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生徒会の問題児

 二人はその城の前にある大きな『橋』の近くに立っていた。二人が立っている目の前には大きな城があり、そして今まで歩いてきた街――城下街とその城の間には、大きな谷が広がっていた。街は谷のすぐ近くで途切れており、その谷を拒絶するかのようにも思える。


 底が見えること無く深く暗く、そして城と街との幅は遠く長い。その暗く深い谷は、一説によれば地獄と直接つながっているとの話もある。二人はまずその噂の谷を、そっと覗きこんでその噂を確かめてみた。


「…………これ、落ちたらまず――」


「助からないだろうな」


 あっさりと言い捨て立ち上がる住良木に対し、四賀はその谷の恐怖に包まれていた。どこまでも吸い込まれるような、深く暗い闇。そして覗けば覗き込むほど自らの体が引っ張り込まれるようだった。


「……」


「……! 四賀!」


「え? うわっとと!」


 気づけば四賀の体は、文字通り谷底に引きずり込まれ、その半身を空中に投げ出そうとしていた。それをすんでのところで住良木は気づき、その体を両手で掴み、引っ張り上げる。


「うーわ、こっわ! 本当に落ちるところだった……」


「これは見つめない方がいいかもしれない。何らかの呪いが谷底に掛かっていて、見た者を引きずり込んでいる可能性がある」


「うひゃー、それは怖い」


 学校に通う前に、命を落とすなどシャレにならない。四賀はすぐさま身を引いて、橋の方へと足を向ける。


 ――レンガ造りのしっかりとした橋がその谷の上に横たわっていた。その地面にはレンガで魔法陣の模様を描いており、なんとなくこの橋を渡る者に信頼感を与えている様かに思える。そして両端には、この下層部天井に浮いているような光球がそのまま小さくなったようなものが連なって浮いている。まるでここを通る者を祝福の光で照らしているかのようにも思える。


「……ここを渡れば、月陽学院に――」


「ああ、とうとう入学ができる」


 二人は大きく深呼吸をする。そしてしっかりと目を見開き決心して、その大きな一歩を踏み出そうとすると――




「――黙れ! てめぇといると頭がイカレちまいそうなんだよ!」


「ゴメンて、謝るから! 周りに当たり散らさんといてでちょーだい!」


 後ろから一組の男女が、道の真ん中に立っていた四賀を退かし蹴散らす。尻餅をついた四賀はしばらくその突然の出来事に混乱し、立ち上がることができない。


「……っつつ、ビックリしたぁー」


「大丈夫か!?」


 友人を起こしながらも、住良木はその無礼な相手の顔を見ようと顔を向ける。するとそこには、かの有名な生徒会役員の姿が住良木の目に映っていた。


 ――青年の方は何とかご機嫌取りでもするかのようでありながらも、どこかおちゃらけた雰囲気を醸し出している。しかしそうでありながらもひたすら平謝りしているその姿はどこから見ても滑稽であった。それを女の方はポケットに手を突っ込んだまま、ただひたすらムッとした表情で無視し続け、ずかずかと橋の方へと向かっている。


「だから、僕が悪かったって言うてるやん?」


「その腐った口を開くな、黙れ! この蛆虫が! いい加減女見るたびにナンパみてぇな舐めた真似をすんな! 生徒会の評判を下げやがってこのボケが……」


 その長い髪を怒りに振るわせずかずかと歩いている女は、目つきも口も悪いようで先ほどから男に罵詈雑言を浴びせては平謝りさせ続けるばかりである。


「――ったくよぉ、こんなゴミ虫と毎回見回りに行かされるアタシの身にもなってみろ、少しは空気を読んで読んで読みまくってそのまま窒息死しとけカス」


「意味不明過ぎてもはや死ねとしか受け取れないほどの暴言!? ヒドイ! 酷すぎるわぁ!」


 青年はオーバーリアクションでショックを受けつつも、いら立ちを募らせている女性の方を向いては誤りっぱなしである。その姿を見た住良木は、二人が四賀を突き飛ばしたことに何の悪びれもなさそうなところから、思い切って声を掛ける。


「そこの二人!」


 女性の方はその声が聞こえたのか、気怠そうに、威嚇するように首を傾け後ろを振り向く。


「……ぁんだぁ?」


 男の方は丹念に頭を下げつつその声がする方を見ると、目を見開いて驚きの声を挙げた。


「ゴメンって――なんと! 美少女から声を掛けられた!?」


「てめぇは面倒くせぇからだぁってろ!」


「……ハイ」


 男を一喝して黙らせると、女性は応対すらだるそうに言葉を続ける。


「なんか用かぁ? 用あんのなら投書箱に――」


「私の友人を突き飛ばしておいて、何か言うことは無いのか!」


「……ソレがどうした?」


 女性はきょとんとした表情になって四賀を見て、住良木を見て不思議そうな顔をしている。それはわざと気づかないのではなく、本当に自分がした事の意味を理解できていない様であった。


「……たかが突き飛ばされたぐらいでピーピー喚くなボケ」


「それが突き飛ばした人間のとる態度か!?」


「……ガタガタガタガタうるせぇんだよ! あぁ!?」


「あーもーダメやて、始末書が増えるから、ほら素直に謝って――」


「てめぇは黙ってろぉ!!」


 男の言っている言葉を制して、激昂した女性はすぐさまバタフライナイフを開く。その切っ先は鋭く、相手を突き刺すのに適した形だ。


「一般人風情が? 生徒会庶務であるサラ様に対して対等な口利いてんじゃねぇよ!!」


 持っていたナイフを地面に突き刺すと、巨大な魔法陣が高速展開される。地面が激しく揺れ、突き刺さっている周辺の地面の色が変化し始める。


「バーカバァーカ死んじまいなぁ!!」


 地面がより一層激しく揺れ、もはや立つことすら不可能なほどになってゆく。もはや誰も止められないと思ったところで――


「――やめぇや。ほんまにアホらしゅうて見てられんわ」


 青年がその胸元に挿げていた羽ペンを振るうと、辺りに涼やかな風が吹き荒び、地面の揺れも徐々におさまっていく。青年は大きくため息をついた後、羽ペンをおさめて悪態をつく。


「ホント、どっちが生徒会の評判を落としてんだか……」


「邪魔すんな先崎さきざきぃ! アタシのケンカだ、手ぇ出したらぶっ殺す!!」


「そない言うて、また会長にどやされんのをフォローしてやってんのは誰や思うてんねん……」


 ハアァ、と大きくため息をつき再び羽ペンを手に取ると、自分の足の方に向かってペン先を向け、靴に向かってさらさらと文字列を書き始める。


「! てめぇ何しやが――」


「――飛翔連脚レッグパフォーマンス


 先崎がその場にポーンとジャンプをしたかと思えば、その後着地をすることなく空中に浮いているではないか。四賀はその信じられない光景に驚き、口が開きっぱなしである。


 そしてそのまま暴れるサラを無理やり抱えて回収すると、住良木達の方を向いて一礼をして詫びる。


「ごめんなー、このアホはこの後よーと怒っときますんで、許してちょうだいな」


「だぁー! 離せ先崎このクソ野郎! まだ勝負はついて――」


「ほな、サイナラー」


 暴言が遠のいていく様を、住良木と四賀はぼぉーっと見るしかなかった。辺りはしんと静まり返り、まるで嵐が通り過ぎた後の様であった。


「住良木さん、私のためにありがとうございます……しかし、さっきの人達なんだったんでしょうか……」


「……あれが生徒会とは、頭が痛くなってきた……」


「えぇー、あれが生徒会ですかぁ……」


 しばらく立ちすくんだ後、二人は橋を渡り、学校へと急いでいった。



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