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パーソン

「――さーて、まずはどうするべきか……」


 下層部には学校以外にも様々な施設もあり、こうしただだっ広く何もない空間を提供する施設すらある。


「……えーと、何もないですけど……」


 四賀がそう突っ込むのも無理は無かった。辺りには真っ白な空間が広がっているだけで、入口として使ったドアが遠くに見えるだけだ。


 コーエンはそんな四賀の問いには答えず、一方的に話を始める。


「まずは貴様が何故魔力を引き出せないのかが問題だ」


 ごもっともなことを言われるが、魔力を出せないことの理由は人それぞれにある。それゆえに魔力を引き出すという事は簡単には言えるがその実とても難しい事である。


「貴様は昔から魔力を出すようなことをしては来なかったのか?」


「私ですか?」


「貴様以外に誰がいる?」


 ハクトは外で待つようコーエンに言われ、しょぼくれながらも扉の向こうで待っている。となると必然的に残った四賀だけにその問いが向けられている。


「えーと……そもそも魔法というものを最近知ったばかりで――」


 ソーサラーに生まれ落ちたのなら、魔法を知らないとは口が裂けても言えないはず。それを魔法というものを知らないと言い切れるというところに、コーエンの次の問いの声色が変わる。


「……それはどういう事だ」


 明らかに疑惑と、さすれば敵意――殺意すら向けられるかのような眼光に四賀は口を閉ざす。

「どういう事だと聞いている」


 それは答え方を間違えれば死へと直結しかねないような問い。


 そしてコーエンにとっては目の前の存在が復讐相手へと変わるのかもしれない問い。


「……」


 四賀は意を決して、自らの素性を伝える。


「――実は私、パーソンなんです」


「……!」


 それはコーエンにとっては筆舌しがたい答え。そして明確ではないとはいえ殺意を抱くに値する答え。


「……パーソンごときが、何をしに来た?」


 それは昔のまま時が止まった状態のコーエンの問い。そしてそれは四賀にとっては現状で受け止められる問い。


「……分かっているんです。私たちは元々才能が無いってことを――」


「違うわ! 何故あれほど忌み嫌っていた魔法に、今更パーソンがすり寄ってきているのかの訊いている!!」


 コーエンの怒号は扉越しにでも響いたのであろうか、ハクトが慌てた様子で室内へと飛び込んでくる。


「コーエン! 一体どうしたんだい!?」


「どうしたもこうしたもあるか! 何故パーソンがここに居るのだ!」


 指さす先には、先ほどと変わって怯える少女の姿がある。


「……言ったはずだよ。パーソンとも交流を重ねて来て、昔とは違ってきているって」


「そんなことはどうでもいい! あのクズどもがすり寄ってきていること自体虫唾が走るわ!」


 事情を知らない少女は、ただ目の前で始めた殺意を向けられたことに怯えていた。


 もしこの場にハクトが来なかったならば、自分はどうなっていたのだろうか。四賀は想像するだけでも震えが止まらなかった。


「チッ、最初から分かっていればあのアーデルハイドの娘に俺の秘術を教えることもできたというのに、とんだザマだな」


 理不尽な侮辱、侮蔑。それが四賀にとっては怖かった。


「……俺は降りるぞ」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って――」


「じゃあな」


 最後に四賀を睨みつけた後、コーエンはドアに乱雑に閉め、その場を去る。


「……うえぇ……ひっく」


 初めて受ける、理不尽な怒り。四賀にとっては耐えられなかった。当の本人がいなくなり、四賀はそれまで我慢していた涙があふれ出す。


「……ごめんね。ボクが悪いんだ」


 学長は四賀をなだめるために背中に手を置く。


「……ぐすっ……どうして……パーソンが……」


「それには深い訳があるんだよ」


 学長はそう言って昔話を始める。


 遠い遠い昔の話だった。






「――ほら、今日も行くぞ」


「えぇー、僕はもういいよ」


「そう言いながらもついて来ているではないか」


 整備されていない山道。学校帰りであろうか、校章が付いた服のまま少年少女が仲良くとある目的地へと向かう。


 少年は温和そうな雰囲気を纏い、言葉とは裏腹の興味に目を輝かせている。そして少女はそんな少年を見て笑みを浮かべ、そよ風に長い髪をなびかせていた。


「ここに来て毎回思うんだけど、おじいちゃんもこんな森の奥にいないで一緒に暮らせばいいのに」


「ソーサラーとはあまり馴染めないのだろう。私たちは違うがな」


 自信満々な態度を取ってはいたが、最初は二人も年老いたエルフには警戒されていて、攻撃魔法を撃ちこまれたこともあった。


「ハクトが最初に挑発しなければ、ソーサラ―に対するイメージが少しはマシになったのかもね」


「フン、うるさいぞコーエン」


 黒剛ハクト。当時十四歳。コーエンより一つ下とはいえ、その気の強さからいつも弱気なコーエンを引っ張っていた。


 当然この日の放課後も自分の満足いくがままにコーエンを連れて、年老いたエルフの家へ授業を受けに向かっている。


「……おっ、今日は薬学のようだな」


 遠くにある煙突から灰色ではない煙を立ち昇らせている家を見て、ハクトは今日の授業内容を察し始める。


「薬学かぁ、僕はあんまり好きじゃないなあ」


 以前実験と表してコーエンが飲まされた薬品の中には変化する薬もあり、それを飲んだコーエンは三時間ほどヒキガエルに変化させられたこともあったのだ。


「まあ今回はそういう事が起きない様私からも釘を打っておこう」


「そうしといてよ……」


 とはいえヒキガエルに変化した貴重な体験をコーエンは邪険にしてはいなかった。思えばあの時慌てふためくハクトの姿を見て、自分がハクトにとって友達でいられていることが確認できたからだ。


 そうこうしている内に二人の足は家の前の扉でとまる。


「……いくぞ」


「……うん」


 木を叩く音を二回響かせ、扉の前でじっと待つ。


「……留守かな?」


「それは無いだろう。煙突からは煙が上がっている」


 相変わらず不思議な色の煙が立ち昇る中、突然ドアが開く。


「あの――」


「何じゃい!? 押し売りなら帰らんかい! ……って、お前さんらか」


 長い耳には独特のピアスをして、眉間にはしわを寄せた偏屈な老人が、二人の姿を視界に捉えた。




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