第21話 同居人
花丸
「ふぅ、、」
花丸は大学の講義を終えて帰宅する。
花丸
「ただいま〜」
津雲
「おかえりなさい」
津雲が家事と料理をしている。部屋を見渡すと謎の置物や札の様な陰陽道具が増えている気がする。そして極め付けは形代がフワフワと浮きながら家事をしているという事だ。初めはギョッとしたが、見慣れると地面を徘徊するロボットクリーナーの様で珍妙である。手洗いうがいをしてリビングまで向かう。
花丸
「いや〜、、。しかし、何から何まで申し訳ないです…。見て頂いた通り家の中はあんまり綺麗じゃなかったし、庭に雑草とかも生えてました」
花壇に花が植えられたのは何時ぶりだろうと眺める。
津雲
「ふふふ、お気になさらずに。明頭螺からの命令で教授の護衛の任に就いているのですから。それに、私自身結構楽しんでいます。あ、今日、ご近所の方に、教授の奥さんではないですかと聞かれましたよ」
花丸
「え、、。嫌じゃなかったですか?」
頭を掻いて困った顔をする。
津雲
「いえいえ。寧ろ鼻が高いです。こういった普通の生活も新鮮ですね」
テーブルに料理が並べられる。魚料理に味噌汁ご飯、サラダ等で肉は少な目である。
花丸
「…」
花丸は並べられた料理に視線を落とし、憂いた表情で見つめ、席に座る。
津雲
「…、? どうされました? あまり好みではありませんでした、、?」
花丸
「いえ、暖かいご飯を作って貰うのはかなり久しぶりだったんで、なんだか昔を思い出しちゃいまして」
津雲
「…そうだったんですね?」
キョトンとした表情で花丸を見つつ、手を拭いて津雲も席に座る。
花丸
「い、いただきます」
花丸は料理を口に運ぶ。
花丸
「とても美味しいですよ」
津雲
「ああ、良かったです。お疲れですよね、どんどん食べてください」
津雲もご飯を食べ始める。
花丸
「…つかぬ事をお伺いしても良いですか?」
津雲
「はい。なんでしょう」
花丸
「…この家に、そのー…。幽霊とかいますか?」
津雲
「いえ、いませんね」
津雲はそうハッキリと答えた。
花丸
「…そうなんですね」
津雲
「何か気になる事があるのでしょうか?」
花丸
「…ええ、まぁ。あるっちゃあるのですが、こんな事話して良いのか、少し気が引けましてね」
津雲
「私でよければお伺いしますよ。勿論タダでOKです♪」
手でOKサインを出す。
花丸
「…じゃあお言葉に甘えてお話を聞いて貰いましょうか。僕、幼い頃に車の事故で母を亡くしているのです」
津雲
「…そんな若い頃にお母様をですか、、」
花丸
「はい。小学校の頃ですね。そして父と2人暮らしで高校まで過ごしていました」
津雲
「…高校まで、と仰られますと、、」
花丸
「ええ…。父は家に入ってきた泥棒に襲われて負傷し、病院で亡くなりました」
津雲
「…」
津雲は真剣な表情で話を聞き続ける。
花丸
「…そして実は、泥棒が家に入って来た日、僕は家に居たんです。僕は風邪を引いて学校を休んでいました。誰かが家に入ってきた時、最初父が会社を早退して帰って来たのかと思いました」
花丸は一つ一つ記憶を引き出すように、言葉を紡いでいく。
花丸
「…ですが徐々に物音が大きくなって、家財を荒らす様な音が聞こえ始めました。僕は父では無いことに気付き、恐ろしい気持ちで足腰が震え始めました。その時、クローゼットの中から誰かが手招きしている様に見えたのです」
津雲
「…クローゼットですか」
花丸
「はい。僕の子供部屋になっていて、今はあまり入ることはありませんが、物音を立てないようにそーっとクローゼットの中に隠れました。隠れている最中、どんどん物音が大きくなって、徐々に自分の部屋へ近付いて来るのがわかりました」
津雲
「恐ろしい経験ですね、、」
花丸
「…とても怖かったです、、。今でも、悪夢を見ることがあります…。僕、野球をやっていて、そこそこ体格も良かったのですが、人間異常事態が起きるとまともに思考出来なくなるものです。金属バットを持って追い払えるなら追い払ってやりたかった…。でも恐怖心がそれを上回る事はありませんでした…。部屋のドアノブがガチャりと鳴り、クローゼットの中から外を見ると、赤い帽子を被った見知らぬ男性が入って来るのがわかりました。その手にナイフを持って…。心臓が爆発しそうな程高鳴り、吐き気すら催していました。男は部屋を一瞥すると、荒らし始めました。僕はもう気が動転し、視界がグワングワンと横転していました。男が部屋を荒し回り、クローゼットに手を掛けました。もう終わりだ、僕はここで死ぬんだと絶望すらしていました」
津雲
「…」
眉を顰め、箸を置いて真剣に話を聞き続けている。
花丸
「…すると、下から別の物音が聞こえ始めました。その時、父の声が聞こえたんです。部屋が荒らされている事に気づき、警察に電話しようとしていた様です。男はクローゼットを開けるのをやめ、下へ降りていきました。僕は勇気を振り絞って外へ出ようとしました。ですが…」
花丸は自分の手を摩った。
花丸
「…クローゼットの闇の奥から、誰かが僕の手を握ったんです。行ってはダメだと言わんばかりに。強く強く引き留めた。…父は泥棒と争い、大きな音を立てていました。しかし、父の呻く声と共に音が止みました…」
津雲
「…」
花丸は悲痛な面持ちで、口は固く結ばれている。険しいその目から、涙が一筋零れる。津雲は立ち上がり、テーブルの向かい側の花丸に近付き、肩を撫でた。
花丸
「……すいません、気を遣わせてしまって…。僕は、今でも鮮明にその事を覚えています…。臆病だった自分を、今でも呪っています。…この後悔の念は墓まで持っていくことになるでしょう。父は、その後駆け付けて来た警察によって病院へ搬送されました。僕は身動き1つ取れず、クローゼットに隠れていた所を保護されました。父は、病院で治療を受けましたが、治療の甲斐も虚しく…。あの時、あの時の出来事が、今の僕を作り上げているのです」
津雲
「…大変でしたね」
花丸
「…ええ、それがマテリアルスコープを作った理由です。あのクローゼットの中に居たのは母だったのか、そして父に会って謝りたくて、ただひたすらに研究に打ち込みました」
津雲
「…本当によく頑張られましたね」
花丸
「津雲さん、率直に聞かせて下さい」
花丸は涙を拭い、津雲の方を向く。
花丸
「…津雲さんを一流の霊能者として信じます。僕の父と母は霊体としてこの世に残っていますか?」
津雲
「この家にはいませんが、事故現場、もしくは病院に縛られている可能性はあります。しかしそこにもいないとなると、現世には存在せず、幽世か常世へ成仏している可能性もありますね。私はイタコではありませんので、口寄せる事は出来ません。イタコでも、場合によっては呼び掛けに応じないケースもあります」
花丸
「…そうですか。なら、事故現場や病院へ行って確かめる事は可能ですか?」
津雲
「ええ。お時間がある時に向いましょう。お母様とお父様と話が出来れば、もしかすれば理由を尋ねる事も可能かもしれません」
花丸
「本当ですか、、!!」
花丸は驚嘆する。
津雲
「亡くなった御遺族と交信したいという方は他にも大勢居られます。何ら不思議な事ではありませんよ。会えると良いですね」
津雲はそういうとニッコリと微笑んだ。
花丸
「よろしく、お願いします、、」
花丸は深く頭を下げ、津雲に礼をした。
……。
後日、津雲と共に外出する。
花丸
「あそこですね」
花丸はトンネルの入口を指差す。
花丸
「もう28年も前ですので、居ないかもしれません」
津雲
「…」
津雲は周囲を観察し、指で印を結び、ごにょごにょと何かを唱える。
津雲
「…花丸先生、残念ですがここには、、」
花丸
「…? いませんか」
少し残念そうな表情をする。
津雲
「それに、あまりここにも来ない方が良いですね。穢れの溜まりやすい場所です。先生はここに良い思い出が無いので、良くない霊体を引き寄せやすいでしょう」
花丸
「そう、ですね…。では次、病院へ行きましょうか」
津雲
「はい。向いましょう」
2人は病院へ向かう。
花丸
「ここです」
車から降りる。2人は病院の中へ入り、周囲を確認する。
津雲
「霊自体はチラホラ…。ですが先生のお父様と思しき霊体は居ないですね」
花丸
「そうですか、、。成仏しちゃったのかな?」
津雲
「お墓はどうでしょう」
花丸
「あ、お墓がありましたね」
津雲
「お墓に祈りを捧げると、本人が降りて来る事もあります。1度試してみるのも良いかと」
花丸
「わ、わかりました!」
2人はお供え物と線香、そしてタオルと水を持って霊園墓地へ向かう。
花丸
「ここが父と母の墓です」
津雲
「了解です。まずは綺麗に掃除して、お供え物をしましょう」
花丸
「はい」
2人は掃除をし、綺麗にしてお供え物を供える。
津雲
「ではお父様とお母様を想ってお祈りを捧げましょう」
花丸
「はい…」
2人は祈りを捧げる。
津雲
「…花丸先生」
花丸
「…はい?」
津雲
「お父様が、来て頂けました」
花丸
「…本当ですか、、?」
津雲
「ええ。お話、されたいですか?」
花丸は口に手を当ててアタフタする。
花丸
「ええ、是非…! でもどうやって、、?」
津雲
「ではお父様の御霊を家へ持ち帰りましょう。画期的な方法があります」
2人は花丸の家へ帰る。椅子に座ると津雲は携帯端末を取りだした。手で印を結び、形代に力を込めてごにょごにょと真言を唱える。
津雲
「準備完了です。ではこの形代へ話し掛けて下さい」
花丸
「…お、親父、、?」
花丸が形代に話し掛ける。するとスルスルと動き出し、携帯に文字を書き込み始めた。
『 お前、花丸か? 』




