瞬間劇
「――全員避難させたか?」
「はい。名簿で確認も済ませました」
最後の一人を魔法で転送し終えると、会長副会長共に大きく息を吐く。
「しっかし来ねぇなあの干物ジジイ。道草でも食ってんのか?」
「あるいは先ほどの先崎君の魔法で退散させられたか、ですね」
二人の目に焼き付いているのは、この下層部を覆う閃光であった。生徒を避難させている途中でもあったためか、その雷鳴に一部混乱も起きた。それを収束させつつも二人は天を仰ぎ、その術者であり生徒会の一員でもあるものについて思考を巡らせていた。
「暴風鳴慟に追加詠唱があったとはな……」
「ワタシも初耳です。もしかして自分で術式を組み立てたのでしょうか?」
「それは無理だろ」
「どうしてです?」
テオドールが疑問に思う中、エドワードは自信たっぷりにこう告げる。
「俺でも無理だから」
どこからそんな自信が出てくるのか思う反面、副会長はこの男で無理ならそうなのだろうという妙な納得もあった。
それほどの実力をこの青年は、今まで散々見せつけてきたからである。
「さてと、生徒の避難も終わったし、一応信号弾でもあげとくか」
「そうですね。先崎君と連絡がつきませんけど、信号弾さえあげておけば気づくでしょう」
信号魔法弾を挙げるためにエドワードは箒を構え、足元に白い魔法陣を展開し始める。
「――光珠」
天井にあるものと似た形であるが、その眩さは倍近くもある。その光球を上へと射出すると、辺りを照らし始める。
「これで影も減るだろうし、もし生徒が残っていたとしても場所も分かるだろうよ」
「影が減ることにより影追の心配もなさそうですしね」
二人はとりあえず誰かが気づく事に期待して、うち上がっていく光球を見届けていった。
「――! これはマズイ!」
その光球を見て、最初に声を挙げたのはハクトだった。黒いもやがかかったドラウグルスの魂は、もちろんその光球を打ち上げた主の方へと向かって行く。
「こういう時に限って打ち上げるとは……!」
「あの光の球は?」
「キミと戦った会長が、居場所を教えるために打ち上げたものだ! だが今はそれが逆に命取りになっている!」
更に箒の速度を上げドラウグルスに追いつこうとするが、それを突き放すかのようにドラウグルスは更に遠くへと先へと飛ぶ。
「このままでは――」
「ハクト!」
今まで後ろにいたコーエンが、ハクトの肩を掴んで前へ出ようとのめり出る。
「ちょっとコーエン! 一体何を――」
「詠唱破棄で箒に風天弾を使え! 後は俺がなんとかする」
「ちょっと待って! 詠唱破棄だと位置がぶれる可能性が――」
「ぐだぐだと唱える時間など無かろう! ……俺に任せろ」
コーエンに何か策がある事を察すると、黙ったままハクトは箒に手を当て、詠唱を始める。
「――風天弾!」
箒の掃く側に、巨大な竜巻が発生。うねりと大気の咆哮をあげると、箒の速度を極限にまで上げてドラウグルスの方へと突っ込んでゆく。
「コーエン! もう少しで追いつくけど――」
到達位置が大幅に右へとずれている。
「大きくずれちゃっているよ!」
「それはいい! あと何秒で追いつく!?」
そう言いながら、コーエンは箒の上に立とうとしている。
「! まさか――」
「あと何秒だ!?」
急速に距離は縮まり、ハクトの目測が組み立てられるより早くつきそうだ。
「! 今だ!」
「――オラァッ!」
それはハクトが予測していた通りだった。
コーエンは、魂だけとなったドラウグルスへと飛び掛かったのだ。
高度およそ二百メートル。そんなところから飛び降りるなど自殺行為に過ぎない。
「コーエン!」
ハクトの声が遠ざかってゆく中、コーエンはその右手でがっちりとドラウグルスを捉える。
「――捕まえたぞ」
掴んだ手から伝わる、ドラウグルスの絶望。それを知ってか知らずかコーエンはただニヤリと笑うだけ。
「地獄に突き落としてやる」
まるでドラウグルスを地面に叩きつけるかのようにしながら、コーエンは下へと落ちてゆく。
――数秒後、轟音と共に一つの建物が落下物により倒壊した。




