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邂逅

 時計の針は十一時五十分を指していた。会堂内にはすでに大勢の人が集まっている。四賀達の周りの席もぽつぽつと埋まってゆくなか相変わらず二階の席は埋まらないが、これから始まる入学式への緊張感も高まってゆく。


「き、緊張してきました……」


 四賀の手が震えているのを見て、住良木は自分の手のひらを四賀の方へと向ける。


「手のひらに人という字を書いて飲むと、緊張が収まるらしいぞ」


「あっ! それ東洋のおまじないですよね!」


 四賀はそのリラックス法を思い出すと、急いで自らの手のひらに「人」という感じを書いて呑み込む動作をする。


「……あんま変わらないような……」


「そうかもしれないが、それをすることに気をとられて緊張が薄れているだろう?」


「そうかもしれないですね!」


 四賀と住良木が笑いあうなか、その二人の頭の上に影が落ちる。


「――邪魔するぞ」


 見ると四賀達の親とも思える世代の大男が、前開きの服を着て四賀の隣に座ろうとしているではないか。次に視線に入ったのはその服の隙間から見える綺麗に割れた腹筋と、その丸太の様な豪胆な腕である。はっきり言って魔術師の体格とは思えない。そしてその顔を見る限りでは、いくら髭を剃って髪を整えようとも同年代と偽るには無理がある。


 男は制服を着ている訳でもないので入学生ではないと予測される。とは言ってもまずこの年代で高校に入ること自体があり得ない。しかし男は堂々と座っており、その足を組んで前を見ていた。


「……あのー、すいません……」


 四賀はおそるおそるその男に声を掛けてみる。男は四賀を横目にチラリと見るが、それ以上は何もしない。


「……ここ、保護者席じゃないみたいで――」


「俺は今年からここに入学する」


「え?」


「二度も同じことを言うつもりは無い」


 ぶっきらぼうな回答を返され、それに加えて妙な威圧感まで受けたためか、四賀の親切心はここで折れることとなる。それを見ていた住良木は、少し強い言葉で男に言い放つ。


「ここは私立月陽学園「新入生」の席だ。すまないが席を離れてはくれないか」


「だから、俺はここに入学することになった「新入生」だ。「保護者」ではない」


 そう言って右肩の校章を見せてくる。それは見る限りだと本物のように思えるが、それでも二人は信じることができない。


「しかし――」


「分かってる、この歳で高校入学なんざあり得ねぇってな……黒剛ハクトにここにぶち込まれたって言えば少しは信用するか?」


「「学長」に!?」


「ああ。「学長」様にな」


 信じられなかった。目の前の男が、あの三賢人であり、かつ私立月陽学院「学長」である黒剛ハクトに推薦された者なのだと言う。


「……失礼ですが、貴方の名前は……?」


 男はしばらく黙りこくる。住良木は不用意な詮索だったかの思い口を閉じて座りなおすが、男は小さく自分の名前を呟く。


「……ユリウスだ」


 自らをユリウスと呼ぶその男は、それ以上のことは何も言わずに再び口を閉じ黙りこくってしまった。その場に重い空気がのしかかるなか、四賀は口を開く。


「……なんか、感じ悪いですね……」


 四賀の無神経な呟きに対し、住良木はあわてた様子で口を手で覆う。


「隣にいるんだぞ! 口を慎め!」


「……始まるようだ」


 天井の明かりが消える。辺りが緊張でざわつくのを隣の男は気にする様子もなく、スポットライトが当たっている壇上にコツコツと音を立てて上がる学長の姿を見つめていた。


「えぇー、本日もお日柄が良く――って、地下だから天気も何もないよね!」


 その場の緊張をほぐす言葉をマイクに放つと共に、黒剛ハクトは壇上に立っていた。ハクトはその新入生の顔ぶれを見て何やら満足しつつも、この学院の新たな一員に対して祝いの言葉を述べる。


「まずは新入生の諸君、入学おめでとう!! 私立月陽学院では知っている通り文魔両導ぶんまりょうどうを校訓としている! もちろん皆にもこの通り、魔導にも学業にも打ち込んでもらいたいと思う! だがまずは皆の入学を祝うとしよう! 拍手!!」


 次の瞬間――天井の照明が再びつきなおすと、二階の方から大きな歓声と拍手が鳴り響く。振り向くといつの間にか立ち並んでいたのか在校生が二階を埋め尽くしており、新入生の入学を心から祝っていた。


「わぁー!」


「フン……」


 四賀が目を輝かせ、いつの間にか一緒に拍手をしていた。住良木はその祝福に心を躍らせ、この学院に入ったことに対し喜びに打ち震えていた。対照的にユリウスは下らない余興でも見ているかのように、退屈そうであった。


「私から贈る言葉は以上だ。次は生徒会長のエドワード=ヴィクター君から話があるそうだ」


 そう言って突如その場から火の粉を散らして消え去ると、今度は光の柱が壇上に立ち上り、その中から一人の青年が、先ほど四賀が見ていたのとは違う真面目な表情で現れた。


「あー、あ、あ、マイクテスト」


 真面目な雰囲気は一瞬で終わった。マイクテストなどせずとも先ほど学長が使えたのが分かっているはずだ。エドワードは会場からクスクスと笑い声がするのを聞き取るとマイクテストを終え、壇上に両手を置いて祝いの言葉を始める。


「えぇー、はっきり言うとさっきの学長の言葉で俺の言うことは全て言われちまったから他には言う事無いんだけど、取り合えずはおめでとう。私立月陽学院では校訓通りの事だけじゃなく、この下層部においても模倣とされる学校だ。つまりここに通うことは、下層部の模倣となる自覚を持ち、そして誇りある行動をしてほしいと思う。ここで培った三年間が自分にとって有意義に、そして魔法界にとっても有意義なものとなるよう願う。生徒会会長、エドワード=ヴィクター」


 祝いの言葉と、この学校の義務を告げると、来たとき同様光の柱へと消えていく。その場には大きな拍手と、女性陣の黄色い言葉があちらこちらから出始める。


「……あははー、会長さんもてますねー」


 生徒会長の倍率の高さを認識させられると、四賀は隣の住良木の方に目をやるが、隣の少女は相変わらず鈍感なようである。ユリウスは生徒会長に対し何か思惑があるようで、その後も一言喋ることなく最初と同じように黙りこくっていた。




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