聴していたかと自らの頬をさする。
花丸
「もし除霊? してくれていたのでしたらありがとうございます…。今こうして無事でいられるのは芦屋さんのお陰という事ですね、、」
廻子
「…あの機械は画期的な発明品だ。だが同時に危うい。続けて聞く。霊能者と一般人の違いはなんだ?」
花丸
「ん? うーん、霊力がある人と無い人ですか?」
廻子
「違う。そういうフワッとしたパワーを持っている存在ではない。エネルギー自体は全て人間が保有する生命エネルギーが元となっている」
花丸
「生命エネルギーがちゃんとあれば、霊能者になれるということですか?」
廻子
「いや違う。例えばあんた、耳を動かせるか?」
花丸
「…いえ、ひくひく程度でしたら」
廻子
「無意識に動かせる人間は1000人に1人。片方ずつなら1万から数万人に1人だ。つまり皆に備わっている能力ではなく、霊能力として扱える人間の才能という訳だ」
花丸
「なるほど。ちなみにあるのと無いのとで、どの程度違いがあるのですか?」
廻子
「霊魂は生命体の様に時間の経過に影響される物体ではない。つまるところ、あんたが学会で発表したように脳の周波数を調整して可視化出来る才能を持った人間だ」
花丸
「中々興味深いですね」
花丸はボイスレコーダーを取り出し、電源を入れて前に出す。すると廻子はそれをキッと睨めつけた。
廻子
「止めろ」
花丸
「え、いや、でも…。貴重な話しなので記録しようかと」
廻子
「世に出したとて狂人扱いされるだけだ。そして表に出したくない情報もある」
花丸
「わ、わかりました」
花丸はボイスレコーダーの電源をオフにし、懐に仕舞おうとする。
廻子
「待て」
花丸
「ん?」
廻子
「面白いものを見せてやろう。その機械をテーブルに置け」
花丸
「はぁ」
花丸はボイスレコーダーをテーブルの上に置いた。廻子はじっとボイスレコーダーを見つめる。
ズゥ…。
パキャッ!
花丸
「アッ!」
ボイスレコーダーが弾ける。花丸はあたふたしてそれを回収する。
廻子
「凄いだろう」
花丸
「いや凄いって、、! どうやったんですか!? てか、本当に破壊したのか!?」
内部から破裂したような破損具合に花丸は慌てふためく。
花丸
「凄い、凄いけど、1つしかないんだけど、、」
渋い顔で廻子を見る。
廻子
「私の音声が入っていた。よく分からんものは消すに限る」
花丸
『最悪だな! 巫山戯やがって! このクソガキ!』
と心の中で詰る。内心携帯電話じゃなくて良かったと安堵した。
花丸
「むぅ、今のも霊能力で破壊したんですか?」
少しむくれて質問を続ける。
廻子
「そうだ。生命エネルギーを想念に変換して破壊するよう仕込んだ」
花丸
「例えば、僕は出来ますか?」
廻子
「難しいな。修行を積めば目覚めるきっかけは掴めるかもしれないが、修行した所で耳を動かせる奴がいるかと言われたらNOだろう。出来ない奴は修行した所で出来ないと言っておこう」
花丸
「頑張ったら出来るものなら、多分幽霊の存在は認知されているでしょうからね」
廻子
「ああそうだ。ま、質問はこの辺にしておこう。本題に入るぞ」
花丸はゴクリと固唾を飲む。今の所政府関係者であると証明出来るものは何一つ無いが、全く具体性に欠けるとも言い難い。
廻子
「あんたには明頭螺の仕事の協力をして欲しい」
花丸
「ほう、協力ですか」
廻子
「そーだ。言わば状況整理と内容のバックアップ作業と言った所だろう。彼処までしっかり確認出来るのであれば、霊能力に乏しい人間にも対策を立てて指示を出す事が出来る」
花丸
「裏方ってことですね」
廻子
「霊の数や種類を確認し、現場に伝えて人員を派遣する。その為にあの機械が必要だ」
廻子はマテリアルスコープを一瞥する。
花丸
「まだ試作段階の機械なので、あまり有効に扱えるか自信はありませんが…。一応なのですけど、断ったらどうなります?」
廻子
「あんたは事故で亡くなるだろうね」
花丸
「ぶっ、、!」
思わず吹き出してしまう。
花丸
「強制じゃないか! んなのありかよ!」
廻子
「本性現したね。これはお願いじゃなくて、命令なんだ。だからあんたに拒否権は無い」
花丸
「マジかよ、、」
断れば先程ボイスレコーダーにやったように、頭を破壊される可能性がある。この場にいること自体非常に危険であると思い始める。
廻子
「それとこのお菓子、あんたの助手の物だろう」
花丸
「え、え?」
廻子
「先程式神を放って観察させて貰っていた。ちなみに誤解して欲しくはないのだが、私が直接手を下す訳じゃない。霊魂にも世界がある。現世、幽世、常世、と言った具合に分けられる様に霊界が存在する。そして花丸の噂を嗅ぎ付けいい様に操ろうとする悪しき魂も現れるだろう」
花丸
「…つまり、放っておいても直に殺されるって事か」
廻子
「その解釈で良い。そしてそれはあんたの身内にも及ぶ。あの助手は花丸によく懐いていたな。彼奴を使って花丸を弄ぶ輩も現れるだろう」
花丸
「…なるほど。凄く胡散臭いし、正直お断りしたいが、妙に説得力がある」
廻子
「ふむ。答えを聞く必要も無いな。あの機械。そのままでは扱いにくいだろう。桜梅桃李で改良を施し、まともに扱える程度に性能向上に努めておけ」
花丸
「…くっ、昼間のやり取りも知ってたのか」
廻子
「ではまた、連絡する。くれぐれも遅れるなよ」
廻子は光のノボタイルを一摘みし、口に運んで良く味わいながら退室した。
花丸
「…」
破壊されたボイスレコーダーを眺める。ここ数日奇妙な出来事が続く。自分の人生が大きく動き出したような、好奇心がふつふつと込み上げてくる。
花丸
「こうなったら、もう駆け上がるしかねぇよな」




