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分岐点

「――学長、こっちの方には見当たりません」


「こっちも無いみたいです」


「ほんま、バラバラになったんちゃいますか?」


「ちゃんと探してよ! コーエンが、コーエンが――」


 崩れ落ちた一軒家。ハクトは両手を汚して、顔に灰をつけてある人物を探していた。それは先ほどまで生きていた人物。そしてハクトが知る限りこの程度ではやられるはずのない人物。


「ドラウグルスも消滅したようですし、もしかしたら彼に呪いが――」


「呪いに掛かるはずないじゃないか!」


「全く、ここまで取り乱す学長を見たのは初めてだぜ」


「僕もや」


 信号弾を見た先崎も加わり、探すべきものをキッチリと探す。それが生徒会に残された今の学長を支える唯一の手なのだ。


「やっぱり風天弾カレントバスターなんて使うべきじゃなかったんだ、他に方法があったはずなんだ!」


 悔やんでも悔やみきれない。ただそれだけがハクトの胸中にあった。


「一体どこに……」


 そう言っていると、まだ手をつけていないところが盛り上がり始める。木々を押しのけ、れんがを砕く音がする。


「まさか――」


「嘘やろ……」


「おいおい、本格的に化け物かよ」


 生徒会が口々に言う先に、大きな右手が顔をのぞかせる。右手は辺りの物を取り払い、本体が出れるようにかき分ける。


「――勝手に殺すな」


 ――そこには無傷の姿で立つ大男の姿があった。


「コーエン!」


「あぁー! 抱きついて来るなうっとおしい!」


 大の男に抱きつく学長の姿がそこにあった。その無邪気さ、笑顔は生徒会の誰も見たことが無い。


「……なんかよぉ、夫婦の仲睦まじい姿を見せつけられている気分だ」


「同感です」


「これは嫉妬するわぁ」


 それにしてもあの高度から落ちてどうして生きているのかは不思議でもあった。


「どうやって生き延びたの?」


「それを教えてやってもいいが、ここだと生徒会にも聞かれるぞ」


 禁呪の事を指しているのであろうが、約一名勘違いをしている者がいた。


「なんやなんや、大人二人で僕らに聞かれてはイケない話ってそういうコトなん?」


「バカかお前は」


 先崎バカはさておき禁呪の事は知られてはいけないと思ったハクトはその場を取り繕うため、仕事モードに切り替える。


「ゴホン……それにしてもよくドラウグルスを止めてくれた」


「まあな」


「ドラウグルスが何かしたんですか?」


 先崎は自分が取り逃がした相手の話となると真面目になり、事の真相を問い始める。


「あの後私達の前にも現れて勝負を仕掛けてきたがそれを私達が迎撃したのだ。すると奴は禁呪を使い、事もあろうにエドワードに呪いをかけようとしたのだ」


「呪い……」


 エドワードは呪いという言葉に異様な反応を示し、それはハクトにもコーエンにも伝わっていた。


「そうだ。それを防ぐため今回コーエンが体を張って止めてくれたのだが――」


「魂ごとぶっ潰した」


「……このような始末だ」


 魂ごと潰したというので三人の頭に浮かんだのは、目の前の大男がその手で握り潰すという物理的な想像であった。


「まあいずれにせよ、大まかな指標はついた」


 コーエンはこの一連の戦闘である推測を打ち立て、それをその場の皆に伝える。


「ドラウグルスを倒したことで『闇の一派』は二通りの手段を取ってくるだろう。一つはドラウグルスがやられたことにより下層部から手を引く。もう一つは逆にキレて突撃するパターンだな」


「ドラウグルスは先発隊隊長だったな……どっちにしろ、奴より強い者が来る可能性はある」


「そのためにだ」


 コーエンはそこで笑みを浮かべ、自らが練って自信ありげな策を言う。


「選抜メンバーで迎え撃つ。例の七人の子ども達とやらも含めてな」






 生徒会室。内装は洋風に仕上がっており、今は使われていないが暖炉もあってリビングなど内部にさらに部屋割りされている様は、六人なら共同で住めるのではないかと思えるほどの広さであった。


 というのも実際生徒会はここで寝泊まりをしており、各クラスの集会の時期以外はここを根城に仕事をしている。


 その生徒会室にはハクトにコーエン、生徒会の面々、そして四賀たち五人の新入生、そして何故いるのかロザリィと木在の姿があった。


 その内この場にいる理由を理解できているのは、先ほど『闇の一派』を迎撃した五人だけである。


「本来なら、生徒会長の席にわたしが座っていた筈なのだ!」


「それは無いと思うわロザリィちゃん」


 ロザリィの発言をいなめつつ、木在は周りの面子を見回す。生徒会に、例の五人組。その中に一般生徒の自分とロザリィがいるという不自然さを感じながらも、木在はその場を見届けることにする。


「それにしても、一体何があったんですか?」


 未だ状況を理解できていないうちの一人である四賀は住良木とともに、端の方でを組むコーエンの方へと向かうと問いを投げかける。


「コーエンさん、これは一体――」


「それを今から話す。重要な話だ」


 いつもより顔つきが厳しく、その場の緊張感を示しているかのようであった。


「で、あんたが指名してきた奴全員集めたわけだが、どうするつもりで」


 気づけばエドワードがすぐ近くまでよってきており、面子が揃った事を伝える。


「そうだな……全員注目!」


 生徒たちがざわめくなか、コーエンは自らに注目するよう声を挙げる。コーエンは注目が集まる中皆を見回す。


「……フン、不足無しといったところか」


「どういう事だおっさん、あたしら集めてどうするつもりだぁ?」


「――先刻まで俺達は、『闇の一派』と交戦していた」


 『闇の一派』という言葉に、その場の全員が静まり返る。流石に下層部でその名を知らないものはいないらしく、そして新入生の中ではその名に怯える者もいた。


「あ、あの凶悪な――」


「そうだ。あの凶悪なカルト集団だ」


「ひぃ……」


 イルーナの言葉に同調し、コーエンは更に話を続ける。


「そして今回、ドラウグルスを仕留めることに成功した」


「あの干物野郎、消えてせいせいするぜ」


 サラにとっても忌々し存在だったらしく、ざまあないと言わんばかりに吐き捨てるように言い放つ。


「だがドラウグルスを倒したことにより、更に強い魔導師が来る可能性がある」


「……それって――」


「まだ危機は去っていないという事だ」


 その場の誰もがざわめく。この下層部はドラウグルスですら十分なほどの脅威であったにもかかわらず、それ以上の実力者が来るとなると流石に下層部全域をカバーしきれなくなる可能性がある。


「そこでだ」


 全員を見回すと、コーエンは自ら考案した策を皆に伝える。


「二人一組、反対属性、上級生下級生で組んでもらうことで貴様らの魔法を鍛える」


「……どういう事だ?」


「具体的に言えば生徒会とそこのガキ共を組ませてチームを作る。一週間の訓練期間を与えた後、実践としてタッグで決闘大会を行う……最下位には罰も用意してあるから覚悟をしておけ」


「まって、アタシ達はどうなるの?」


「貴様らも生徒会と組んでもらう。文句は許さん」


「そういう意味じゃなくて、評判高い五人組はともかく、どうしてアタシ達がいるのかって事よ」


「……その理由は、いずれ分かることだ」


 意味深長な言葉をコーエンは残すが、ハクトはそれをごまかすかのように取って付けた理由を話す。


「まず、木在は二年生の首席であるから。そしてロザリィは、エドワードに次いで二番目に光属性にたけているからだ」


「何を言う! わたしの方が――」


「何か言ったか?」


「い、いいえ何も……」


 ハクトはすでに仕事モードとなっている上いつも以上にピリピリとしている。予言の七人を危険に晒す、この一点がハクトにとっての不満であった。


 しかしコーエンの説得に折れ、仕方なく見守ることにした。


「待ってください! 私達は七人で、生徒会の皆さんは六人。これでは一人余ってしまいます!」


「それなら心配することは無い。余った一人は俺と組む。それだけだ」


「えぇー……」


 二人組を作るというのはある意味悪夢だ。余った一人は先生と組むという事は子どもながらに恥ずかしい事である。


 そして今回反対属性とあれば火属性である自分か住良木、どちらか必ず余る。


「ちなみに水属性の生徒会の人って――」


「ワタシです」


 ニコニコと笑みを浮かべて微笑むのはテオドール。ある意味究極の選択となる。


「ど、どうしよう……」


 四賀は今、大きな分岐点に立たされていた。



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