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認めるということ

 ――現代の魔法界には広く知られていない独特の言語が存在する。


 古くは散り散りに散っていたソーサラーは各自で独自の魔法体系を生み出しており、それは方言の様なものでも、外国語の様なものでもある。中にはすでに風化し消え去ったとされている言語も存在し、また今この瞬間にも消え行くものでもある。


 それらが指し示しているものの意味は我々が知る以外の、独立体系の魔法言語も存在していることも指している。


 その中には上級魔法など赤子同然と言えるほどの高い威力を持つ魔法も存在し、また独自の交信法による召喚も可能とするものもある。更にそれらはほとんどが解呪が不可能とされている(その理由もこの後の文章を呼んでもらうと察しが付くだろう)。


 ここではそれらをまとめて古代呪文エンシェントと定義する(狭義としての古代呪文とは大幅に違うではないか、と言いたそうな勤勉な人もいるかもしれないが、ここでは目をつむっていただきたい)。


 さて、ここまでおおまかな説明はしたものの実際に古代呪文エンシェントを学ぶことができる場があるのか? 答えはノーだ。


 ここまで読んだうえでそのようなことを書かれていてはこの本を閉じたくなるかもしれないが、どうか許してほしい。


 何故ならそのほとんどは一子相伝に近いものとされており、呪文を唱え、かつそれを知っているものでしか判別できないものもある。


 そして毎度のことでもあるが危険性の話だ。古代呪文はあまり知られておらず、故に本来なら禁呪に匹敵するものであったとしてもその判断から逃れ続けているものもある。故に全く聞きなれない呪文や見たことの無い魔法体系、魔法陣を見かけた際は要注意である。


 だが徐々に研究が進められて禁呪の登録も進んで着々と進められており、今から六百年ほど前、魔法界を震撼させたあの悪名高い守護縛鎖キュアーも禁呪として登録されている。


 それでも世界にはまだ見たことの無い魔法体系が確実に存在する。それらは危険ではあるのだが、我々魔法研究家の探究心をくすぐるものでもある。(魔ほろば出版「過去からの遺産」より内容を一部抜粋)





「――何だってんだよ……何だってんだよてめぇ!」


 サラの眼前に広がるのは、氷山だった。いや、氷山という言葉すら生ぬるい程の、いわば氷でできた隕石だった。


「ふざけんじゃねぇよ……! 一年風情が、こんな魔法を使っていい訳ねぇだろ……!」


 サラが今まで敵対した中で、これほどの呪文を使える者など一握りのはずだった。それがたかだか一年坊主に使われるなど、あり得るはずも無かった。


「くっ……!」


 サラはあまりの重圧に放心していたが、このままだとあの巨大な隕石にギルバート諸共押しつぶされてしまうことに気づき、顔つきを変える。


「……てめぇにはこれ以上使う気は無かったんだがよ……残しといて正解だったぜ」


 そう言ってサラはナイフを地面に突き刺し、そして残った三本の細剣でナイフを取り囲むように突き刺し三角形を作り出す。


「――火を讃えよ……炎を崇めよ! そして焔を贄に捧げよ! ――爆装暴撃ブルータルロア!!」


 その声に呼応した炎の剣は、そのむき出しになった殺意を、なんとサラ自身に向けた。


「がはっ!」


 まるで術者の血を啜るかのように剣の表面を血が伝う。地面は赤く染まり、その苦痛はギルバートの目に、うめき声がギルバートの耳に届いている。


 しかしそれを乗り越えた先には溢れる魔力と、焦げ付かんばかりの爆炎がサラを包み込んだ。


「――ゲームオーバーだ」


 やがて炎は合わせた拳に収束し、巨大な火の玉となって膨れ上がる。


「終わりだ!」


 拳をつきだし炎を撃ち出す。極限まで圧縮された炎が氷塊へと突き進んでゆく。


「無駄だ! 俺様の氷が、その程度の炎に――」


 打ち砕かれた。


 見事なまでに、残酷なまでに。その一撃は氷塊内部まで達し、そこで盛大に炸裂した。


 光で反射し綺麗に氷のかけらが散りゆくなか、ギルバートは唖然とした表情で目の前の出来事を見つめている。


「ば、馬鹿な……」


「……アホかてめぇ、これくらいのこと今までもあったに決まってんだろ」


 しかしそういうサラの息は上がっており、肩も上下に動いていた。


 自らを生贄に捧げる呪文など禁呪の一歩手前に等しい呪文だ。サラはそれを相手にとって不足が無いと認め、撃ったのだ。

 

「てめぇ、やりゃできんじゃねぇか。本番でもそれができるようにしとけよ」


 サラはそう言ってお腹を押さえながらもその場を立ち去ろうとする。あれだけの犠牲を払ったのだ、恐らくただでは済まなかったのだろう。


 ギルバートの方も既に満身創痍で、大杖を本来の使い方として寄りかかる様に立っている。


「……ごほっ」


 サラが再び口に溜まった血を吐き出していると、目の前に白い魔法陣が現れそこからサラのよく知る人物が現れる。


「おう、そろそろ交代の時間ってお前何してんの?」


「ぐっ、うるさい、関係ねぇだ――」


 しかしその返事を聞く前にエドワードはサラを抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。


「へっ?」


「会長ったらアタシを置いて何処に――ってあらあら」


 遅れて来た木在が状況を察したのかニヤニヤとしている。


「てめぇっ! みせもんじゃねぇんだぞ!」


「だってあなたそんなに顔が赤いとバレバレよぉ?」


「ちっ!」


「おう、木在もついたか。どうやらサラが久々に少しだけ本気を出したらしい。あそこにいるギルバートはお前が運んでくれ。それから訓練だ」


 エドワードは手慣れた様子で木在に状況を伝えると、木在は会長に言われた通りボロボロになったギルバートを見つけすぐそばまでより安否を確認する。


「仕方ないわねぇ……ほら、立てるかしら?」

「俺様を舐めんじゃねぇ……」


「そう言ったって満身創痍よ?」


 木在が肩を貸すと、ギルバートは意外にも素直に腕をよこした。


「まったく、アナタ達やり過ぎよぉ」


「しかしどうすっかなー、学長ぜってぇ怒るだろこれ」


 会堂が半壊している様子を見て、エドワードは大きくため息をついた。



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