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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十九章 謎の予言者

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零:魔術師団長の選出と予言の噂

 ロジェとジルベルトの結婚式が無事に終わり、三日が経った。


 神殿はすっかり日常に戻ったが、城の方は、宰相と魔術師団の団長の後任選出でまだごたついていた。


 ジューク団長の辞表を受けて、案の定プレサージュ公爵も辞表を提出した。

 どちらも皇帝陛下が説得したが、真面目な二人の決意は固く、結局辞任が決定したのだ。


 宰相については、皇帝陛下の指名だけでも決められるが、候補者が二人いて、陛下もどちらを選ぶべきか決めかねているらしい。


 最有力候補はクロヴィスの側近であるイーサンの父、ローレル公爵だ。

 非情に優秀な人物らしいが、彼は公爵領の管理で領地にいることが多く、内政には関わりたがらないそうだ。

 また、息子であるイーサンが皇太子の側近ということもあり、自分が宰相になったら公爵家に権力が集中することに対して他貴族から反感を買う可能性を危惧しているのもあるだろう。


 もう一人は私の伯父であるラフェスタ侯爵。

 彼もかなり有能な人物らしいが、権力に興味がないようで、これまでも様々な要職に就いてほしいという打診を受けているにも関わらず、全て断っているそうだ。


 つまり、皇帝陛下が認める候補者は二人共、宰相にはなりたくないと思っているのである。

 だが、そこは最終的に皇帝陛下が命令さえすればどちらも引き受けざるをえなくなるので、時間の問題だろう。


 一方の魔術師団長の選出は、原則として前任者が後任を指名して、現役の魔術師団員全員から決を取り、信任が七割を超えなければならないという規則がある。

 しかし今回、前任であるジューク団長は、娘が暗鬱魔術にかけられ城に魔物を召喚する魔具を仕掛けたことに対する自責の念が原因で辞意を表明しているため、後任の指名はしないと宣言したということだ。


 そのせいで、後任の選出に苦戦する羽目になってしまっている訳なんだけど。


「……で、私に決めろって?」


 城に呼び出されて何事かと思えば、魔術師団の部屋に案内されて団員全員から頭を下げられた。


「はい……話し合いではなかなか決まらず……」


 げっそりしているのはブルーノ・アベニール副団長だ。

 四十代半ばで、その真面目さと冷静沈着さを買われて副団長に就任した人物。

 本来なら、団長が退き後任を指名しないのあれば彼が繰り上がりで団長になるのが道理だが、彼は率先して人の上に立つタイプではない。

 自分でもそれを理解しているから、周りから団長になってくれと言われても首を縦に振らずにいるのだろう。


「候補者は?」

「私と、デュアリスさん、ホーマーさんです」


 テレージア・デュアリス、三十代半ばか後半くらいの女性団員。

 魔術師団の男女比は七対三くらいで女性が圧倒的に少ない。魔術師団員としてやっていくには、魔力だけでなく体力も必要だからだ。

 そんな中で男に負けずに名を挙げている彼女はとても優秀であるということだ。


 また、もう一人のベルノルト・ホーマーは、五十歳前後の男性。

 穏やかで面倒見がよく、後輩からは慕われているが、穏やか過ぎて己の功績を挙げることに頓着しておらず、魔術師団員としての功績がほとんどないらしい。

 つまりブルーノと同じタイプである。


「本人たちの意向は?」

「私とホーマーさんは後ろ向き、唯一前向きなのがデュアリスさんなのですが……」

「なら彼女に決定じゃない?」


 私が目を瞬くと、ブルーノが目を泳がせた。


「何か問題が?」

「彼女の実力や功績、性格には一切問題ありません……ですが、かつて女性の団長も、三十代で団長になった者もおりません……」

「なるほど、史上最年少かつ史上初の女性団長、となると、一部から反感を買うと……」


 心理的には理解できる。

 今代の皇帝になってから男尊女卑の風潮はかなり減りつつあるものの、女性が上に立つことを快く思わない者はまだ多い。

 性別だけでなく、三十代で精鋭をまとめ上げる団長の座に就任することに懐疑的になる者もいるだろう。


 だから、私に助けを求めてきたのか。

 十代で聖女となり、帝国内の誰よりも強い魔術師である私に。 


「……なるほどね。私が三人の実力を測って、テレージア・デュアリスに太鼓判を押せばいいってことね」


 ふむ、と嘆息して、実力を測る方法を思案したその時、私の通信の魔具が鳴った。

 ラシェルからの通信だ。先の大陸の東端調査で共に行動したことで仲良くなり、通信の魔具を渡したのだ。


『聖女様!』


 妙に緊迫した声色に驚く。


「ラシェル、どうかした?」

『聖女様、大変です。妙な噂が……』

「噂?」

『はい。リオネル……クラスメイトのアビエテアグロ公国第二公子が、リベラグロの知人から妙な予言者の噂を聞いたと……』

「予言者?」

『ええ、リベラグロ王国のバモスという町に突然現れ、次々と予言を的中させているらしいのですが……』


 バモスと聞いて、嫌なものを思い出す。

 

 新婚旅行の際に起きた、フルメンサキ王国が絡んだ奴隷の売買事件。

 バモス自体に悪い思い出がある訳じゃないが、フルメンサキへ潜入するために船で出航した港が、リベラグロの南方にある港町、バモスだったのだ。


 短い時間しか滞在していないが、とても活気がある田舎町という印象だった。

 まさか、そんな不穏な予言者が現れたとは。


 そして、アビエテアグロ公国は帝国とリベラグロ王国、ベルリグナム王国に隣接する内陸国。

 公国民が予言の噂を聞いても不思議はない。


「……で、私に連絡をしてきたってことは、その予言者が私に関する予言でもしたってこと?」


 そう続きを促すと、彼女は「あくまで予言者の言葉ですが」と前置きをして続けた。


『今代の帝国の聖女は、己の不貞で皇太子殿下から離縁される、という内容だそうです』

「……は?」


 思わず間の抜けた声が出てしまうくらいには、予想外の内容だった。


「私が不貞を働いてクロヴィスから離縁されるですって?」

『……ええ、予言者はそう言ったそうです。これが噂になっていて……勿論、ただの戯言だと信じない者の方が圧倒的に多いのですが、予言者の他の予言が当たることを目の当たりにしている一部の者たちは、信じきっているようでして……』

「失礼な話ね。名誉毀損どころか、立派な不敬罪よ」


 当然、私は不貞など働いていないし、この先クロヴィス以外の誰かと恋仲になることなんてありえない。


「……ただ、気になるわね。どういうつもりでそんな予言をしたのか……」


 もし仮に、予言者の力が本物で、本当に未来を予知したのだとしても、現皇太子妃の不貞などという重大事項を吹聴するのはどう考えても正気の沙汰ではない。

 その予言の内容が本当であったとしても、皇太子妃についてのそんな話を吹聴すれば、不敬罪で逮捕されて処刑されかねないと、子供でもわかることだ。


 予言者がまともな感性の持ち主なら、そんな予言、己の胸に秘めておくはず。


「ちょっと話を詳しく聞きたいから、今日の授業の後、城へ来てもらえるかしら? 勿論、オスカーと、そのクラスメイトのアビエテアグロの第二公子も」

『わかりました』


 通話を終えた私は、ふと、この件と魔術師団長の選出の件を纏めて解決できないかと考えるのだった。

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