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クラス決め

 ここ、私立月陽学院は特殊な組み分けをすることで有名である。普通であるならば一年ごとにクラスを変えていく学校が多いのであろうが、ここでは一度決まった組で三年間過ごしてもらうことになる。この学園では三つの組に分けられており、組名は初代三賢人の使役する召喚獣の名前から来ている。


 その勇ましき魔力でもって、アビゲイルを生涯守護し続けた大魔導師ロナルド=アーヴィングとともにあった『勇敢な翼竜グリッドワイバーン』。常に思考を張り巡らしアビゲイルのとるべき道を指導してきた大魔導師ブラック=ハードネスの忠実なる下僕げぼく狡猾な猫シルバーキャット』。アビゲイルに多大な試練を与えつつも、それも全て悲願達成のための礎だったとされる大魔導師マヒコ=シキタニの使役する『心優しき狐マイルドフォックス』。


 そしてその三つの組は、それぞれ元となった召喚獣がそのまま特徴を現している。


 『勇敢な翼竜』は勇気があふれ、未知のものにも興味を示す冒険者である。そしてここに集まる者は常に前に進む続けることで、魔法界の未来を切り開いていくことであろう。


 『狡猾な猫』は英知にあふれ、誰もが思いつかないような発想ができる知恵の持ち主である。そしてここに集まる者は将来魔法界でも有力になりえる者であり、魔法界を担っていくことになるであろう。


 『心優しき狐』は愛情にあふれ、全てを受け入れることができる清らかな者である。そしてここに集まる者は全てを明るく照らし、魔法界の未来ですらも明るく照らし続けることであろう。(私立月陽学院紹介パンフレットより内容を一部抜粋)






「次は……何だっけ?」


「クラス決めだね。ちなみにキミ達全員同じクラスだよ」


「そうなんですか!? 一緒のクラスでよかったー!」


 学長の言葉に四賀は住良木の手を取って大喜びをする。コーエンはまさか自分も同じなのかと自らを指さしてハクトの方を向くが、ハクトはそれに笑みを返すだけで何も言わない。


「……これ以上こいつ等と一緒はきついぞ……やはり生徒役は俺には無理だ」


「そんなことは無いって! 担任にも先に話してあるしさ!」


「そうかよ……」


「どうでもいいからさっさと行こうぜ……それにしても、俺様が特別かぁ……」


 六人の生徒はその場を後にして、教室割りが掲示されている大広間へと向かって行く。その背中を見送る学長の姿は、どこか嬉しそうでもあった。






 大広間と言うだけあって、三階まで吹き抜けとなっている天井と、先ほどの会堂と同等の広いスペースが設けられていた。二階や三階の縁からは上級生たちが新入生の行動を興味深げに、または懐かしさを感じながら覗いていた。


 広間には巨大な本の形をした掲示板らしきものが置いてあり、生徒がそこに自分の名前を言うと、これまた巨大な羽ペンがクラスと教室を教えてくれるというものであった。


 大広間にはすでに検査を済ませた大勢の生徒が、自分たちのクラスの確認に集まっていた。一人ひとり名前を述べていく中、よくある光景として生徒同士あいつと一緒、友だちと離れてしまったなど一喜一憂する会話が聞こえてくる。


 しかし四賀達がその場に足を踏み入れると辺りはピタッと静まり返り、代わりに先ほどより小さな声がひそひそと聞こえ始める。二階三階にいる上級生らも噂の新入生に対し興味津々であった。


「うわー、完璧に別枠的な変な目で見られてますよ……」


「仕方がないだろう。事実なのであるから」


 恐らくこの場を一番気に入らなかったのはコーエンであろう。自分だけ年が離れており、そして周りからの奇異の目が一番集まっている。


「……ちっ」


「おじちゃんじろじろ見られてるね。うちもそうだけど」


 先ほどルーシャと呼ばれた亜人の少女は、その耳をピコピコとアンテナでも張るかのように動かしている。そして周りの生徒の「亜人を始めて見た」などという会話を拾い上げる。


 そしてもう一人、コーエンの陰に隠れるかのように、イルーナは小さくなって周りの目にビクビクしていた。


「うぅ……何で僕がこっち側にいるのさ」


「そりゃお前、特別だからよ」


 先ほどから『特別』と言う言葉を強調するのは、入学式のときとは打って変わって傲慢なギルバートである。この少年だけが、周りの視線が気持ちいいと言わんばかりに堂々と歩いていた。


 普通の生徒から見れば異色を放っている面子である。少女二人に大男、その近くに亜人と小心者。そして最後に怖いもの知らずの堂々とした振る舞いをする少年である。


 列の先頭で歩いていた四賀は突然振り返ると、後ろを振り向きある提案をする。


「皆一緒のクラスなんですよね?」


「ああ、そうだな」


 上にいた上級生達はあの五人が一緒のクラスだという事を聞くと、緊張が走り出す。その意図するものは何なのか、まだ四賀達は知る由もなかった。


「じゃあ私が代表でいってきます!」


「おい! 俺様の許可無しに勝手に――」


「えーっと、四賀なつきです!」


 住良木の許可だけを取って勝手に本の方へと走りだし、自分の名前を大きな声を挙げて言う。すると本はバタバタとページをはためかせ、四賀の髪をなびかせる。


「結構風がすごい!」


 風でめちゃくちゃになった髪を整えている四賀の感想などどうでも良かったが、本のページの中に四賀なつきと書かれた部分があり、そこに羽ペンが組を書き加えていった。


「……『勇敢なる翼竜グリッドワイバーン』?」


 『勇敢なる翼竜』と言う単語を聞いて一部の上級生は歓喜し、そしてまた別の上級生はそれがどうしたと言わんばかりに生徒自慢を始める。


「やったぜ! 俺達の組だ!」


「ああ! エド会長もいるし、大魔導大会は『勇敢なる飛竜』の優勝で決まりだな!」


「それはどうかな? 『狡猾な猫シルバーキャット』には副会長と、あのサシャ=ドラグノフがいるのだからね」


「『心優しき狐』のところだって、変態だけど一応強い先崎君がいるんだから! ……たぶん大丈夫よ!」


 上での上級生のやり取りの意味を四賀達は理解ができずにいたが、同じ新入生として入ってきた者は目の前の六人が一緒か否かで別の話をし始めていた。


「さて、クラスも分かったことですし、これで――」


「ちょいちょい」


 肩をトントンとたたかれた四賀が振り返ると、超至近距離にサシャが立っていた。


「うわわ!?」


 四賀が驚いて腰を抜かしていると、サシャはどこかおかしかったところでもあったのかと首を傾げつつも、組分け以外での本の役割についての説明をしようとしていた。


「……これはぁ、入学した生徒の確認認証も同時に取っているから、一人ひとりいわないとだめぇ」


「そ、そうなんですか……?」


「そうなんです……」


 サシャは言伝を一通り言い終えるとまたもや足元の魔法陣にずぶずぶと沈んでいった。


「何だったんでしょうか……?」


「とりあえず、私も言わなければならないようだな」


 住良木が前に出ると、辺りはまた緊張感に駆られる。今度はクラスが気になるのではなく、その者の名前と素性が気になっているからである。


「住良木=アーデルハイド=彩華」


 アーデルハイドと言う単語にその場は一同騒然とした。やはりアーデルハイドとなると周りの視線も変わってくる。


 本がまたもやぱらぱらとめくれると、住良木の名前が載った場所を開き、そこにペンでクラスが書かれてゆく。


「……『勇敢なる翼竜』だ」


 上級生は先ほどの四賀の時とは比べ物にならないほどの興奮と歓声が上がっていた。そのあまりの煩さにコーエンは辟易とした表情を浮かべていた。


「次は……僕が行かせていただきます」


 イルーナはおどおどとした態度で一歩一歩と前へ出る。その様子に辺りは彼も特別待遇を受けたうちの一人なのかと疑問の声を挙げている。


「僕だって何でこっちにいるのか……イルーナ=ディードリッヒ」


 イルーナが本のはためきにビビった後、ペンによって組が明かされる。


「……『勇敢なる翼竜』です……」


 彼のどこに勇敢さがあるのかと言う声がある中、イルーナは再びコソコソと物陰に隠れだす。


「次はうちかな?」


 亜人は上級生の間でも珍しい者扱いをされており、その少女も翼竜なのか注目が集まっている。


「ルーシャ=グレゴワール」


 本がはためき、ペンが走り出す。


「『勇敢な翼竜』だっておじちゃん」


「いちいち俺に報告すんな」


 コーエンはあきれ返りながらも、ルーシャとすれ違うように前に出る。広間にある全ての視線が一人の大男へと集まってゆく。コーエンは堂々と本の前に立つと、自らの名前を告げる。


「ユリウス=ジャック」


 コーエンは学校に入る際の偽名を言うが、本は反応しない。辺りはしんとしたままで、四賀も住良木もその様子を黙って見ていた。


「あぁ? どういうこった」


 コーエンは不審な表情となり自ら本をぺらぺらとめくりだす。どうやら名前はアルファベッド順に並んでいるらしく、コーエンはユリウスの頭文字である「J」のページを開くが、そこに名前は載っていない。住良木はその様子を見てあることに気が付いたのか、素早くコーエンの近くにより耳打ちをする。


「……もしかしたら、偽名ではなく本名であるのでは?」


「それは無いはずだ。俺はこの学校に偽名で登録するようハクトに告げていた」


「でも先ほどの出来事で、私達に偽名がばれてしまっています。そうなっては偽名など意味が無いのでは」


「ちっ……ハクトめ、後で話をしなくちゃいけねぇようだな」


 コーエンと住良木は本から離れ、住良木は四賀の近くまで行くと、コーエンは改めて自分の名を言う。


「住良木さん、どうしたんですか?」


「何でもない。ただ一言提言してきたまでだ」


「アダム=J=コーエン」


 すると本はバラバラと大きな音を立ててページをめくり始める。「A」から始まるページに、その名前は載っていた。羽ペンが組を書き記す。


「……『勇敢なる翼竜』だ」


 コーエンが言う言葉に対し、誰も声を挙げることは無かった。代わりに彼に対する不信感が向けられ始める。その場にいた四賀や住良木も、同情ではないがなんとか彼を弁護したい気持ちがあった。


 そんなしんとした大広間に、空気が読めない一人の少年の声が響き渡る。


「さぁ! 『氷点下の帝王ロード・オブ・ゼロ』と呼ばれた俺様のクラスは何だぁ!?」


「どうせ『勇敢なる翼竜』でしょ。それとその異名センス無いからやめといたほうが――」


「うるせぇ!」


 その場の重苦しい空気をぶち破るかのごとく、ギルバートは高らかに自分の名を叫ぶ。


「ギルバート=マクシミリアム様だ!」


 特にうやうやしくする様子もなく、本はただ事務的にぱらぱらとページをめくる。そして羽ペンが事務的にクラスを書き記す。


「……俺様も『勇敢なる翼竜』だ!」


「ハイハイ、よかったですね」


 四賀が適当に流しているのを見て、ギルバートが顔を真っ赤にして怒り出す。その滑稽な雰囲気に周り笑いだし、先ほどまでコーエンに向けられていた不信感もいつの間にか流されて消えていた。


 その様子を見た四賀はそれとなくコーエンに近づき、小さな声でコーエンにだけ聞こえるように口を開く。


「……これでさっきのお礼ですよ」


「フン。俺は別に頼んだつもりは無いがな」


「もう、素直じゃないですね」


「フン……」


 コーエンは腕を組んだまま、ただその場に立ったままだった。




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