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騎士とかげろう

https://twitter.com/nagal_narou/status/1697941744774721946?s=20

こちらのtomoさんの診断メーカーの結果に乗っかって書いたものです

 岩と枯れ木ばかりの荒野に、かげろうと呼ばれる化物が出る。

 見るものによって形を変え、傷を負わせた話はついぞ聞かない。


 ここにひとり、亡国の騎士が辿り着いた。歩き疲れ、倒れ込む。

 その傍らに亡者のような影が現れる。漆黒の鎧。兜の奥もまた闇のよう。

 無慈悲な鞘走りの音を聞きながら、騎士はどうにか身体を仰向けた。


「背中の傷は……男の恥、ってな……」


 大切なものも守れず、殉じることも出来ず、ただ逃げ出した男にもう恥も何もないはずだった。

 闇が(こご)ったようなような刃先が伸びて、胸元に突きつけられるのを見ながら、男の口は自嘲に歪む。こうまで追い詰められてもまだ、死にたくはない。


 鉛のような腕を持ち上げ、剣先を掴もうとするも、それはまるで陽炎のように揺らめいて霧散する。重力に負けた腕が落ちると、乱れた剣はまた元のように収束していく。

 ああ、幻なのか、と、投げやりに身を任せれば、目の覚めるような痛みが胸を貫いた。焼けるような熱さと、凍えるような寒さが同時に襲う。

 低く吼えるような声を吐き出しながら、男は己の剣を掴んでいた。

 男の唯一の持ち物。最後まで残った、男の矜持。

 睨め上げる瞳に炎が灯る。痛み以外の雑念を忘れ、男の剣は黒い影の騎士の首を落とした。

 ゆらりと乱れた兜は次の瞬間元の形に戻り、しかし音を立てて真っ二つに割れた。

 中から艶やかな黒髪がこぼれ落ちる。


 闇より深く、光をも飲み込む瞳がにぃ、と笑った。

 彼が故国で亡くしたものの形を闇に写し取った姿が、剣ではなくその手で彼の心臓を撫でながら顔を寄せる。


「チカラ ヲ ヤロウ カ」


 答えなど、聞かずともわかるというようにソレは彼に口づけた。


「我が名はカゲロウ。連れて行け」

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