劇の始まり
試合は一方的なものだった。
「――あははっ、エド先輩って結構弱いんですね!」
決してエドワードが弱いわけでは無かった。むしろエドワードでなければここまで耐えられなかったであろう。
「いきますよー! ――炎刃葬射!」
エドワードも知っている、サラの得意技だ。しかしその規模はエドワードの知る中では最大クラスだ。
「……でけぇ」
剣は一つ。しかしそれは天を割って四賀の元へと降りていく。
「あらら、予想外に大きいの来ちゃった?」
召喚主である四賀ですらその大きさに驚くと共に、やはり自らが師事した者の正しさににんまりとしていた。
「じゃあ、行きますよぉ!」
そう言い終えるころには既に四賀はエドワードの目の前にまで接近していた。
大剣はエドワードの頭上に影を作り、そのまま垂直に振り下ろされる。
「――おっと!」
エドワードはそれをなんとかわすが、大剣は見た目に拠らず素早いものであった。
「逃がしませんよっ!」
更に薙ぎ払い。
エドワードは防護陣を守る事など、もはや考えることができなかった。防護陣がエドワードの後をついていくが、その通り道を大剣がさえぎる。
エドワードのすぐ近くで、防護陣が派手に割れる音がした。
「――チッ!」
破片がその場に散らばり、四賀は初めての勝利に心を震わせる。
「……った、勝ったぁ!」
ドレスを出したまま、四賀はその場ではしゃいでいた。辺りは引火し小さな火が付き始める、
「初めて勝ちましたぁ! しかもエド会長に! やっぱり私は、ダメ人間じゃないんだ!」
「クソッ、どういう事だ……?」
全く以て、どういう事なのか。逆立ちどころかブレイクダンスまで覚えることができているではないか。このようなレベルまで育て上げることができる人物など、エドワードは二人しか知らない。
「一人はあり得ねぇ……そしてあの人はブラックアートにはいないはずだ――」
「――あぁ、誰かと思ったら、エド君久しぶり」
突如後ろの方から、エドワードの知っている声が聞こえてくる。
「あっ、師匠! 勝ちましたよ!」
「……あんたがここに居るのはおかしくないか……?」
相変わらずフードを被っており顔は分からないが、その体格はエドワードより若いことを表している。しかしまるでエドワードより歳を取り、かつ昔に何か因縁があるかのような会話だった。
「フフ、刑期が終わったって事なんじゃないかな……? それよりさ――」
「ッ!」
――少女がエドワードの左目を指さすと同時に、左目に強い痛みが伴い始めた。
「――どうかな? 私のあげた左目、まだ疼くかい?」
言われるまでも無く、エドワードは左目を抑え、痛みに耐えることができずにその場に片膝をついた。
「……ぁがぁッ!」
「師匠!? 何をしているんですか!?」
「ふーむ……あの女が中途半端に解呪したせいで余計なダメージを喰らっているね。可哀そうに……」
少女がそう言って手を降ろすと同時に、左目の痛みのも薄れていく。
エドワードは思い出した。この少女の恐ろしさを。この少女の冷酷さを。まるで自らの興味関心の為なら誰が死のうが関係ないという信条。それら全てが少女を構成している。
「……一体、どういうことなの?」
そして四賀はエドワードと師匠の間だけで話が進んでいることについていけなかった。
「……エド君。もう一度、私の元に来ない?」
「……何だと……?」
「もう一度私の元で魔法を極めないかと訊いているのだよ」
エドワードはその言葉の意味を、よく噛み締める。そしてニヤリと笑みを返し改めて口を開くとこう言った。
「――お断りします」
刹那。エドワードは空高く打ち上げられた。
「――風天弾」
「――がはっ」
体の中心部。そこを強く突き上げられ天高く打ちあがる。もちろん不意の魔法であるためエドワードですら防ぐこともできず、もろにその一撃を喰らってしまった。
エドワードの意識は跳び、後は重力に任せて落ちようとしていた。
しかし少女はただ地面に叩き落とすというわけでは無かった。
「――擂輪縛撃」
空中でエドワードの身体は拘束され、じわじわと締め上げられてゆく。
「ぐあぁ……あぁ……!」
「参ったなぁ、手駒が二つに増えないと、あの男が倒せないじゃないか」
四賀はそこで初めて、自分が師事した人間が危険だという事に気が付いた。
「……師匠、エド会長が苦しんでますよ……」
「そんなの、見れば分かるよ」
「だったらどうして止めないんですか!?」
「私にはある目的がある。そのためになら君達なんてどうでもいいのさ」
「じゃあ、私を助けてくれるのも――」
少女がフードを取り、そこで初めてその全貌をあらわにした。
ショートヘアに潰れた左目。そして死人の様に真っ白な肌。口元は笑みを作りだしていながらも与える印象は恐怖。
「……貴方は一体、何者なのですか……?」
「私かい? 私の名は――」
――エメリア=クレイドル。アダム=J=コーエンに復讐する者だよ。
突然の魔力の増幅を、箒にまたがりながらもハクトは感じ取っていた。そしてそれは何処か懐かしさを感じさせるものであった。
「……まさか――」
そう言っている間に、地上をもう一人の人影が魔力の出力元へと向かっていた。
おおよそ人が全力で走ってもその速さはおかしいと思えるほどの速さだったが、ハクトはその脚力の持ち主を知っている。
そしてハクトが感じ取ったのは、あるパーソンへの圧倒的な殺意。
「コーエン……ダメだ! そこに行っては――」
あの日を繰り返すだけだ――




