応用
「――さあ、第二回戦開始となります!!」
先ほどと同様、ルーシャと上級生は防護陣を張って立ち合っている。
上級生は先ほどを踏まえてルーシャを警戒、まずは相手の魔法の出方を見ている。それに対しルーシャは耳を数回ピコピコと動かして相手をじーっと見ているだけである。
「……どうかしたか?」
流石に何もせずにじっと見られているだけでは上級生もどうすればよいのかわからず、つい声を掛けてしまう。
「何でもないですよー……じゃあ行きますね。――豊かなる大地よ、その大らかな守りを分け与えたまえ―― 武装蔓刃!」
るーしぇの両手足に絡みつくように地面から植物の蔓が伸びる。
コーエンはその様子を見て感心していた。
「……付呪か。確かに亜人――獣人の場合は元々の身体能力が高い。ゆえに付呪をすることでよりその強靭な身体をさらに強化するというのは面白い考えだ」
しかし住良木はそれに納得がいかない様でコーエンに異を唱える。
「付呪で、しかも下級呪文では近づかれない様遠距離魔法を撃たれたら一方的にやられてしまうのでは?」
「……言ったはずだ。亜人は元々の身体能力が高いと」
上級生は住良木の言う通り付呪を見た途端距離を取り、そこから魔法をしかけ始める。
「――数多の光に仕えるものよ、その天上の光を以て我が道を照らしたまえ――天候烈火!」
遠距離からの光の矢が幾重にも飛んでくる。しかしルーシャはそれを見ても動じる事無く、ゆっくりと足を曲げかけっこでもするような構えを取る。
「よーい……どん!」
瞬間――ルーシャが皆の視界から消える。
そして次の瞬間には空気が揺れる音とともに上級生の目の前まで接近している。
「速い!」
「蔓の一つ一つを筋繊維のようにして巨大な筋肉を作り出している。その状態で動かせば、あのような瞬間移動に近いことは可能だ。まあ俺の方がまだ速く動けるがな」
自分の知らない魔法の応用に驚くとともに住良木はまだまだ自分が未熟だと改めて思い、そしてこの学校でこの男に会えてよかったと思った。
魔法は難易度で決まるものではない。使う人によってその真価は発揮されるのだと。
二人が話している間にルーシャは腕に絡みつく蔓を振りほどき、防護陣に鞭を振るう要領で叩きつけ、一撃でこれを粉砕する。
「勝負ありー! またしても新入生チームが勝利をもぎ取りました!」
「やったよおっちゃん!」
「なかなかやるではないか」
魔法を解除したルーシャが、コーエンの元へと戻ってくる。
「……魔法が弱くても、術者次第で十分強くなる、か……なるほど」
「でもよぉ、なんだかんだ言っても結局魔法は強いやつを唱えた奴が勝つと思うけどな」
ギルバートはコーエンの話を横から聞いてらしいが、住良木が出した答えに対し文句をつける。
「俺みたいに、不安定でも中級魔法を撃った方が確実に強ぇと思うんだけどよ」
「でも不安定だといざという時のどうするつもりなのだ?」
「うっ……それはだな……」
「そこまで考えてないから自称最強なんですよ」
「うるせぇ!」
新入生サイドが騒いでいるなか、上級者側もロザリィを中心に揉めていた。
「一体どうするつもりなのだ!? これではわたしに回る前に負けてしまうのかもしれんのだぞ!」
「め、面目ない」
「けどロザリィちゃん、あの子達も結構できると思うのよ」
「うるさい! 負けは負けだ! 言い訳無用! こうなったら、三人目とわたしが入れ替わって――」
「何なら変わりましょうかぁー?」
ロザリィのすぐ後ろからけだるげな声が聞こえる。
「誰だ? って貴様か! おっぱい女!」
ロザリィが振り向くと、そこには相変わらず目の下にくまをつくっているサシャの姿があった。
「あら、アナタ久しぶりね」
サシャは木在の方を向くと、重力に任せるかのように頭を下げて一礼をしてあることを訊く。
「サシャちゃんまだこのチームに補欠枠で登録してませんでしたー?」
「登録してあるわよ?」
「ならサシャちゃんが出ますよー」
そう言うとサシャは本来三人目になるはずの生徒をみて、にやりと笑う。
「てことで退場してくださーい」
その言葉を放つと共に、生徒の足はまるで底なし沼に足を突っ込んだかのようにどろどろと沈んでゆく。
「ま、待て! これは――」
「はい、バーイバーイ」
サシャが手を振り終えるころには、生徒は完全に闇へと沈んでいった。
「……アナタちゃんとしたところに繋いでいるんでしょうね?」
「サシャちゃんを疑っているのですかー?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「まあここまでしてサシャちゃんが負けたとしても、次は会長が興味を持ってるからねー」
サシャの言葉に、木在は驚いていた。
「てことは、生徒会チームが――」
「来るかもねぇ」
そう言い残すと、サシャは試合の場へと足を進める。
新入生側で三番目に出る予定だった四賀は、自分の相手が変わっている事に驚いている。
「なんで生徒会の人が!?」
「何かお腹痛いみたいなんで、補欠でサシャちゃんが出ることになりましたー」
「えぇー!? わたし絶対勝てる訳ないじゃないですかー!」
「そういうなら、そっちも代わっていいですよー。例えば……あのおっちゃんとか」
サシャがニヤニヤしながら指差したのは、まぎれもなくコーエンであった。
「せっかくの指名だが、俺は残念ながら最後に出る。お前はそいつと戦うことだな」
しかし四賀の方はそれに対して異議があるようだ。
「こんな人と私まともに戦えるわけないじゃないですか! 代わってくださいよ! それともコーエンさんも自信ないんですか!?」
「そうだそうだー」
「って……サシャさん何をしてるんですか……」
流石にここまで言われて黙っているわけにもいかず、コーエンは大きくため息をつきながらその重い腰を上げる。
「はぁ……まあちょうどいい。貴様らにレクチャーしてやろう」
コーエンは首を鳴らし、指を鳴らしてサシャの前に立つ。
「極端な話を言えば、魔法使いに魔法など必要ないという事を」




