対面式
――『勇敢なる翼竜』専用の別館。寮代わりにもなっているこの別館は、各組ごとに城内に設置されている。そしてここ『勇敢なる翼竜』の別館内にある大部屋は、天井中央に大きな光球が照明としておかれており、それを守るかのように飛び回る翼竜の姿が描かれている。
そこでは四賀達六人を含む新入生と、在校生の対面式及び寮の説明会が行われていた。新入生と上級生が向きあうように座っており、その中には例の生徒会長の姿もあった。
「……あっ、エド会長発見」
「どこだ?」
「前から三列目の右から五番目ですよ」
そこには整然とした姿勢で座っているエドワードの姿が見えた。相変わらず左目は閉じたままであるが。
「そのようだな」
「……その隣見てくださいよ」
左隣では、サラが同様にきちんと座っているが、その視線はエドワードの方をちらちらと見ては、伏せる顔を赤くしているといった様子である。エドワードはそれに対して特に反応をするわけでもなく、ただ黙って新入生側の方を向いている。
「あの人か……何故ちらちらよそ見をしているのだ?」
「……あぁ、住良木さんはそうでしたね」
「?」
住良木とエドワードの鈍感さを再確認したところで四賀は前を向きなおす。すると一人の小さな少女が、新入生と在校生との間に割って立っていた。
少女は四賀達新入生よりも身長が小さく、その見た目は中学生、下手すれば小学生にも思えるほどであったが、自信満々に中央に立つ様を見ると学校を間違えてはいないようだ。
「えー、コホン!」
少女は仰々しく咳をする。新入生はその様子に緊張し、在校生はまたかと言わんばかりの退屈そうな顔をしている。
「新入生しょくーん! まずは入学おめでとう!」
声まで幼い少女は偉そうな口調で新入生を迎え入れる。
「わ・た・しが! ここ『勇敢なる翼竜』代表であるロザリィ=グリターだ!! 新入生諸君は敬意を込めて寮監様と呼ぶがよい!」
私立月陽学院では代表が寮監を務めるようで、その代表は生徒から選ばれている。つまりこの少女の見た目は小学生でも、中身は高校生という訳である。
「――わたしの言う事を聞かないのならば、この寮から、ひいては月陽学院から出て行ってもらうぞ! 分かったな!?」
少女の発言に対し新入生はビクビクと震えだし、在校生はあきれ返り大きなため息が飛び出始める。開口してすぐにこの問題発言を発した寮監を見兼ねたのか、事態の収拾を図るためエドワードはその腰を上げる。
「……大丈夫だ。俺がいる限り新入生から退学者を出すつもりは無い」
立ち上がる生徒会長の優しい言葉に新入生側から安堵の声が漏れるが、それを聞いて不満の声を挙げる少女もいる。
「エドワード! 貴様! 寮監様に何て口を利くかぁ!?」
寮監様はご不満の様子であるが、エドワードはいつもの事なのか半ばあしらうかのごとく寮監の意味を説明する。
「あのなぁ……寮監ってのは生徒の安全を守る者であって、生徒を支配する者じゃないって去年の秋から言ってんじゃねぇか」
「う、うるさいうるさいうるさい!」
おもちゃでも取り上げられたかのような駄々っ子ぶりに、在校生一同やれやれといった雰囲気を醸し出している。新入生等はその雰囲気から退学は本当にないのだと察して少し緩やかになっていた。
「大体貴様さえいなければ、今頃わたしが生徒会長だっただぞ!?」
「誰が生徒会長だろうと関係ないだろ?」
「うるさい! 貴様はそうやって毎度毎度美味しい所を持っていく! それが前々から気に入らなかったのだ!」
そういうとロザリィは杖を振るい、攻撃のための呪文を唱える。
「――数多の光に仕えるものよ、その天上の火を以て我が道を照らしたまえ――天光烈火!」
光の矢がロザリィの上に召喚され、その全てがエドワードへと向かって行く。
「あ! エド会長、危ない!」
四賀を含む新入生等は突然の呪文に驚きエドワードを心配するが、当の本人は全く構える様子など無く、ただ口元で何やらボソボソと呟いている。
その意味するものは、この場において一握りしか理解していない。そしてその理解者の中に、コーエンの姿もあった。
「……解呪か………………ん?」
エドワードの目の前まで迫っていた光の矢は、目の前で突如消え去った。エドワードの左目は閉じたまま、その表情はロザリィに対し呆れの表情を浮かべている。辺りはエドワードの見事な解呪に対し拍手が上がる。
しかしコーエンは、その解呪によく似た何かに対して興味がわいていた。
「いい加減理解しろ。俺に魔法は効かない」
「ちっ、全部解呪しおって気に入らん!」
ロザリィとエドワードにとってこれはあいさつ代わりみたいなものらしく、それ以上の戦闘は行われることが無かった。そしてその後、ロザリィの下手な説明に付け加えるかのごとく、エドワードはクラスについての説明を始める。
「まあ、ここにいる皆は『勇敢なる翼竜』の一員だ。その意味を知っていると思うが、新入生もそれに恥じないような行動を取ってくれ。そしてこの寮に住む者皆が同じクラスだ。学年に関係なく皆が相談に応じるぞ。それとあまり寮監をからかわなければ、ここを退学になることは無いだろう。だが皆に迷惑をかけるようであるならば、この場から去って貰う事になるかもしれない。そこだけ注意してくれ」
エドワードの簡潔な説明を聞いて、四賀はこのクラスがフレンドリーな印象であるという印象を受けた。そのまま式がつつがなく終わるかと思いきや、一人の男が立ち上がった。
「ん? 何か質問か?」
「……エドワード、と言ったか? 貴様の解呪に興味を持ってな」
立ち上がったのはコーエンだった。その場の全ての人間が、このタイミングで立ち上がった男に注目する。
「あぁ、解呪か、それなら――」
「解呪ねぇ……詳しく教えてもらおうか。その左目の秘密と一緒に」
「ってめぇっ!」
サラが立ち上がり、威嚇の表情をコーエンに向ける。その髪先を朱くし、怒りのこもった目を向けて。
「てめぇ! か、会長のそれに触れるなぁ!」
「落ち着けサラ。あの人が言っていることはそういう事じゃねぇ」
そう、コーエンが問いたかったのは、何故左目をつぶっているのかではなく、何故左目をつぶらなくてはならないのであるかだった。




