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選ばれし属性

 人には得意属性というものがある。得意属性とは、勉強で言うところの得意教科の様なものだ。自分にとってその属性の理解がしやすいという事は、その属性が得意属性だという事に他ならない事なのである。


 得意属性を知るという事は魔法使いにとっても非常に大切なことであり、大魔導師への道の第一歩と言っても過言ではないだろう。例として挙げるのならば三賢人であられるリュド=ジェネシス氏は光属性のエキスパートであり、ブラックアートでの対闇属性対抗部隊としても常に先陣を切っておられるような方である。


 得意属性を知る方法としては主に水晶玉法が用いられる。水晶玉法とは文字通り水晶玉を使った検査法であり、知りたい人が手に載せ、後はそこに魔力を注入するだけである。この時魔導具を使わず素手での検査となるので普段より魔力の放出が困難かと思われるが、水晶玉は少しの魔力でも反応を示すのでその辺は問題ないであろう。


 水晶玉の反応は次の通りである。火属性であるならば水晶玉は熱くなり、水属性なら冷えて冷たくなる。地属性なら水晶から草木が生え、風属性なら玉が浮かび上がる。光属性ならまばゆく輝き、闇属性なら黒く濁りだす。


 諸君も自分の得意属性を知って、その属性を伸ばす努力を惜しまないでいただきたい。さすれば『一芸は身を助ける』と言う言葉通りの事が起きるのかもしれない。(法石書房「基礎魔法属性学Ⅰより内容を一部抜粋」)






「生徒諸君、キミ達の得意属性を見せてもらおうか」


 生徒五人がテーブル横一列に並ぶ。コーエンはハクトと同じ方に堂々と座っており、やはり自分は生徒として入るべきでは無かったと後悔しているところだった。


 五人の目の前にはそれぞれ透明な水晶玉が置かれていた。四賀はそれをまじまじと見つめ、ギルバートは玉を弄ぶかのごとくポーンと上に放り投げてはキャッチをしている。

 

「あ、それ結構高いから。五十万マギーするからね」


 ギルバートはひときわ高く投げた玉の着地点に両手で構えて待っている。何とかうまくキャッチすると、おそるおそる水晶玉を元の位置へと戻した。


「落としたら面白かったのに」


「……お前俺様のこと嫌いだろ?」


 四賀とギルバートが下らない会話をしていると、学長が手をぱんぱんと叩いてこちらの方へと注意を促す。


「ハイハイ、じゃあ今から水晶玉法でキミ達の得意属性を視させてもらうから」


 そう言ってハクトは四賀の目の前にある水晶玉を手に取る。


「簡単に言えば、この水晶玉に魔力をこめるだけでオッケー! 後は水晶玉が放出している魔力を解析して、得意属性を出してくれるから!」


「はっ、簡単じゃねぇか!」


 ギルバートは早速水晶玉を手に取り、魔力をこめようとするが――


「……これ、魔導具無しで魔力を出すのか?」


「そうだよ」


「無理に決まってんじゃねぇか!」


 ギルバートはフザケンなと言わんばかりに水晶玉を手元から戻すが、その隣で住良木は難なく水晶玉に魔力をこめ始める。


「……む、熱くなり始めたぞ」


「じゃあ、住良木さんは火属性が得意分野ってことだね!」


「どうしてお前は素手で魔力込められんだよ!?」


「私も素手は得意ではない。だが少しの魔力でも流し込む事さえできれば反応はするみたいだぞ?」


 住良木が説明している間、いつの間にか小心者の少年も水晶玉から反応を引き出すことに成功していた。

「うわぁ、浮かんでる……」


「うん、イルーナくんは風属性みたいだね」


 イルーナと呼ばれた少年はそこでやっと笑みがこぼれる。その笑みを見た住良木はこのようなことには鈍感であるはずでありながらも、胸に来るものがあった。


「か、可愛いな……」


「え?」


「何でもないぞ!」


「……ねぇねぇおじちゃん、これ出来てる?」


「あぁ? 俺に聞くなよ」


 猫耳少女はひたすらコーエンに聞いているが、その手に持っている水晶玉からは青々とした草が生え始めている。


「ルーシャさんは地属性みたいだね。地属性は応用が利くとても便利な属性なんだ」


「へぇー……」


 皆が結果を残していく中、二名の生徒がまだ反応を引き出せずにいる。


「ぐ、ぐぎぎ……」


「むむむー……」


 四賀とギルバートは額から汗を流しつつも、いまだに水晶玉と格闘を続けていた。水晶玉は冷えることも、草が生えることも熱くなることも浮くこともない。


「ぐぐぐ……っだぁー!! これ不良品なんじゃねぇのか!?」


 ギルバートは水晶玉を半分投げつけるかのようにテーブルに置く。一見すると何も変化が起きていないように思われ、ハクトは首を傾げながらもギルバートの水晶玉を手にもってみる。


「どうしてかなぁ? ……冷たっ! これちゃんと反応してるよ!」


「はぁ? 俺は何にも感じなかったがなぁ?」


「コーエンこれ触ってみてよ! ものすごい冷たいよ!」


「あぁ? ……確かに冷たいな……」


 確かに水晶玉は冷たかった。ギルバートの水晶玉は反応していたのだ。ではなぜ自身は気が付かなかったのか。


「……あ。俺様は生まれつき低体温だから気がつかなかったって訳か」


 ハクトは試しにギルバートの手を握ってみるが、ハクトの予想以上に冷たくひんやりとしていた。


「……これは生まれつきの魔力による極低体温症だね。これに掛かっている人は水属性がとても得意になるんだ」


「ってことは、俺様は特別ってことか!?」


「そうとも言えるね」


 特別という言葉にひときわ喜びを感じたギルバートは、ガッツポーズをしたまま両膝をついた。


「っしゃぁぁぁぁ!!」


 その様子に焦っていたのは四賀だった。ただ一人だけ結果を出せずにいる。しかも自分はギルバートと違って特異体質と言うわけではない。


「……何で出てこないのぉ……」


「おかしいな……ちょっと貸してもらっていいかな?」


 四賀の手から水晶玉を取ると、ハクトは軽く力をこめる。するとキチンと水晶玉は反応し熱くなってゆく。


「うーん、水晶玉がおかしくなった訳じゃないようだし……」


「学長、私はどうすれば――」


 四賀に水晶玉を返しながら、学長は頭を悩ませていた。


「うちでは得意属性に合わせたカリキュラムを組むつもりだったんだけど、これじゃあ組みようが無いなぁ」


「そんなぁー……私頑張ってここまでこれたのに……」


 四賀が困り果てているのを見かねたのか、コーエンは四賀の手を取って水晶玉を乗せる。


「……魔力を出すコツは、水晶玉の更に中心に点を置き、そこに向かって心臓から流れるようなイメージを持つといい」


「流れるイメージですか……?」


「それでも出来ないのであれば、貴様はここにいるべきではない能無しという事だ」


 最後に残酷な言葉を残しながらも、コーエンは四賀に魔力放出のコツを教えてあげた。四賀は喜ぶ半面これで出なかったらどうしようというという不安感がこみあげていた。


「……大丈夫だ。四賀ならできる。私はそう信じている」


 住良木から励ましを受けた四賀は大きく深呼吸をした後、水晶玉へと魔力を送り始める。

「……水晶玉の中心に点……そこに魔力を……流す……!」


 四賀は目をぎゅっとつぶり、力を入れ始める。心臓から右肩へ。右肩から腕へ。腕から手のひらへ。手のひらから水晶玉へ。


「……あ! 熱くなった!」


 四賀は目を見開いた。さっきまでは何ともなかった水晶玉がかすかな熱を発し、四賀の手にその熱を伝え始めた。


 ハクトもその水晶玉の上に手を置くと、確かに熱を感じる。


「……四賀さんは、火属性だね!」


「やったぁー!!」


 四賀はその場で飛び跳ねつつ、そして住良木と一緒の属性という事に喜んでいた。


「住良木さん! 一緒の属性ですね!」


「ああ! 私も嬉しいぞ!」


 四賀は喜びをかみしめつつ、その喜びを感じさせてくれた人物の元へと駆け寄る。


「あの! ありがとうございます!」


 深々と頭を下げる姿を見るが、コーエンはその高慢な態度を緩める事無くさらに厳しい言葉をぶつける。


「この程度で一喜一憂するなど、貴様はまだまだゆるい」


「でも、コーエンさんのおかげで出来たんです! 本当にありがとうございます!」


「現役女子高生に頭を下げられて気分はどう?」


「黙れハクト。どうでもいいわ」


 そう言いつつも、コーエンの口元はほんの少しだけ緩んでいた。


 ちょっとした事に喜ぶその姿に、昔の自分を重ねながら。



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