緊急事態
――決闘も無事終わり、その場も新入生側の勝利で決着したかのような雰囲気に包まれる。
「やった! 勝ちましたよコーエンさん!」
「そうだな」
「すげぇじゃんおっさん。流石の俺様も見直したぜ」
「ならばもっと見直せる様俺と戦ってみるか」
「それは遠慮しとくぜ……」
自称最強がビビっている間に、コーエンは二階の生徒会の面々の方を向く。その中には使徒会会長であり、『勇敢なる翼竜』の一員でもあるエドワードの姿があった。
「……」
コーエンが黙ったまま視線を送っていると、エドワードもそれに気づいたのかやれやれといった表情で二階から飛び降りてくる。
「……俺に何か用で?」
「貴様さっきから見ていただろう?」
どうやら戦闘だけに集中していたわけではなく、キッチリと二階の方も見ていたらしい。エドワードは特に誤魔化すわけでもなく正直に告げる。
「確かに見てたぞ。あのサシャを圧倒するとは大したもんだと思っていたところだ」
「ククク……それだけか?」
コーエンは何かを見透かしているかのように笑い声をあげる。エドワードはコーエンにすでに悟られていることからそれを否定もせずにただ黙っているだけである。
「貴様も一戦交えたいと思っていただろう?」
「……まあ、上級生として、生徒会として新入生に負けるわけにもいきませんからね」
それを聞いていたサシャは頬を膨らませ抗議をする。
「何かサシャちゃんが負けたことがダメだったんですかぁー?」
「違ぇよ。この人相手に勝てる生徒なんざこの学校の一握り位だろ」
「その一握りの中にわたしも含めてだな!?」
いつの間にかロザリィがすぐ近くまでよって自信満々にない胸を張っている。しかしエドワードはこれをバッサリと切って捨てる。
「お前は無理だ」
「な、何だとー!?」
ロザリィが不機嫌になっているが、それをフォローする訳でも無くそのまま放置してエドワードは話を続ける。
「この生徒会の中でも、ほとんどがあんたには勝てないだろうよ」
「……ほとんどという事は、勝てるやつがいるということだな?」
その言葉と同時に、その場が一触即発の雰囲気に包まれる。
「……まあまあ、二人とも落ち着きぃや。喧嘩せんと仲良うやろう学長から言われたばっかやろ?」
先崎がそれとなくその場を取り繕うとエドワードをいさめ、エドワードもそれに乗ってなんとか戦闘にならないようにした。
「……確かにそうだな」
エドワードはそれだけを言うと、目の前の大男にこれ以上関わりたくない様でその場を立ち去ってゆく。
「……おいおい、今更尻尾撒いて逃げるつもりか? 生徒会長もこの程度とはなぁ」
それは背中を向けたエドワードへの、最大限の挑発となりえる言葉であった。そして周りにいたサラにも。
「会長を馬鹿にすんなぁ! ――暴発槍!」
先ほどの比にならない火力でナイフが振るわれるが、それは会長自身によって止められることになる。
「なっ、か、会長どうして――」
「俺に売られた喧嘩だ。それに言っただろ? お前じゃ怪我するって」
そういうとエドワードは箒を持ち出し、会堂の中心に足を進める。
「全く……ああ言われちゃやるしかねぇか……決闘形式でいいよな?」
「俺は何でも構わん」
コーエンとエドワードが対峙する。互いに百パーセントの防護陣を張り、形式にのっとって数歩後ろに下がる。
思わぬカードに、壇上の司会も声を白熱させる。
「な、何と! あの生徒会会長と、新入生が決闘を始めるようです! ハンデは一切なし! つまりこの試合に勝った者こそが、学園で最強となるのです!」
「何!? 最強だと!?」
ギルバートが最強という単語に反応するが、四賀がそれを引きづって試合場の外へとだす。
「はいはーい、自称最強はお呼びじゃないんですよー」
「うるさい! 俺も参加――」
「では、試合開始――」
それと同時に、会場に衝撃波が走った。誰もが言葉を失い、誰もがそのまばゆい閃光に目を覆った。
「――やるじゃねぇか」
「あんたこそ」
右手と箒で鍔競り合う。互いにまだまだ余裕といった表情ではあるものの、エドワードはそこからまた距離を取って本日最大級の呪文の詠唱を行う。
「――天よ怒れ! 地を砕け! 我が仕える神の御業を、愚か者に轟かせろ! ――天廊崩幻柱!」
先ほどの天光烈火など、今から起こることに比べれば子供の遊びに過ぎない。それをその場にいる者が今から思い知らされることになる。
「――っ!」
まばゆい光が会場を照らし、幾千もの光の柱が天から降りてくる。
地鳴りとともに、閃光とともに。破壊とともに、絶望とともに。
「――裂け! 貫け! 天の威光は我にあり! ――集天裂光弾!」
更に光は地を這うように床を引き裂き進み、相手の逃げ場をなくして行く。
「――あちゃー、会長はん最初っから飛ばしてまんなぁ」
「ていうより、内心めちゃくちゃ怒っているべ」
「まあ久々に全力を出すに値する人だったという事でしょう」
そう言っている生徒会の面々は、先ほどまで下にいた四賀や司会の人達を二階へと避難させていた。
四賀は苦手としていたテオドールに助けられているようで、気味の悪さと感謝の気持ちが入り混じっていた。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ……そう言えば、貴方は今朝ワタシと話していた人ですよね?」
「そ、そうですけど……」
「決闘部なんてこのように危ない所です。ぜひワタシのいる邪神同好会に――」
「あっ、コーエンさんがあそこにいる!」
四賀の話題そらし通り、コーエンは光の爆撃のなかで立っていた。
「――さて、本気を出すか」
光の暴風雨の中、再びコーエンの姿が消える。
そしてひときわ大きな地鳴りが起きた後、光の暴虐ショーは無くなり代わりに戦っている二人の姿が見えるようになる。
「ふむ、なかなかやるようではないか」
「あんたこそ、流石は学長の知り合いって感じだな」
コーエンの右腕からはとめどなく赤い血が流れている。そして対戦相手であるエドワードは頬に痣を作った状態で、片膝をついている。
「まだできるであろう? 防護陣はまだ働いている」
「あんたこそ、防護陣より自分の身体を傷つけるとか頭おかしいんじゃないのか?」
お互いに皮肉を言いながらも、再び構えを取る。
「さあ、勝負の続きと――」
行こうとした瞬間に、学校の警報装置のベルが会場内に鳴り響く。
「緊急警報発令! 学園内の生徒は速やかに寮内へと避難してください」
「一体どういうこった?」
その場で立ちあう二人に水を差すように、緊急警報が鳴る。それは学園内に異常事態が発生したことを告げる。
「テオドール! 何が起きている!」
テオドールは手元の携帯端末で外部のものと連絡を取ってる様であり、その連絡が終わると生徒会に出動命令が下りていることを告げる。
「どうやら下層部に『闇の一派』が侵入したようです」
「ちっ、最近来ないと思った瞬間にきやがって」
「今回対応としてここの生徒会及び他の学園の生徒会も応援が要請されているようです」
それを聞いていたハクトはコーエンの元へと近寄る。
「どうやら予言が当たったようだね」
「それはどうだか」
「今回はただの先兵みたいだけど、コーエンも来るかい?」
ハクトの提案にしばらく黙ったあと、コーエンは先に四賀達を見てから口を開く。
「あいつ等をどうにかして隠しておかなければなるまい」
「大丈夫だよ。既にウチの生徒会が動いているから」
「ではワタシと先崎君、そして会長が先に向かいましょう。サシャさんと茶木下さん、サラさんは学園内の避難活動を済ませてから合流してください」
「分かったべ。じゃあ『心優しき狐』のみんなはうちについて来るだ」
「『狡猾な猫』はサシャちゃんにー」
「『勇敢なる翼竜』はあたしだ。さっさとこねぇと置いていくからな」
「おいおいちゃんとしてくれよサラ」
「わ、分かってるっつーの!」
それぞれが持ち場を決め、既に行動に移っている。
コーエンはそれを見て納得したのか、ハクトに向けて改めてこういった。
「……付いていってやろう。その『闇の一派』とやらに興味がわいてきた」




