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夢幻都市

 ――今から約六百年前、当時の魔法使い――ソーサラーと呼ばれる人々は魔法が使えない非魔法族――パーソンから畏怖の対象として恐れられ、迫害を受け虐げられてきた。


 その理由として挙げられるのが、我ら魔法族は魔法を使えるという点である。パーソンは魔法の事について、「我らを惑わし魂を犯して、地獄へといざなうもの」という偏見を持っていたそうである。


 ソーサラーはその迫害をいわれのないものだと抗議し、断固として立ち向かった。しかし時が過ぎるにつれ迫害はその形を変え、魔法使いを明確な敵として滅ぼすように変質していくことになる。


 そのおぞましいほどに膨れ上がった敵意に震え滅亡を恐れたソーサラー達は方々へと散り、その地方の小さなコミュニティを保つよう最大限尽くした。(この時地方に散ったことで独自の魔法文化も栄えたのだともいわれている)


 しかしそこから数百年後、大魔導師アビゲイルが世界中の魔法使いを集め、魔法族が安心して暮らせる街を作り上げようと決心する。(大魔導師アビゲイルについては別書「新たなる救世者」を参考にしていただきたい)


 この時アビゲイルを含め最初のソーサラーが集まって作った町が、現在我々の住む夢幻むげん都市とし、ブラックアートの原型と呼ばれている。当時の人口は約七百人。一人の魔導師を元首としてこの町(あるいは小さな国と呼ぶべきであろうか)は成り立っていた。地図に載らない山に突如現れたその町の噂を聞きつけ、ソーサラー達は方々からその場所を目指して集まり始める。そしてそれまで地方で培ってきた文化をお互いに交えることで、高度な魔法文明を築き上げることに成功する。


 そして現在、この都市では地上にあたる上層と地下にあたる下層に別れており、上層では近代的なビル群が立ち並び、下層ではそれまで守られてきた伝統的な建物が立ち並んでいる。(なぜ今上層部にパーソンの技術でできたビル群が立ち並んでいるのかは後ほどに改めて叙述することにする)




 ――そして今、ここまで発展を遂げることができた夢幻都市ブラックアートは、魔導師アビゲイルの悲願を体現した町といるであろう(魔ほろば出版「変遷する夢幻都市」より内容を一部抜粋)






 早朝――日が昇り、巨大都市は目覚める。その上を二人乗りの箒がゆったりと飛ぶ。箒を操作しているハクトは、朝日の眩しさゆえか額に手を当て影を作り、前方の確認をする。コーエンはハクトを信頼してか、背中を預け眠りにふけっている。


「――ほら、起きてよ! ここがボクが言っていた夢幻都市――ブラックアートだよ!」


 ハクトの言葉でコーエンは目を覚ますと、箒に足をひっかけ逆さ釣りになりその全貌を見わたす。


 逆さに見る巨大都市。巨大な建造物の合間から差し込む朝日――その日に照らされ辺りの様子が見え始める。石畳状に見える何かが地をならし、その石畳の上空を固く平たい紐が建築物の間を縫うように通っている。


 そしてこの都市を象徴するかのように、中央に巨大な塔が建っている。この天を穿つかのごとくそびえ立つ塔の天辺てっぺんを中心に広がっているのは超巨大な魔法陣。まるでこの都市を見守っているかのように思える。コーエンはその巨大な魔法陣を見て、驚きを隠せずにいる。


「あれほど大規模な立体魔法陣は見たことがないぞ。一体何人がかりで――」


「あはは、あれは一回設置すればその後の維持は必要ないんだよ」


「何!? そんな術式があるのか!?」


 その驚き様にハクトは少々自慢げに話しだす。


「クスクス、キミがいない間に魔法界も随分進歩したんだよ」


 箒の高度を下げ、ビルの間を通り街の細部を紹介してまわる。


「あそこが中央ターミナル。ここからバスやモノレールが各地区に出回っているんだ。そしてあっちの住宅街が居住地区。大勢の人がここに移り住んでいるんだ。そしてボクの目の前にある大きな通りがクラフト通り。街の中心地ともいえるこの場所で大体の物が揃えられるんだ! ボク達が子供のころは契約一つでも別の所に行かなきゃいけなくて大変だったけど、ここだと大抵の魔物が揃っているからとても便利だし、魔導具専門店も箒の品ぞろえがしっかりしているんだよ! あっちの方は――」


「ちょっと待て!!」


「なんだよー、もっと紹介したい所があるんだから手短にしてよ」


 ハクトは不満げな表情をしているが、それ以上にコーエンはその顔をしかめ、建物を指さしながら怒声交じりにハクトに疑問をぶつけだす。


「あの大きな長方形の建物はなんだ!? バスとはなんだ!? 分からん単語が多すぎる!」


 そこでハクトはハッと気が付き、先ほどまで舞い上がっていた自分を戒めるかのように呟く。


「あっ……ぁー……そうだよね、キミは幽閉されてて分かるはずもなかったよね……」


 先ほどまで明るかった声は委縮し、ハクトはしゅんとした顔になる。それを見たコーエンは少し自分も言い過ぎたと反省する。


「いいんだ、ボクも無神経すぎたんだ。……君が幽閉されていた間、魔法界は大きく変わった。それまでボク達は小さな集落で過ごしていたけど、ある時一人の魔導師が地方に散らばっていた魔法使いを集めてこの都市を作ったんだよ。この都市の上層部ではこのようにパーソンの技術も取り入れた近代都市となっているけど、下層部ではちゃんと今までの建造物が残っているよ」


 何気なく喋るハクトの言葉のなかで、ある単語だけがコーエンの耳に強く残る。


「ちっ、パーソンか……忌々しい奴らだ」


「……まあ、ボク達が子供のころはそうだったけど、君が幽閉されている間にパーソンとの交流は何度も図っていて、今ではだいぶ関係が良くなってきているんだ」


「……俺は一切信用せんがな」


 パーソンとの間では何やら深い因縁があったらしく、コーエンはその単語を聞くとピリピリとした雰囲気となる。ハクトはまたもや地雷を踏んでしまったと更に小さくなる。


「ごめん……そういえば、あの一件が起きてからキミはパーソンの事を憎む様になったんだったね……」


 まるでその心境を示すかのごとくゆっくりと箒の高度を下げ、その地に足をつける。


「――着いたよ。ここが新しい魔法省さ」


 辺りはビル群だというのにコーエンの目の前には不釣り合いな城が建っていた。城は真新しいわけではなく、そこだけ時代が過ぎ去ったかのような寂れた雰囲気を醸し出している。


「……外観は変わってねぇのな」


「ま、まあそのまま転移魔法で飛ばしてきたんだから」


「だったら新しくねぇだろ」


「あは、あはははは……」


 正確なツッコミに対し返す言葉もなく、とりあえず苦笑いをしてその場をごまかしつつもハクトはコーエンを連れてその城内へと入っていった。




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