第26話 烏合の衆
光鳴
「…むぅ」
光鳴は唸る。大手門の手前の門を抜けた時から、既に邪悪な気配を感じていた。しかし、ここまで凶悪な邪気が渦巻く魔城だとは予想外であった。
光鳴
「…」
搦手門から侵攻するメンバーを一瞥する。恐らくこの中で一番の手練は自分自身であり、率先して引っ張って進む必要があるのだろう。ブツブツと真言を唱え、手で印を結んで気合いを入れ、波動を高めた。
光鳴
「どうやら既に魔の領域の様です。皆様気合を入れて参りましょう」
津雲
「確かにとても雰囲気が悪いですね。奇襲に気を付ける必要があります」
光
「でも殲滅戦ですよね。寧ろ呼び込む必要がありますよね」
光鳴
「確かに殲滅戦ではありますが、わざわざ呼び込むのはあまりに危険です。結界を張り、場を清浄に整えてからでないと、、」
花丸
「この近辺に霊道はありませんよ。セオリー的にも向こうもまずは小手調べで小兵を送り込んでくるでしょう。全て無視して行くと、後々苦労する可能性が高いです。奥の手は隠しつつ、ガンガン祓って戦力を削ぐのがベターだと思います」
ダイバースーツの様な姿で、背中にはボンベの様なバックパックを背負っており、凡そ除霊に来た人物の様には思えない。一番奇妙な姿の花丸の発言に眉を顰める。
光鳴
「な、、。失礼ですが、貴方は何処の流派で?」
花丸
「僕ですか? 流派?」
光鳴
「陰陽道師団の方々とご同行されていた様に伺っておりますが、正直な所霊能力者には見えません。祓具も持参しておられないようですし」
花丸
「僕には霊能力はありませんね。ゴーグル無しじゃ霊も見えません」
光鳴
「ど、どういうことですか?? 霊能力者ではないのですか?」
花丸
「いえ、桜梅桃李株式会社で霊が見える機械の研究開発をしております、白峰花丸といいます。普段は大学で超心理学の教授を…」
光鳴
「なんですって、、? 貴方は霊能力者ですらないのに、わざわざこんな危険な場所に来たのですか?」
訝しげな表情で花丸を見る。
津雲
「ご安心を。花丸先生は悪霊の除霊経験があります。祟り神祓えの儀にも同行致しまして、多大な活躍をして頂けました」
光鳴
「祟り神の、ですか!?」
花丸
「廻子がいたから無事だったのもありますけどね。電力さえ間違いなく供給されれば除霊可能です」
エリック
『充電は問題ありません。三日三晩稼働し続けられます』
グーと親指を立てたマークを画面に表示させる。
花丸
「まぁリーダーは光鳴さんなので、光鳴さんの指示に従いますよ。ウィジャボードを持ってますので、十円玉を置いてコックリさんを唱えたら寄ってくる筈です」
光
「ウィジャボード…! そんなのも持ってるんですね!」
花丸
「ああ、南無阿弥陀仏が彫られててな、ここに自分達を手放すというコードが込められてる。使い方は簡単で、10円をセットして指を添えて、コックリさんを唱えると、周囲の霊が引き寄せられるんだ。見てみるか?」
エリック
『効果は実証済みです。空き地で昼の12時頃使用した所、5体のネガティブエネルギーを有した霊体の誘引に成功しました。ここで使用すれば恐らく相当数が集まるかと』
光鳴
「おやめ下さい…! ここにいる全員を危険に晒すおつもりですか!」
やや声を荒らげて花丸を制止する。
花丸
「や、やるとは言っていませんよ。腐った牛の内臓をばら撒くより衛生的かな? と思ってエリックに作らせたんです」
光鳴
「なんと危ない物を…! それでも研究者ですか!?」
津雲
「ちょちょ、光鳴さん。花丸先生は明頭螺に依頼されて研究開発をして頂いています。善意での研究ですので、どうか誤解なきように」
光鳴
「イタズラに低級霊を呼び出すなんて、、。まるで呪物の類ではありませんか!」
この危険な場所であまりに非常識な連中であると驚愕する。信じられないと頭を振って拳を握り締めた。
輝彦
「…戦い慣れているようですね」
そんな中、輝彦がポツリと口を開く。
花丸
「え? ええ、まぁ? 津雲さんと比べたらまだまだですけど」
輝彦
「まるで霊能力を持った特殊部隊の様です。本当なら、とても心強いと思います」
光鳴
「貴方も悠長な事を仰らないでください…! そもそも霊が見える機械だなんて胡散臭いったらありゃしない!」
花丸
「…あはは。一般人から見れば、大真面目に除霊しようとする集団も幾許か胡散臭い集団に思えない事もないかもですけど」
光鳴
「兎に角、勝手な事はされないようにお願いします! 私は全員の力量を把握して、適切な陣形を取らなくてはいけない…! こっちは予行演習をする時間も取らせて貰えなかったのです…! 誰がどの程度祓えるかも分からないというのに、、!」
花丸
「確かに予行演習は必要だったかもですね。ここにいる人間がどの程度の力を持っているか把握するのはとても大切な事です」
津雲
「…烏合の衆…。とも言えませんが、役割分担を割り当てるのは重要ですね。いいでしょう、前哨戦は花丸先生と光氏に任せましょう」
光鳴
「なっ!?」
光
「はい!」
花丸
「了解ですっ!」
光鳴
「しょ、正気ですか!? うら若き女子と、普通の一般人ですよ!? むざむざと危険に晒すつもりですか!?」
花丸
「大丈夫です光鳴さん。もし危なくなったら津雲さんが助けてくれます」
光
「私達に任せて、皆様は力を温存しててください」
光鳴
「そういう問題では、、!」
光
「心配無用です! 私と先生でちゃちゃーっと掃除しちゃいます!」
津雲
「まずは搦手門を抜けたら西ノ丸ですね。そこを祓い終えたら、酉ノ段という場所へ向かうのです。そこを左にずっと行くと、水手門へ通じる二ノ丸という場所へ通じる門があります。二ノ丸を祓い、正面にあるであろう詰門を越えて、郷造と合流しましょう」
花丸
「本丸まで結構ありそうですね」
津雲
「恐らく一番手強い霊体がいるのは大手門側だと思われます。局長に思う存分暴れてもらいましょう。一番最初に本丸に辿り着いた班は、別の班の祓い場へ向かって援護します。局長が来ると厄介なのでさっさと終わらせて進まないと、ですね?」
花丸
「廻子にあんまりでかい顔させたくないしな。光くん、僕が弱らせるからバシーっと仕留めてくれ」
光
「はいさー!」
花丸はレイブラスターを構える。光は懐から純銅製の小さな錫杖を取り出し、真言を唱える。
光鳴
「本当に、大丈夫なのですか、、?」
津雲
「まぁ見ていてください。本当にお祓いが出来る方々です」
〜西ノ丸〜
一行が門を抜けて進み、西ノ丸に到達する。池があり、庭園が広がっている。趣深い場所であるが、手入れがされておらず荒れ果てている。落ち葉が積み重なり、池に魚はおらず澱んでいる。
花丸
「いるな。低級霊はウヨウヨ。悪霊は池の中に五体、建物の中とか木に何体も隠れていやがる。こっちに気付いているが、襲ってこない所を見ると警戒してるんだろう」
光
「いちいち捕まえてお祓いするのは面倒ですね。一気に襲い掛かって来てくれたら良いんですが」
花丸
「ウィジャボードは使うなって言われたしな。他に良いアイデアがあればいいんだが」
光
「…ならば、こう!」
光は両手を上げ、【手の甲同士を打ち付けた。】
光鳴
「あっ! あれはっ!」
津雲
「天の逆手ですね。おお厄い厄い」
ぺち、ぺち、と裏拍手をすると、ぬらりぬらりと霊が集まってきた。池の中からヘドロの様な悪霊や、木の上からドクロ顔の猿の様な悪霊等様々だ。
『ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ!』
猿の悪霊が騒ぎ始める。
『かぁ〜!!』
すると、その声に呼応してか、闇の奥から甲冑を着た目の真っ黒な悪霊が刀を構えてこちらへ走ってくる。背後から兵士の霊も続いて向かってきた。
光鳴
「まずい、、! まさかこんなに数が多いとは!」
光鳴は数珠を構えて応戦しようとする。しかし津雲がそれを止めた。
津雲
「まぁまぁ、落ち着いてご覧下さい」
花丸
「よくやった。いざ開戦だぜ、光くん」
光
「行くよオコゲ!」
オコゲ
『はいよ! 風のように駆け巡るぞ!』
花丸はサンダーショットをウェブショットに切り替え、向かってくる兵士達に向かって放った。ヴワァ〜!! とワイドに放たれた電撃のレイブラスターは周囲の霊体を次々と巻き込んでいく。
バリバリィッ〜〜〜!!
『う、うごぉっ、、!?』
輝彦
「…! すごい。あの銃、過去、現在、未来を解き明かして、呪の力を弱めている」
光
「唵吠室囉縛拏野莎賀! 唵吠室囉縛拏野莎賀!」
錫杖からにょ〜っと青白い刀が伸びる。そしてオコゲは光の腰に入り込むと、焦げ茶色の尻尾となって顕現した。
光
「そりゃそりゃそりゃ〜!」
光はズビュンと人並外れた速度で走り回り、兵士達を錫杖刀でバッサバッサと切り伏せていく。
光鳴
「な、なんと…! これがあの陰陽道師団なのか、、!?」
津雲
「あの二人は新米です。今回の案件も、良い経験となれば良いのですが」
光鳴
「し、新米ですって、、!?」
『かぁ!』
光
「ひゃっ、、!」
池の悪霊が口から吐瀉物を放ってくる。光は慌ててそれを回避した。
花丸
「エリック、スタンショット」
エリック
『切り替えました』
花丸は池に向けてスタンショットを放った。
『ぶ、ぶもぉ、、!?』
バシィッ、、!! と池の悪霊は金縛りにあったかのように硬直する。
光
「唵阿謨伽悉地摩訶嚕灑拏娑婆訶!」
光が真言を唱えると錫杖から火が吹き出し、池に降り注ぐ。
『ぶぎゃぁああ〜〜〜!! 』
池は浄化され、悪霊も次々と除霊された。目の前で怨霊や悪霊をガンガン祓っている二人を、目を白黒させながら見つめて唖然とする。あまりのショックで持っていた数珠を地面に落としてしまった。
花丸
「余裕だな」
あっという間に向かってくる霊達を殲滅する。
『ぎゃ、ぎゃあ! ぎゃあ!』
猿の悪霊達は、これはマズイと山の中へ退散する。
津雲
「あら、逃げてしまいましたね。まぁ有象無象でしょうし、あの程度であれば結界を張れば二度とここへは来れません。問題ないでしょう」
光
「ドンドン進みましょう! 廻子ちゃんより先に本丸に辿り着くんだから!」




