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修行風景

 その日結局練習などすることも無く、四賀は寮で布団をかぶっていた。寮は二人一部屋であり、同室にいる人物として住良木が隣のベッド静かに眠っている。


 そして自分が何故ここに来たのか、なぜ魔法の才能が無いパーソンであるというのにここに来たのかの理由を考えていた。


「……」


 何の才能もない、パーソンとして特別頭がいい訳でも無かった。ただの普通の人間。四賀の全てはそれで表すことができた。そしてある時知った、魔法というもの。そして志願用紙を出し、折り返し家に届いた受験票。


 四賀はそれを持って、才能が無いが故に半分やけくそに名門校の受験を行った。そしてたまたま合格したが故にやる気に満ち溢れ、未知の魔法というものに胸を膨らませていた。


 そんな四賀がコーエンとパーソンとの間に昔深い溝があったことを知らなかったのだ。


 四賀が知っていたのは昔パーソンとソーサラーとの間でわだかまりがあったことぐらいで、今となってはそのようなことなど解消されていると思っていたのだ。


「……はぁ」


 入学してから初めて、四賀はパーソンという魔法族との違いに憂えた。思えばあの住良木ですらパーソンという言葉を使っていた。四賀はその時から違和感を持っていたが、それが今となってはよく分かる。


 それは表立ってなくても、未だにパーソンとソーサラーとの間にズレが生じているのかもしれないという事だ。

 

「……どうすればいいんだろう」


 四賀は悩んでいた。布団を頭までかぶり、うんうんと唸る。しかし答えは出てこない。


「……パーソンなのが悪いのかな」


 そして自己嫌悪に陥る。


「私がパーソンじゃなかったら――」


「そんなことは言っちゃダメだよ」


 四賀はそこで布団から飛び起きる。辺りをきょろきょろと見回しても誰もいる様子は無い。住良木も先ほどと変わらずすやすやと眠っている。


「……空耳かぁ」


 四賀が再び布団を被ろうとしたところで、もう一度同じ声が聞こえる。


「コッチだよ」


 四賀が声のする方を向くと、空いた窓の縁に座る、少女の姿があった。


「……誰?」


「私は君と同じパーソンだよ」


 妖しく微笑む者。四賀と同じくらいの年齢だが、素人目にも分かるくらいの実力を持っていそうな風貌をしている。


 フードを被っているためその表情は読めず、しかし口元は笑みを含んでいる。そしてその声と体の線の細さからから少女だと分かる。


「私が助けてあげるよ」


「助けるって、何を……?」


 少女は口角を更にあげ、まるで四賀を誘うかのように、耳触りのいい言葉を綴る。


「パーソンだから、魔法が使えないって思っているんでしょ? だったら同じパーソンである私が、魔力の引き出し方を教えてあげるよ」


「……魔力の……引き出し方……」


「そうだよ。君には溢れんばかりの豊富な魔力がある。けどそのカギの開け方を知らない。だから私が教えてあげるよ。魔力の解放方法と、魔法のただしい使い方を」


 その言葉は、師を失った四賀にとっては魅惑的な言葉でった。


「……私に……魔法の才能が……」


「開花させるもさせないも君次第。私について来るならそれを教えてあげる」


 そう言って少女は手を伸ばす。その手は透き通って美しく、まるでこの世のものとは思えない白い肌であった。


「……コーエンさんを、見返せるかな……」


 少女はコーエンw見返せるかという問いに対し、より一層笑みを濃くする。


「君ならできるさ……それを望めば」


 ――しばらく考えた後に四賀はその手を取り、窓から外へと飛び出した。






「――あーあ、てめぇまじ弱ぇ。話になんねぇよ」


「クソがっ! この『氷雪の貴公子』と言われた俺様が、手も足も出ないだと……!」


 次の日から訓練を行うと取り決めていた二人ではあったが、サラの方はというと欠伸をしては首を鳴らし、退屈そうにしている。一方ギルバートは魔力も底をつき、体力も無くなっている。


「ったく、期待させやがって、がっかりだよてめぇ。アタシに大口叩いた割には魔力の調節もなってねぇし……だからあのおっさんもアタシにぶつけてきたのか?」


 一人思案を巡らす中、ギルバートは残りの魔力を振り絞って杖にスパイク状の氷を纏わせフレイルのようにして振りまわす。


「スキ見せてんじゃねぇ――」


「あ? 余裕ってやつだよボケ」


 ナイフからバーナーの様に炎を吹きだし、それが空を切る。それがギルバートの最後の足掻きを見事断ちきってしまう。


「あ……」


「ほらな? 凝縮率もしょべぇから杖ごと斬っちまって――」


 ギルバートは真っ二つに会った大杖を前に膝から崩れ落ちた。予想外の反応にサラはきょとんとしたままその様子を見ている。


「……おばあちゃんからもらった杖が……」


「ハァ!? お前そんなツラしておばあちゃんっ子かよ!」


 ギルバートが使っていた杖は、彼の祖母が愛用していた杖でもあった。今回の入学祝として渡された杖故に、下層部で杖など買う事も無くやりくりをしていたのだ。


「……杖が」


「……チッ、杖ぐれぇで喚くな糞が! 大体――」


 ギルバートはサラの話を聞くことなく、二つになった大杖の互いの接合部分を引っ付け、凍らせることで修復する。


「……治ってんじゃねぇか」


「……ぜってぇ許さねぇ」


 それはいつもの様に最強であることを笑われた怒りではなく、純粋に大切なものを破壊されたことへの怒り。


 辺りの温度が下がってゆく。水たまりは凍結し、二人の姿を映し出す。


「……」


 サラは改めて構えなおした。それは今までの相手とは違う、魔力もつき、弱った相手を嬲るのではなく、構えを取らなければならないほどの相手だ。


「……やりゃあできんじゃねぇか」


 サラは目の前の敵に値する少年を、初めて褒めた。焼けつくような高温の刃を手にしてなお、サラの身体は震えている。


「……」


 サラはバーナーの様に燃えさかるナイフを鎮火し、改めて構えなおした。


「てめぇを改めて、敵とみてやる。そしてアタシに呪文を唱えさせたことを、後悔させてもやるよ」


 サラはナイフを両手で持ち直し、まるで祈るかのように天に掲げる。


「――あらがう炎、舞う炎神。その荒々しき舞を我が前に顕然せよ――」


 空間に一つ、二つ、三つ――次々と現れるは炎の細剣レイピア。その鋭い刃に纏うは赤々と燃えさかる炎。


「見せてやるよ、炎の真髄を――炎刃葬射ブレードストライク!!」


 六本の剣が、サラの周りを舞う。その一つ一つが先ほどのナイフの比にならぬほどの超高温を放っている。


「ほらよぉ!」


 そしてそのうちの三本を射出。ギルバートへと向かわせる。未だに杖を折られたことへのショックと目の前の敵への敵意にすべてを傾けている故か、ギルバートはそれに何の抵抗もすることなく切り裂かれる。


「ごほっ!」


 傷口が焼きつくように痛みを訴える。ギルバートの肉体にいくつもの新たな傷がつけられる。


「ほらほらぁ、早く対策歌ねぇと斬り殺しちまうぞ!」


 その言葉を受けてか、やっとギルバートが反撃を繰り出す。


 それはただ杖を横に振るうのみ。


 だがそれだけで十分だった。


「っ……!」


 全てを凍らせ、割る。いたってシンプルだがそれはサラのプライドにもひびを入れた。


「……それを壊したのはてめぇで二人目だ」


 そう、この魔法には絶対的な自信があった。中級とはいえサラの最も得意とする魔法、それがこの炎刃葬射ブレードストライクだった。


 しかしそれを打ち砕かれた今、サラはショックを受け次の魔法を撃ち出すことができなかった。


 その隙を知ってか知らずか、今度はギルバートが大杖を掲げ、静かに魔力を収束させる。


「ぜってぇ許さねぇ……」


 いつもとは違って、魔力は正確に杖の先に集まり始める。

 

 辺りがより一層冷え込み、サラの周りに残りの炎の剣が無ければ凍りつくようにも思えた。

 

 そんななかで、ギルバートは一人呟き始める。


「――ラ・ウラ・ギゴ・シャル――」


 それはサラの知らない言語だった。そしてそれが魔法の詠唱であるのかすらも分からなかった。


「――イラ・エゴ・エムル・ギルムンド――」


 しかし一つだけ分かることがある。それはギルバートの頭上に掲げられた氷雪の魔力が全て天へと向かい、それが巨大な魔法陣を展開していることを。


 幾度となく戦ってきたサラだけが分かることがある。


 ――それはこの呪文が、この場にあるすべてを上回っている事を。


「――轟天雹来天葬レストレイド


 それは美しき隕石とでもいうべきだろうか。巨大な氷の塊が、天を割って落ちてくる。そしてその瞬間にやっとサラはその呪文の指す意味を理解する。


「これが、俺様の最大呪文だ」


「――てめぇ、古代呪文エンシェント使いやがったな!」



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