学園の始まり
「大きいー……」
四賀がこう呟くのも無理は無かった。二人が立っているのは私立月陽学院の校門であり、城門でもある場所。その門は四賀の身長の三倍近くもある高さであり、その後ろにある城に至っては、首を九十度真上に上げないとてっぺんが認識できないというほどである。城の両脇には樹齢何年のものであろうか、大きな桜の木が生えている。
「……今ちょうど半をまわったくらいか……」
城についている大きな時計を見て、住良木は言葉を発する。四賀は門を押したり引いたりしてみるも、全然開きそうにない様子から、少し早く来過ぎたと思っていたところであった。
「会場まであと三十分ありますけど、早く来過ぎましたね」
「はは、お互い張り切り過ぎたということかな?」
その場で二人が談笑していると、橋からおそらく入学生と思われる背の低い子供が一人、おどおどとした表情で、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いてくるのが見える。
「……あうぅ……やっぱりやめようかな……」
セットも何もしていないのか髪型を無造作にしているが、その顔は女の子と思われるほど可愛らしい顔であった。しかし身に着けている服は四賀とは違う、男性用の制服を着ていることからその者の性別が男であることが分かる。四賀はその様子から他に一緒に来ている人もおらず、ここまで一人で歩いてきたのだと察すると、新たに友達を作ろうと思い切って声を掛けてみる。
「あのー!」
「ひぇ!? うわわ、ひゃあー!」
少年は突然の声掛けに体をびくつかせると足先をくるりと後ろへ向け、そのままその場から逃げだしてしまった。四賀はその突然の行動に開いた口がふさがらず、しばらく橋の方をじっと見ていた。
「……あれ? 私何か変なことでもしました?」
「……何もしてはいないと思うがな?」
謎の少年はその場を去っていくなか、住良木は先ほどまで閉ざされていた門が音を立てて開いていく方に注目を集めていた。門の向こうには、金髪というよりクリーム色に近い髪色をした青年が、その澄んだ緑色の右目にいら立ちを表現し、小さく悪態をつきながら立っていた。
「……ったくあのバカ庶務がぁ、仕事増やしやがって……」
青年は怪我でもしているのか、左目は閉じたままである。しかしそれで彼の動きが制限されるということでもなさそうで、まっすぐとこちらの方へと向かってくる。
「えーと、お前らか、生徒会の問題児が迷惑かけちまったのは」
青年は手に持っている箒を肩に担ぎながら、四賀達の方をじろじろと見てくる。
「んー、まぁケガは無かったようで何より。あのバカ一度暴れ出すと先崎でも止めるの難しいからなぁ」
返事を待つことなく喋っているのを二人はぽかんと聞いていると、そこでようやく気付いたのか青年は自己紹介を始める。
「あぁ、悪い悪い。俺はここ、私立月陽学院生徒会会長であり、この下層部の治安維持も務めているエドワード=ヴィクターだ。まあ気楽にエド会長とでも呼べばいい。さっきはウチの庶務が迷惑かけたみてぇで悪かったな。あいつはコッチでしっかりと罰則を与えておくから許してやってくれ」
一通り言いたいことを言い終えると、担いでいた箒で辺りに散らかっている塵を掃き出す作業にうつりだす。
「……あのー、エド会長――」
「ん? なんだ?」
一度話した相手には結構フランクなのか、エドワードは手を動かしながらも軽い口調で返事を返す。
「……まだ三十分前ですけど、もう中に入っていいんですか?」
「ああ、入っていいぞ。会堂は城の中庭を横切った先にあるから、そこで受付してもらえ」
案外すんなりと入れることに拍子抜けしつつも、二人は足を進めていく。
最後の最後で拍子抜けになりながらも、二人はこれから始まる学園生活に心を躍らせていた。
「――ふぅ、いつもの事だが、掃除も面倒くせぇなぁ」
二人が校内に入っていくのを掃きながら見届けると、辺りに他に誰もいない事を確認し、その箒をくるりと一回転させる。
すると箒の先から一筋の光の帯が伸び、それが辺りを一掃すると、ゴミだけが綺麗に消え去り、門前はまるで輝いているような錯覚さえ覚えさせられるような綺麗なものとなっている。
「――掃除終了っとぉ。後はここで、新入生のお出迎えをするだけだな」
とりあえずここまでで序盤一区切りです。今まで出てきた学生と、これから登場する学生の中から誰が選ばれし子どもたちなのか、これから明かしていきたいと思います。




