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生徒会

 受付の女性が妙に早口だったこと以外はこれといったことは無く、すんなりと会堂までつくことができた。中に入ると天井には例の光球が一つついており、その下一階に椅子が並べられている。そこで受付に言われた通り、中央付近の場所に座り込む。一階の席にぽつんと座っている四賀達が後ろを振り向くと、こっちからは見上げるような形で二階の席を見ることができる。


「随分と広いですねー」


 四賀達が座っているのは一階の中央付近の席である。が、当然ながら通常の開場時間にはまだなっていなかったので、四賀と住良木以外はまだ新入生はいないといった状況である。辺りはしんとして何も注目すべきものは無いため、余った時間の暇をつぶすためなのか、何か話題を作ろうと四賀が先ほどの生徒会について話を始める。


「それにしても、生徒会の人って結構個性的ですよね……」


「そうだな……だがいずれも、各属性を極めた三年生が生徒会役員になる風習らしいから、実力者ぞろいと言ったところだな」


 ここ、私立月陽学院では生徒会役員は六名であり、各属性の実力が一位の者を、役員として任命している様であった。


「へぇー、先ほどの会長さんも何かの属性のトップって事ですかね?」


「だろうな」


「――ちなみに僕は風属性トップなんやけどな」


 突如隣の方で声が聞こえると、四賀は体をびくつかせてその方を向く。


「そんなビビらんといてやー。さっき会ったばっかやろ?」


 そこには先ほど生徒会庶務を抱えて飛んで行った青年の姿があった。四賀の隣に腰をおろして気軽にその肩に手をまわし、先崎は先ほどあった時と変わらずひょうひょうとした態度で話しかけてくる。


「いやぁー、僕の自己紹介をキチンとせえへんかったからな。ここで僕んことちゃんとおぼえて貰おう思うて」


「は、はぁ……」


 四賀がその雰囲気に少し引き気味なのを気にすることなく、先崎は自己紹介を始める。


「僕の名前は先崎さきざき良磨りょうま。ここの生徒会で書記やっとるんやけど、他にもわからんことあったらどんどん聞いて貰うてええよ」


 そう言って満面の笑みを向けるが、正直先ほどサラが言っていたナンパを受けていることを四賀は感づいていた。


「そういや、二人のこと聞いてへんかったなぁ。お名前なんて言うん?」


「わ、私は四賀なつきって言います――」


「なつきちゃんかぁ! ええ名前や、しかも僕と同じ東洋の名前やないの。これからも仲良くしようや。そちらのお嬢さんは?」


「私は住良木=アーデルハイド=彩華という」


 彼女のある単語を聞いて先崎は一瞬言葉を失い、目を丸くして住良木にひとつ質問をする。


「……アーデルハイドっちゅうと、お嬢さん有名な魔法家出身手事になるんかいな?」


「その通り、九つの魔法家のあのアーデルハイドだ」


「うへぇ、これは僕もビックリやでぇ。彩華ちゃん、やったっけ? よければこの後僕と二人で話を――」


「遠慮しておこう」


「だはっ!?」


 住良木は先崎の口説き文句をバッサリ切っているなか、四賀はその『九つの魔法家』という単語が引っかかっていた。


「九つの魔法家って何ですか?」


 四賀のとんちんかんな質問に対し、先崎はアハハと少々その場を濁すような笑いをして、四賀にその意味を説明する。


「昔、大魔導師アビゲイルがこの街の原型作ったっちゅう話があるのは知っとるやろ? あの時アビゲイルを導いていた三賢人とは別に、最初から手伝いをしていた九人のソーサラーがおってな。そのうち一人の名が、アーデルハイドっちゅう名前やったんや。そんで彩華ちゃんがそのアーデルハイドの末裔っちゅう訳や」


 四賀は今までその有名な末裔に対して対等な応対をしていたことに、タラーリと汗が流れ始める。


「い、今まで結構フレンドリーに話してましたけど、結構ヤバかったんですか……?」


 四賀の顔が青ざめていく様を見て、住良木はあわてて訂正をする。


「そんなに畏まることはないぞっ! 私はただ末裔なだけで、それ以外は君と同じただの一年生だ」


 四賀はそれを聞いてホッと胸を撫でおろす。先崎は他にも聞きたいことがあるようで、住良木に質問をし始める。


「しかしアーデルハイドいうと、炎属性のエキスパートちゃうんか?」


「そうだな。私は幼いころから炎の魔法に特化して訓練してきたからな」


「ほな、将来の生徒会役員候補やないの。えらい事になってきたなぁ」


「それは分からない。私より優れた炎の使い手が、出るかもしれないからな」


「まあ、アーデルハイドを超す炎属性の魔導師は中々おれへんからやろなぁ――ちなみに今の炎属性トップは、先ほどのブチ切れ女がトップなんやでぇ」


 今現在、炎属性トップは生徒会庶務であるサラ=アナスタシアという女性らしい。そしてその女性を、先ほど二人は見てきた。その凶暴性が四賀の脳裏に蘇る。


「あ、あの人が炎属性トップかぁー……」


「ホント、怖ぁい女や。この前なんか僕が下層部の箒屋の娘を食事に誘ってたら、遠距離からイキナリ『暴発槍ブラストスティンガー』撃ち込んできよったからなぁ」


「それは先崎先輩が悪いんじゃ……」


「ナンパは僕の生きがいや。それを潰すなんて誰も許されるわけないんや」


 彼女の悪口となると口のすべりが良くなるのか、先崎はサラが今まで行ってきた暴挙を次々と喋り出す。


「しかしそれだけやないんやで。僕等が一年の頃、女子にセクハラばっかしよる教師がおってな、その教師にセクハラされかけた際にソイツ焼いて半殺しにしてもうて停学決定。ほいでその後見事に不良と化して、他の学校に単騎でケンカ売りに練り歩きの旅。まあその後いろいろあって、更生した後もちょくちょく問題起こしよって、その極め付けとして去年の学校対抗の決闘デュエル大会、審判の判定がおかしい言うてブチ切れて会場を爆破。半壊させよったんよ」


「うわぁ……ぶっ飛んでますね……」


 彼女の凶暴性に加え、危険性が植えつけられたところで先崎は話題を転換し、周りに誰もいないと確認した上で、口元に手を当て小さな声で彼女の秘密を囁き始める。


「――せやけどな、そんな暴力女も唯一手を挙げん男がおんねん」


「……どういうことですか?」


「一時期不良になってた時期があったって言うたやろ? そん時に最後まで見捨てずに更生させた男が同学年におんのよ。それで以後、ソイツの言うことだけは聞くようになったんや。あの暴力女も、ソイツの目の前ではツンデレかってツッコみたい位に照れ隠しして、可愛いもんやけどなぁ。何でその一パーセントでも僕に向けてくれんのかなぁ」


 最後らへんに私情が入ってはいるものの、その問題児が誰を気にしているのかというのは、女心としては聞いておきたいところである。


「……それって誰ですか?」


「それはな、生徒か――あだだだだ!?」


 先崎が急に悲鳴を上げ、上に吊りあげられていく。見ると首元に手が伸びており、その首をミシミシと音を立てて締め上げているのが分かる。そしてその後ろでは、先ほどあった時より恐ろしい表情で、その長い髪を熱気なのか殺気なのかは知らないが逆立てた状態で、サラ=アナスタシアは立っていた。髪先が心なしか先ほどより朱く見える。


「誰が、誰を好きだってぇ……?」


「許してサラちゃん! まだその人の名前は言ってへんから――」


「アタシが何時、ソイツを好きになったっつぅんだよぉ!?」


 先崎を掴んでいる右腕に力が加わる。ミシミシと頭に直接音が響くが、先崎はそれに負けじと反論を振りかざす。


「だってサラちゃん二人っきりの時の態度がめっちゃ違うやん!? 僕の目は誤魔化されへんでぇ!!」


「じゃあそのポンコツの目を潰しとかないとなぁ……!」


 サラは余った左手をチョキに模ると、その目を潰さんとポーズをとっている。先崎はその手を振りほどくとともに先ほどの失言の言い訳をぺらぺらと喋り出す。


「冗談や冗談!! 昼休みに二人だけ残る日にワザと弁当多く作って、「作り過ぎてしまったからこれ食え」って無理やり弁当渡してたトコなんか見てへんから!!」


「キッチリ最後まで見てんじゃねぇかこのクソ野郎がぁ!!」


 言い訳は先崎が火に油を注ぐ形で失敗となった。サラは先崎の頭を掴んだまま、怒りにまかせて壁へと片手で投げ飛ばす。四賀はその驚異的な腕力に驚くなか、先崎の体は錐揉み回転をしながら壁へと向かっている。


 しかし先崎はすんでのところで壁に足をつけ、壁に垂直に立ちあがる。先ほどとは打って変わって表情には余裕が消え、明らかに焦っていた様子である。


「危な!? 『飛翔連脚レッグパフォーマンス』の効力が切れ取ったら死んどったで!?」


「ケッ、死んどけばよかったものの」


 サラのあまりにもそっけない返事に対し、流石の先崎も反撃ののろしを上げる。


「僕かてもう怒ったでぇ! いいかい一年生諸君! この暴力女が好きなのは――」


「! やめろっつってんだろ!」


 サラの怒号が響くなか、先崎はその口を閉じようとしない。


「誰が言うのやめるかいな。この状況で詠唱も間に合わんし、僕の勝ちや!」


 勝利を宣言し、先崎の口から秘密が暴かれようとした瞬間――先崎が立っていた壁の隣から白い魔法陣が現れる。


 そして先ほどまで外にいた筈の生徒会会長が、箒片手にやれやれといった表情で先崎の隣に立っていた。


「……会長はん、新入生お出迎えはよろしいんですか?」


「まだ本来の会場時間じゃねぇからいいだろ別に。それよりあんましサラで遊ぶなよ。生徒会会長として、身内がケンカをするのはあまり良くないと思うぞ」


 生徒会長のごもっともな言葉に対し、先崎は反論が言えず口を閉じてしまう。エドワードは次にサラの方を向いて注意を促す。


「お前もだ。そう簡単に怒るから先崎もいじるのをやめねぇんだろ?」


 エドワードの言葉に対し、何やらサラの様子がおかしくなる。先ほどの殺気はどこへやらといった様子で口数が少なくなり、急にしおらしくなる。


「あ……うん……」


「ん? どうした? 具合でも悪いのか?」


「な、何でもねぇっつうの! 詮索すんなよ! バカじゃねぇの!?」


「そうか。じゃあ生徒会室にいる茶木下さぎしたとサシャに、そろそろ会場の時間だと伝えに言ってきてくれ」


「わ、分かってるっつーの!」


 不機嫌なのか何かはわからない表情でサラはその場を素早く立ち去っていく。その様子を見た四賀はその何かを察した。確認のために先崎の方をチラッと見ると、もちろん先崎はこちらを向いて親指をぐっと立てており、その表情も前よりニカッとした表情である。


「……そういう事かぁ……」


「……どういうことなのだ?」


「え? 分からなかったんですか!?」


「全く」


 四賀が驚く方がむしろ不思議だと言わんばかりに住良木は首を傾げている。四賀は次にサラの様子をおかしくした原因の方を向く。しかし原因となった者も、住良木と同じく頭上にはてなマークが浮かんでいる様である。


「? 俺がどうかしたか?」


「……いえ、何でもありません」


「……サラちゃんも、報われへんなぁ……」


 鈍感二人に対してその気持ちを察する二人は、同じように肩をすくめてため息をついた。




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