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生徒会そろい踏み

 サシャ=ドラグノフの持つ魔導具は革の手袋に靴である。そして彼女の得意分野は付呪であり、この学校内でも有名な付呪師として知られている。


 事実彼女は試合開始と同時に両手足に特殊な付呪を掛けた。


 ――異譚ヘレティック――という起点呪文から始まる一連の付加呪文である。


 彼女は上級生側にはハンデがつくという事を聞いていなかったため、いきなり上級呪文を唱えた。


 異譚から始まるその呪文は、唱えた者に魔人級の力を授ける闇属性上級呪文だ。そしてそれは、先ほどルーシャが披露していた運動能力をはるかに凌駕するほどである。


 ゆえに四賀達が知っているコーエンのその強さですら、太刀打ちできるはずがないと思われていたが――


「え、ちょっとありえないんですけど……」


「嘘だろおい……」


 その場の誰もが目を疑っていた。


「オラァ! この程度か生徒会!?」


「サシャちゃんだって頑張ってるんですよ……!」


 サシャとコーエンは、正面切っての殴り合いをしていた。


 互いの防護陣へのダメージを自らの身を以て防ぎ、そして切り返しに強烈な一撃を叩き込み合っている。

 

「……なんか一気に魔法がらかけ離れているような気がします……」


 そう呟いているのは四賀であった。常人の目では手先の動きなど見ることができず、ただ空を切る音と肉体を叩く快音が場内に響いている。


「うわぁ……いくらコーエンでもあれに対等に渡り合えるとは思っていなかったよ……」


 引き気味で呟いているのは、二階で観戦していたハクトであった。


 コーエンは守護縛鎖キュアーの影響で魔力を引き出すことなどできない。ゆえに彼女が裏で防護陣を唱えていたのだが、正直必要が無さそうである。


「……学長、一体何が起きているんですか……」


 イルーナがそう呟くのも無理は無かった。先ほどまできちんとした魔法の撃ち合いが行われていたのが、今や格闘選手権でも見ているかのように錯覚させる。


「……正直言って、ボクもよく分からないよ……」


 ハクトでさえも、ただ目で追うだけで必死だった。彼女は以前にサシャの付呪を見たことがありその際も驚異的な身体能力に驚いていたのであるが、コーエンはそれをまだまだ余裕といった表情で打ち合いを楽しんでいる様だ。


「――異譚ヘレティック――」


 サシャの両足に魔力が充填され、禍々しき黒のオーラで包まれる。


「――武闘トランプル!」


 蹴り技を主体としたサシャの攻撃が、コーエンへと向かう。延髄切りを皮切りに回し蹴り、膝蹴り、足払いからの顔面への一撃と様々にくりだすが、どれも全て余裕で受けられるかぎりぎりでかわされるだけであり、無駄にサシャの体力を奪っていくだけ。


「……おっちゃん実はものすごく強い?」


「実はというよりも俺は元々強い……それよりも戦闘中に無駄口を叩いている暇が貴様にはあるのか?」


 戦いの中で口を開くのは、魔法を唱える時か口に溜まった血を掃き出す時だけだ。


「ぐはっ!?」


 コーエンが乱暴に突き出した前蹴りが、サシャの腹部にクリーンヒットする。昼前であったためまだ胃には何も詰め込まれていないが、それでも何かを吐き出すかのごとく、だらしなく口を開いてしまう。


「……うぅ……ぐぅ……」


 胴へのダメージに思わず手が下がってしまい、顔面の防御が無くなってしまう。


 そしてその無防備な顔面に、渾身の一撃が叩き込まれようとしたが――


「ひぃっ……え?」


「……これは試合だ。殺し合いではない」


 サシャの前に出ていた防護陣だけを打ち破ると、コーエンは四賀達の元へと戻っていった。


「……す、すごいですよコーエンさん! 一体どんな魔法を――」


「最初の防護陣プリヴェント以外俺は一切使っていない」


「ではなぜあれほどの付呪と渡り合えていたのですか?」


「体を鍛えればあれくらい造作もない」


「いや、キミだけだと思うけどね……」


 ハクトですら引き気味になりつつも、自分の古くからの知人の強さに素直に感心していた。


「本当に、キミは強いね……」


 ハクトがそう呟いていると、後ろから人の気配がする。そこで振り向いたところ、そこでは現生徒会のそうそうたる面々がその試合を見届けていた。


「なんやなんや、サシャちゃん負けてもうたんかいな」


 生徒会書記、先崎さきざき良磨りょうま


「けっ、だらしねぇやつだ」


 生徒会庶務、サラ=アナスタシア。


「まあまあ、彼女をそう責めることもないでしょう」


 生徒会副会長、テオドール=クーガー。


「んだな。うちもそう思うべ」


 生徒会会計、茶木下さぎした柊子しゅうこ


「いずれにせよ、もう一人生徒会の誰かが戦うしかねぇか」


 そして生徒会会長、エドワード=ヴィクター。


 誰しもがコーエンの実力を見て賞賛するとともに彼への興味がわいていた。


「で、だ。誰が戦うんだ?」


「僕は嫌やで。あんなむさいおっさんと戦おうなんて僕怖気が走りますもん」


 先崎が開口一番に明確な拒否を示していると、眼鏡をかけてそばかすをつけていかにも田舎娘といった風貌の茶木下も首を横に振る。


「うちもそんなグーでの戦闘ができるタイプじゃないべ」


 エドワードは次にテオドールの方を向くが、彼も同様に拒否を示している。


「ワタシもあのような邪神的な強さに憧れはしますが、対立はしたくありませんねぇ」


「まぁ、サラが行くとこの会堂が吹き飛ぶ可能性もあるしな……」


 エドワードは最後に問題児に聞く前に自分から答えを出してしまうが、サラはそれに不満なようでエドワードにたどたどしくも反論を返す。


「で、でもあたしも最近は調節できるようになってきたし――」


「まあお前はサシャより強いかもしれねぇけどよ、中途半端に強いせいでそれであの人を本気にさせて、お前に怪我でもさせちまっても不味いだろ? 」


「お、おぅ………………怪我……させたくないって……」


 サラが顔を赤らめて俯いていると、エドワードが具合でも悪くなったのかと訊くが、先崎はそれを聞いても意味は無いと言わんばかりに話に割って入る。


「つ、つまり会長はんはあの人の本気のお手並みを拝見したいんやな?」


「まあ……そういう事になるな」


「なら会長はんが戦えばええやん」


 先崎がもっともなことを言うと、テオドールもそれに頷く。


「そうですね。貴方なら彼を本気にしたとしても真っ向から立ち向かえそうなのは会長さんぐらいでしょうからね」


「俺か? 俺あの人苦手なんだよなぁ」


「何か揉めたんか?」


「いやそういう訳じゃねぇけどよ……」


 茶木下が訊いているなか、学長が会話に割って入ってくる。


「キミ達、コーエンに興味があるのかい?」


「学長、あの人とは知り合いなのですか?」


「まあ昔の知人でね。彼は常に魔法を学ぶことにどん欲だから、今回ボクの学校に入ってもらってさらに魔法について学びたいんだってさ」


 学長が軽い口調で話す内容で、エドワードはコーエンの強さに納得をする。


「学長の知り合いなら強くて当たり前か」


「そうですね。あの黒剛ハクト学長の知り合いなら無理もありません」


 テオドールが会長の言葉に同調する。


 以前生徒会は五対一で決闘をしかけたことがあった。


 その相手は黒剛ハクト。なんと彼女は一人だけで全国決闘大会優勝チームである生徒会を相手に五人抜きを難なくやってのけている。


 その彼女のお墨付きとなれば、その強さも納得がいくのであろう。


「まあ、キミ達も最後の一年間だけかもしれないけど、彼と仲良くしてやってくれ」


 学長との会話でコーエンとの決闘をする気はなくなったものの、エドワードの胸中にはまだ彼への不信感と違和感が残っている。


「……まあそれは、あの人次第でしょうよ」



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