終:浄化できないもの
結果、クワンクアと帝国の不可侵協定は締結された。
そのための議論に数日を費やしたが、和平の証として、帝国からは定期的に使者を送り、情報の共有を行うことで合意した。
その帝国からの使者として、ミューが任命された。
当然、エルフ側からは懸念の声も上がったが、このまま外部からの侵略に怯えるくらいであれば、不可侵協定を結ぶ方が得策という結論に至り、今後はクワンクア側から使者として認定された者のみ、不法侵入には問わないことが決まった。
超絶厳格で融通が利かないフォワードも、手順通りにクワンクアの貴族院を通して法律の改変をすることとなったため、異を唱えはしなかった。
と、いうのも、そもそも彼自身がミューが定期的にクワンクアへ来ることを望んだため、そこに着地したのだが。
「……なぁ、フォワードの魅了状態は解除できていたんだよな?」
クロヴィスがエルフの長の様子を思い出して首を傾げたので、私は頷いた。
「ええ。ちゃんと効いていたわ。ただ、四百年間もミューのフェロモンにあてられ続けて、ずっと執着していたんだもの。浄化魔術で魅了の効果が切れたとしても、それまでの間に心に棲み付いたミューの存在は消せないわ」
そう、オロチから見ても、彼が既に魅了の状態から解放されていることは間違いなかったが、四百年間ミューを求め続けたフォワードは、最終的に彼女に恋焦がれるようになっていたのだ。
それは心の変化であり、浄化魔術ではどうにもならない部分である。
「……まぁ、長寿同士、これから定期的にお茶でもして仲を深めてくれるといいんだけど」
「ミューの様子じゃあ、なかなか難しいだろうな」
何しろ、フォワードの指名によって帝国からの使者に決まった時、心底嫌そうな顔をしていた。
割と自由奔放な性格をしている彼女からしてみれば、厳格過ぎるフォワードの相手は大変なのだろう。
まぁ、今回の指名については彼女自身が四百年前に撒いた種でもあるので、ある程度は受け入れてもらうしかない。
「……っと、そろそろ始まるな」
「そうね。また後で」
クロヴィスが私の頬に唇を寄せて、部屋を出ていく。
あの後、不可侵協定を結ぶため、クワンクアには数日滞在した。戻って三日経ち、今日はロジェとジルベルトの結婚式だ。
聖女の正装に身を包んだ私は、これから二人の結婚の誓いの見届け役として祭壇に立たなければならない。
ある意味、聖女としての大仕事だ。
クロヴィスは私の夫であり、帝国の皇太子なので、主賓として参列することになるため先に大聖堂に入る必要があるのだ。
顔を合わせると喧嘩ばかりだったロジェとジルベルトが、己の気持ちに向き合って交際を始め、そして今日結婚する。なんだか感慨深い。
私の方が二人よりも年下だけど、前世の影響か、なんだか姉のような気分である。
「よーし、盛大に祝福するぞー!」
私は気合を入れて、大聖堂に向かうのだった。




