地獄の始まり
「――どうしよう」
四賀は悩んでいた。
トラウマを取るか、先生を取るか。
「ふむ、どうしようか」
それは住良木も同様であった。しかし住良木はそういった目線ではなく、どっちにすればより自分の力を伸ばせるのかという考えだ。
「とりあえず今の時点で自分と反対属性のものと組んでみろ」
その場を仕切らない限りは誰も動かなそうなのを見て、コーエンはそう言い放つ。すると先崎がまず先陣を切るため声を挙げる。
「じゃあ地属性の人おるん?」
「うちですけど」
先崎は猫耳の少女が返事をするのを聞くと、女の子が組む相手と若手喜びの声を挙げた。
「君は地属性やね?」
「そうですけど」
「猫耳美少女きたでぇー! わが青春にやっと春が――」
「うるせぇんだよナンパ野郎……本当はエドと組みたかったのに……ったく、氷属性は誰だぁ?」
小声で本音を漏らすサラの相手は、あの自称最強であった。
「ハンッ、俺様は別に組まなくても十分強ぇっつぅのに」
自信満々に手を挙げるギルバートの姿に、サラはどこか加虐心がそそられたのか声色が良くなる。
「へぇ……それはそれは楽しみだねぇ」
指を鳴らす姿に女らしさなど無く、残っているのは暴力的な姿。それを制するかのように、エドワードは横から注意する。
「あんまりいじめんなよサラ」
「わっ、分かってるっつぅの!」
「で、俺の相手は――」
「アタシです!」
そういうと妙に馴れ馴れしいのか相手が男だからなのか、木在がエドワードに飛びついてくる。
「そうだった……サシャ以外には闇属性こいつしかいねぇんだった」
「よかったわぁ、アタシの相手がエド会長だなんて、アタシこのまま死んでもいい!」
その様子を気に入っていないのはもちろんサラであった。既に手元のナイフが火を噴き始める。
「てめぇ木在よぉ、二年の分際で調子に乗り過ぎじゃねぇのかぁ?」
「あら先輩、そんなに眉間にしわを寄せちゃって、美人が台無しよぉ?」
「うっせぇんだよ!」
サラは嫉妬と怒りに任せて暴発槍を放つが、それを木在は笑顔で右手を前に出すだけである。
「――異重擂球」
木在の右手に現れたのは小型のブラックホール。しかしそれは暴発槍の炎を奪い取るのに十分だった。
木在はそのままナイフだけをキャッチし終えると、どこか不満なのか顔をしかめる。
「やっぱり詠唱破棄だとこんなものよねぇ」
「チッ、ムカつく野郎だ」
「……なかなかやるではないか」
コーエンはここに来てから才能あふれる者に会ってばかりである。興味の対象が増える中、ハクトは木在についての説明を始める。
「二年の木在千城だよ。あの子も七人の一人、闇属性に関する才能は人十倍以上あると言っても過言ではないね」
「そんなに凄い奴なら、『闇の一派』ものどから手が出るほど欲しいんじゃないか?」
「本人が『あの人たちファッションセンスが無いわ』って言って一蹴してるからね」
「なんだそりゃ」
「じゃあサシャちゃんはぁ、結局ロザリィちゃんと組むんですねぇ」
「まあ貴様なら私について来れるだろう」
サシャとロザリィは元々決闘でもチームだったため息も合うのだろう。そして現時点で残っているのは――
「残ったのはワタシと住良木さん、四賀さんに後はコーエンさんといったところでしょうか」
「つまり私か四賀さんがテオドール先輩と組むことになるな」
テオドールがどうしようか悩んでいたところに、まどろっこしくなったのかコーエンが口を挟む。
「面倒だ。俺とそこの娘が組めばよかろう」
「えっ!? 私ですか!?」
コーエンが指名したのはなんと四賀であった。四賀は自分を指さしまさかの指名に驚く。
「そうだ。どうせ貴様は恐らく魔力の制御から始めねばならんからな。生徒会の奴らにそれがうまく教えきれるとは思えん」
「心外ですね。ワタシも一応副会長の身なのですが」
「こいつは貴様の予想を上回るほど出来ていない。いくら悠長な貴様とて、痺れを切らすだろう」
「うぅ、何だか私の評価がボロボロです……」
「実際水晶玉での判別ができないくらいだ。魔力の放出が根本から出来ていない」
四賀の実情を知ると、テオドールもそこまでと予想できていなかったのか素直に手を引く。
「……ワタシもそこまで予想はできませんでしたね。ならばその子を、お任せします」
「つまり私はテオドール先輩と組むことになるのか」
「ええ。宜しくお願いします」
「こちらこそ、若輩者ですがよろしくお願いします」
グループ分けができたところで、四賀はコーエンの方を向いて気を取り直してこういった。
「不束者ですがよろしくお願いします」
「それ、別の意味に取られるからね」
ハクトが嫉妬か何かからか横から口を出してくるが、コーエンはそれを気にすることなくただただ口を大きく空けて笑う。
「さぁ……悪魔も逃げ出す特訓の開始だ……腕が鳴るわ……」
四賀は後悔した。トラウマの方がましだったと。




