予言
――魔法を防ぐ方法は二種類ある。一つ目は反対属性の魔法をぶつけることで相殺させること。二つ目としては相手の術式を崩す解呪という方法である。
今回この本では一つ目の手段である反対属性の魔法で相殺させることについて解説させていただく。(解呪は非常に高等な魔力操作が必要とされるためここでは割愛させていただこう)
一般的に魔法には六つの属性が存在すると考えられている。一つずつその属性を挙げていくと火、水、風、土、光、闇の六種類が挙げられる。そしてその反対属性は火と水、風と土、光と闇の対応がなされておりそれぞれが互いに相反し打ち消しあうような形となっている。(ちなみに東洋では五行と呼ばれる別の元素論が広がっており、木、火、土、金、水の五つの元素をもとにした魔法もあるようだ)
そして相手が何らかの属性魔法を撃ってきた場合、とりあえず反対属性の呪文を撃っておけば相殺あるいは威力を弱めるなどができるであろう。そのためにも相手の魔法の属性をよく理解しておく必要がある。
これを応用して相手が先制して先に魔法を撃ったとしても、属性を先読みした上で時間をかけて唱えた強力な魔法を撃てば相手にそのまま魔法を当て返すことも可能となるだろう。
――このようにして日々の自衛においても、決闘の場においても属性の相性をしっかりと考え、詠唱できることこそが大魔導師への第一歩となるだろう。(法石書房「魔法属性学Ⅰ」より内容を一部抜粋)
帰りの廊下が長く感じる。入った時の十倍の長さの様だ。その理由はなんだ。それは自分の足取りが重いからだ。
「コ、コーエン……」
黒剛ハクトは何とか泣き止み、前を歩く大男に対して恐るおそる声を掛けてみる。なぜ自分から声を掛けたのかは分からない。さっきのことに対するご機嫌伺いか。それすらも自分ではわからない。
目の前の男は立ち止まるがこちらを振り向くことは無い。監査所ではああ言っても、自分に対しいまだに怒っているのかもしれない。
「……なあ、ハクトよ」
コーエンは振り向くこと無く言葉を続ける。
「先ほどの貴様の『予言』とやらは、あの干物ジジイの『予言』のことを指しているのであろう?」
「うん……ボクらの町にもともといたあのエルフのおじいちゃんだよ」
まだ二人が子供だったころ、町の郊外にひっそりと住んでいたエルフ族の老人がいた。二人はよくその家に行ってはいろいろなことを学んだ。老人の家にはいろいろな薬草が常に蓄えられており、二人でよく訳の分からない調合ごっこなどしては老人に怒られていた。
「キミの探究心はおじいちゃん譲りだもんね」
「俺はあのジジイと違ってやる前から無謀だと分かっていることはしない」
コーエンは顔をしかめて後ろを振り返る。そこにはハクトに対する怒りなど無くなっており、代わりに昔のことを思い出してしかめている姿があるだけであった。
「貴様はあのジジイのたわごとをよく聞いていたからな。今回もあのジジイのボケを真面目に受けただけだろう?」
「……それが……今回は違うんだ」
コーエンが軽い気持ちで聞いたことが、ハクトにとってはとても大事なことだった。ハクトは気持ちを仕切り直し、エルフの老人が告げる『予言』について話をきりだす。
「あのおじいちゃん、その時はとても真面目な顔をしていたんだ。いつもとは違って口元を締め、その目をしっかりとボクに向けていったんだ。『超魔力を生まれ持った七人の子供達が、この魔法界を脅威から救う』ってね」
「クソ適当な予言じゃねぇかよ。大体その七人のガキ共は見つかってんのかよ」
呆れて再び歩き始めるが、ハクトはそれに不満だった。
「話はまだ続くんだから、最後まで聞いてよっ! それでボクは急いで学校を立ち上げ、この都市の子供達を集めることにしたんだ。そして今年、例の子供達七人が揃うんだよ!」
コーエンはそれを聞いてもいまだに納得がいかず、腕を組んで首を傾げる。
「学校に揃っただと? 大体どうやってそのガキを見極めたんだよ」
「女のカンってやつだよ。実際世界でも有数の実力者が集まっているし」
カンとはなかなか信用ならないものだが、実際集まっているのだから『予言』は半分当たっていることになる。そこまで聞くと、コーエンは少しだけ『予言』に興味がわき始める。
「ふむ。予言の子供は集まったのか。では次はどうすればよいと言われたのだ?」
「そこが重要なんだよ」
ハクトはいつもの調子を取り戻し、コーエンの歩く前へと出る。コーエンは再び足を止め、ハクトのそのニコニコとしている顔を見る。
「その子供達はまだ未熟だから、ボク達が守ってあげなきゃいけないんだ」
「ほぉ、俺にガキの子守でも手伝えってか」
「似てるけど、少し違うよ」
ハクトはその場に足を止めると、コーエンも続けて足を止める。
廊下にいるのは二人だけ。その静かな空間に、ハクトの言葉が響く。
「キミが生徒として一緒に学校に入るんだ」
「…………はあぁ!?」
続けてコーエンの大声が廊下の端まで響き渡る。コーエンの心境としては、どういえばいいのか分からなかった。
「俺の年齢を分かってんだろ!? どっちかと言えば貴様と同じ教師として学校に潜入すべきだろうが!」
「だってキミ高校行く前に監獄行きになったじゃん! しかも今の魔法は昔と違うからキミが教えることはできないよ!」
「そうだとしても、俺が生徒などやってられる訳がないわ!」
コーエンはまた別の意味で腹を立てるが、ハクトはいたって真面目である。
「お願いだよ! ボクのことを信じてよ!」
何が彼女をそこまで動かすのか。それがコーエンにとっては解らない。しかし頭を下げて必死で頼むその姿をいつまでも見ているのは辛いので、半分あきれつつもコーエンは渋々とその提案を受け入れることにする。
「ちっ、分かったから頭を上げろ」
「コーエン、生徒として入ってきてくれるのかい?」
「まぁ、今の魔法にも興味があるからな。貴様の言うことを仕方なく受け入れて入れてやる」
仕方なくを強調していうが、それでもハクトとしては嬉しいことであり思わずコーエンに抱きつく。
「ありがとうっ! これで『予言』を守ることができるよっ!」
「嬉しいのは分かった、分かったから俺から離れろ!」
しかしハクトは抱きついたまま上目づかいとなってさらなる無茶ぶりをする。
「じゃあ明日入学式だから、急いで支度しなきゃね」
「……はあぁ!?」




