初戦
「みんな大丈夫かな……」
六人の中での唯一の平和主義者であり、小心者でもあるイルーナは二階から決闘の様子を観戦していた。
決闘は五人組で行われるようであり、コーエンたちのグループでは一人余ってしまう。
イルーナはその際に自ら辞退をして、今ここで観戦をしているといった様子であった。
一階では既に椅子等片づけが行われており、障害物は一切ない広場となっている。そんななか二人の選手が決闘の真っ最中であった。
「うわっ……痛そう……」
対戦相手の氷の槍が、防護呪文を突き抜けて膝に突き刺さる。刺さった男の方は苦痛に顔を歪め、放った相手の方もどうすればよいのか事態の収拾ができていない状態である。
「……だから僕は嫌だったんだよ……」
イルーナは一人呟いていた。昔から痛い事、辛い事には向き合いたがらないこの少年は、一階で悲鳴を上げる男に同情しつつもため息をつく。
「……はぁ」
「どうしたんだい?」
「え? うわぁっ!?」
気がつくとイルーナの隣に学長がニコニコとした表情で座っていた。学長は下で騒いでいる選手を、まるでいつもの事であるかのようにニコニコとしたまま見つめている。
「た、助けなくていいんですか……?」
「んー? ああ、あれくらい回復呪文を打てばすぐ治るよ」
「が、学長はそれをしないのですか?」
イルーナの問いを、ハクトはケラケラと笑い飛ばして答えを返す。
「アハハッ、あれくらい自分で治せなきゃ決闘部にいる意味が無いよ」
「で、でも――」
「まあまあ、キミも見てなって」
しばらくすると男は自らの足に杖を向け、氷を溶かして傷口を塞いでいる。相手の方もそれを見てホッとした様子で、医務室に付き添うように行くようである。
「……よかったぁ」
「キミは優しいんだね」
胸をなでおろしてはいながらも、イルーナは小さな声で学長に反論する。
「……優しいんじゃないです」
「? どうしてだい? キミは彼の怪我を心の底から心配していたんじゃないのかい?」
「……昔っから、僕はこういう争いごととか、傷つく事が嫌いなだけです」
「……そっか」
学長が再び前を向きなおしていると、そこでは大男を含む五人が入場する姿が見えた。
「……あっ、コーエン達が入ってくるようだよ」
なぜか不機嫌そうなギルバートを筆頭に五人が一列に並ぶ。その中に木在の姿は無く、反対側から入場してきたグループの中の方に並んでいる。
そしてその中には、『勇敢なる翼竜』の寮監様の姿もあった。
「おい変態! ロザリィ様の足を引っ張るなよ!」
「あらアナタ、それはあたしに勝ってから言いなさいよ」
「なんだとーっ! 下級生の癖に生意気だぞっ!」
「……あいつは反対側にいるようだな」
「てかなんで俺様が先鋒なんですかねぇ?」
「そりゃあなたが最初に負けたからでしょ。住良木さん、勝てますかねー?」
「分からん。ただあちらの方は手加減をしてくれるらしいから、今回は胸を借りるつもりで行こう」
騒がしいロザリィは四番目に、そしてコーエンと木在が同じ最後の順番に並んでいる。これから予想できることは、コーエンと木在があたることを意味している。
そして四賀と住良木が言葉を交わしていると、壇上の方からマイクの音が響く。
「――では今から上級生との体験試合を行います! ルールはいたってシンプル! 試合開始後、相手の防護呪文を剥がしたほうが勝ちとなります! そして先に三勝したチームの方が勝利となります! 追加ルールとして、上級生はハンデとして防護呪文の半減及び下級までの呪文制限とします!」
司会の説明に対し、不満を呟く者がいた。
「おいおい、俺様の実力からしてそれはいらねぇだろ?」
ギルバートが指を鳴らして会堂中央へと足を進める。横線がひかれたところで足を止め、自らに防護呪文を付加する。
「――防護陣」
風属性初級呪文。しかしながら魔力の調節次第でその強度は上級にも匹敵すると言われる防護呪文。それを唱え終えると、ギルバートに従うように魔法陣の盾が現れ始める。
ギルバートが唱え終えたところで、反対側から出てきた男が同様に呪文を唱える。
「――防護陣」
相手の魔法陣は、ギルバートが生み出したものの半分の薄さとなっている。
「――では、試合開始!」
合図と同時に、ギルバートは大杖を天にかざす。
「――大気よ荒ぶれ! 水よ怒れ! ――雹霊弾!」
天井に巨大な青の魔法陣が現れ、そこから大小様々な大きさの雹が降り注がれる。そしてそれらが上級生の方へと向かってくるではないか。
「!? 今年の一年はばけもんかよ!」
上級生はギルバートが唱えた呪文に驚いている。まさか新入生の中に中級呪文を唱えられるものなどいるとは思っていなかったからだ。
上級生の唱えた防護陣がオートで頭上へと向かって行き、雹からその身を防御する。
「不味いな、このままでは押し切られるか……!」
上級生の言う通り、防護陣は徐々に薄れて行き今にも突破されそうである。
ビキビキとひび割れるような音が、どんどん大きくなってゆく。
「ハッハー! 俺様の勝ちだ!」
ギルバートの勝利宣言とともに、最後の雹が防護陣を破壊した。
「しょ、勝負ありー! まさかのまさかの!? 早くも新入生が一勝目を挙げましたー!」
「ハッハー! 俺様を讃えろ! 崇め奉れぇ!」
「それは無いでしょ」
「うむ。相手にハンデがあった上、中級呪文を使われるなど予想外のはずだ」
「さらに言えば、貴様のその中級呪文も不安定なものだったがな」
「ずるいよね。中級使うとか」
「うるせー! 素直に喜べよお前ら!」
ギルバートがまずは勝ち取った一勝目を、相手側の木在は驚いた様子で拍手をする。
「あらあら、意外ねぇ」
「貴様っ! 何を負けておる! それでも『勇敢なる翼竜』の一員か!」
「でもあの子達も翼竜よ?」
「うるさいうるさいうるさい! 次にいくぞ!」
一勝目を手にした新入生チームの次鋒として、次に前へと出たのは耳をピコピコと動かす少女。
「おじちゃん、行ってくる」
「ああ? まあ適当に頑張れや」
ルーシャはコーエンの方を向いて手を挙げると、コーエンもそれに適当に返す。
「うん。行ってくる」
「……あの子、コーエンさんに結構話しかけますね」
「知らねぇよ」
そう言いつつも彼女の実力だけは、コーエンは気になっていた。
「さぁ、亜人の実力を見せてもらおうか」




