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お互いの成長

獲物を喰らうがごとく、コーエンは口を大きく広げて笑みを浮かべる。その笑みを見てハクトは一瞬怯えてしまうが、そのコーエンと名乗る男の、自分の知っているはずのコーエンとは点を挙げていく。


「で、でもボクの知ってるコーエンはそんなガチムチな男じゃないし、そもそも命の結晶になっちゃって――」


「俺は結晶内でもその魔法術式を組み上げてきた! 最初の百七十三年で結晶から肉体を生成! 更に二百五十八年をかけて術式の改良を重ね! 残った二百三十五年間筋力トレーニングを続けてきたのだ!」


「はぁ……」


 途中まではまともに聞いてきたが、最後の筋力トレーニングがいまいち緊張感を生み出せずにいた。しかしそんなことはお構いなしに、今度はコーエンの方からハクトへと質問が投げかけられる。


「貴様こそ六百六十六年たったにも関わらず二十代くらいの見た目ではないか。不老の呪文は守護縛鎖キュアーと並んで禁呪とされているはずでは無いのか?」


「キ、キミがここに閉じ込められている間に合法的な呪文が完成されたからいいんだよっ!」


「……そうか」


 なんとかコーエンを納得させることができたものの、いまだにハクトの方は納得がいかない。


「待ってよ、どうして!? キミが学生だった頃は女の子と間違えるくらいのかわいい顔立ちだったのに、どうしてそんな男性ホルモンマックスな男前になってるの!?」


 ハクトの疑問ももっともと言わんばかりにコーエンは腕を組みその説明をする。


「ふむ、守護縛鎖キュアーは対象に魔力と引き換えに不老不死を与えるが呪文自体は実に不安定。実際最初に結晶化した上、この再生した肉体を以て測定した結果約三十三年に一歳年を取っている。俺はまず守護縛鎖キュアーの術式を変形させることで結晶化を解き、その後ある程度適したものへと独自に改良していった。まぁ魔力の放出、魔法の使用は相変わらずできないがな」


「で!? それとキミの肉体変化はどう関係があるの!?」


「ああこれか」


 コーエンは右腕にぐっと力をこめる。するとその筋肉はさらに硬化してゆき、まさに鋼鉄とでも言うべきにまで強まっていた。


「これは俺が効率的に編み出したトレーニングの成果だ」


「筋トレだけでキミはここまで変わるの!?」


 ハクトのツッコミを無に帰すかのごとく、コーエンは言葉を返す。


「貴様とて、昔と違ってしっかりと成長している部分があるではないか」


 コーエンは右手をつきだし、ハクトのしっかり成長している部分をしっかりと揉みしだく。


 お互い最後にあったのが中学生の時ならば、そこから身体的に成長した部分はいろいろとあるはず。それをコーエンは証明したかったらしいがどうやら結果は違う方向へと向かいつつある。


「ほれ、中学生の時は壁の様であったものが、今では立派なものへと変化している」


「な…………んっ…………!」


 ハクトが顔を真っ赤にして言葉を失おうが、そんなことお構いなしとコーエンは手を離さない。


「人間とは日々変わっていくものだ。 どうだ、納得いったか?」


「こ……このバカァー!!」


 ハクトは恥ずかしさのあまり思わず杖から炎を呼び出しコーエンのその無礼な右腕を焼きつくしてしまう。


「あっ! コ、コーエン!?」


 思わず対象を焼きつくしてしまった事に今更ながら心配し声をかけるが、焦げ落ちた右腕はすぐに光に包まれて再生し、元通りになってゆく。


「――更にさっきの説明に付け加えると、超再生力を加えた俺の改良型守護縛鎖アドバンスドキュアーはちょっとやそっとじゃ傷はつかない。お前のその恥ずかしくなるとすぐ発火イグナイトを撃つ癖も、この通り何ともなくなる」


 得意げに話すもそれはさらなる法律への接触となってしまうため、ハクトは急いでその口を塞ぎ周りに聞こえないような声で声を潜めつつ話す。


「あのねぇ! 禁呪を更に改造とかしちゃった事がばれたりしたら今度こそ地獄に引き落とされちゃうよ!? 周りに喋るなんて絶対駄目だよっ!」


「俺はお前が知りたそうにしているから教えてやっているだけだが」


 そう言ってコーエンは首を傾げるが、ハクトは大きくため息をついている。しかし彼がアダム・J・コーエンであるということは間違いないだろう。


「まったく、キミのその探究心だけは昔と変わらないようだけどね……」


「その探究心のせいで俺はここに監禁されていたのだがな――」


 そう言って辺りを見回す。辺りは相も変わらず闇に包まれており、二人がしゃべらなければ音ひとつ立たない場所となっている。


 この場所に一人いること。それすなわち五感の全てを奪われているようなものである。しかしここでの幽閉生活がそれなりに気に入っていたらしく、コーエンは別れを惜しむかのように呟く。


「……思えばここも、なかなか住み心地が良かった」


「……ボクはそう思わないからキミをここから出しに来たんだけどね」


「そうか……まあお互い積もる話もあるだろう、続きはここを出てからにするか」


 そう言って足元に横たわっている看守を担ぎ出すと、明かりも無しにコーエンは出口へと向かう。


「ちょちょ、ちょっと待ってよ!」


 そしてその悠々とした後ろ姿を、ハクトは慌ただしく追いかけていった。



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