ゼノとシャール
「――くっ! お、おい警鐘だ!」
「あ、ああ!」
レストがガイゼンへ到着する直前。視界に、ゼノと門衛の姿が入っている。間もなく正門に辿り着く。だが、監査に時間を取られる時間はない。いや、そんなことを言っている状況でもない。レストの後方には百数十のガルフリアがいる。こんな光景を見れば門衛達が対処するに決まっている。街が襲撃を受ける可能性を考えるし、異常な状況で何もしないはずがない。
だが、そうなれば危険だ。相手はガルフリアだけではなく、ガイゼンの官憲達まで参戦することになる。実際、ガイゼンへ戻ると考えた時、その可能性は考えていたし、そうなるとも思っていた。だが、一種の賭けでもあったのだ。ガイゼン前までにガルフリアを振り切れば、問題なく中へ入れる、そう思った。その賭けは失敗したわけだが。
そうなるとどうするか。決まっている。
レストは、門衛が門横に備え付けてある警鐘に近づく姿を見た。簡易的な警鐘で、恐らくは防壁上の見張りへと知らせるためのもの。引き継ぎ、防壁上で大鐘を鳴らすはずだ。
レストは門衛に向けて疾走した。まだ間に合う。
「旦那!? 何をしてるんだ!?」
叫ぶゼノを無視して、レストは門衛まで迫り顔面を殴打した。速度を維持したままの一撃に、吹き飛んだ門衛は壁に叩きつけられ、意識を失った。
「き、気でも狂ったか!? あ、あんた何を、あれはなんだ!?」
ゼノの疑問は最もだったが、レストは無視して通用口へ向かった。だが、ゼノは剣を抜き、レストの行く手を阻む。
「どけ」
「あんたを入れるわけにはいかない!」
門衛であるゼノの対処は正しいが、状況的には間違っている。レストには余裕も、理性もなかった。
「そこをどけ」
腹の底から出した低い声音に、ゼノがびくっと身体を震わせる。死の境界、数日に及ぶ戦いの日々、その果てにレストの精神は蝕まれている。形相は人ではなく、獣。殺気立っており、誰もが恐れをなす形相だった。
ゼノは後ずさりし、尚もレストに対峙している。大したものだが、ゼノとレストでは圧倒的な力量差があった。ゼノは門衛、兵としてある程度の訓練は行っているだろう。だが、レストほど死線はくぐっていないし経験もない。覚悟も、強じんな精神もない。レストも戦いの経験はさほどない。だが狩人しての資質、鍛練と才気、何よりも娘を守るという強固な意思が、彼を過剰なほどに強くしている。
ゼノはレストを見て、震えだす。だが、それでも彼はその場にとどまった。レストはナイフを抜き、疾走する。
「はっ……!」
あまりの速さにゼノは対応できない。懐に入られてからようやくレストの顔を視界に入れた。絶大な恐怖。それがゼノの顔に浮かんだ瞬間、吹き飛んだ。
レストは横蹴りでゼノの鳩尾を蹴り上げた。その一撃で、中肉のゼノは地面に向かって落ちる。二度跳ねて地面を滑るとようやく止まった。そして唸り声をあげて、何度も転がっていた。意識はあるようだが、構ってはいられない。
レストはすぐに通用口に入る。肩口に振り返ると、すぐ近くにガルフリア達がいた。時間を無駄に費やしてしまったようだ。だが、何とか入れた。
通用口を抜け、街中へ入る。月明りだけが光源で、街中はしんと静まり返っていたが、遠くでルスカとリオンの姿が見えた。どうやら、騒動の最中に街中へ入ったらしい。奴隷一人では街へ入れないと思っていたが、上手くやったようだ。
とにかく、ここはまずい。あくまで余計な邪魔が入らず、官憲共が来ない場所へ行かなければ。
レストは裏通りへと向かった。手狭な場所は多対一の場合、戦い方によっては有利に働く。相手は百人以上。ならば、一度にそれだけに人数を相手にするよりはいい。それに、街中であれば奴も派手な行動はできまい。そう、信じるしかない。
左目の視力はほぼ失われ、矢もなくなった。体力も残りカスだけ。追い詰められ、対策もない。だが、やるしかない。
もう逃げられはしないのだから。
●○●○●○
大通りを抜け、細道を進む。手狭で二人程度しか通れない。その道を減速なく進んだ。手に握られた大型ナイフは、大して意味を成さないことをレストも知っている。だがそれ以外に武器はない。頼りないがしょうがなかった。
レストは走る。自身の足音だけが響いていた。暗闇の中、光源は月だけで、物陰は闇に満たされている。その中を進むレストには戸惑いはなく、速度も維持している。後方から迫る気配から逃れることだけが、レストにできる唯一の手段だった。
武器がない。ガルフリアに対抗する武器が。
どこか武器を取り扱っている店はないか。矢が欲しい。だが、あっても入店し、物色している時間はあるだろうか。今更、盗むことに躊躇いはないが時間はない。
本体を探すにはどうすればいい。この状況を切り抜けるにはどうしたら。
「死ねっ!」
声がしたと同時に、殺気が膨らんだ。すでにレストはその場から跳躍し、壁際へ移動していた。そのまま、壁を蹴り三角跳びをして空中で振り返り、後方の状況を視界に入れる。
家屋の屋根、左右の路地、伸びた路地の奥、そしてすぐ後ろに数人のガルフリアがいた。ここまで追いつかれていたらしい。
瞬時の状況を判断したレストは、再び正面に向き直る。大型ナイフに残っていた毒を塗りながら先を急いだ。
「キッ!」
鋭い気合いとも奇声とも取れる音が聞こえた。首に怖気が走り、レストは速度を維持しつつ、地面を滑った。何かが頭の上を通る。その正体を気にする余裕もなく、レストは即座に立ち上がり、再び走り出す。
囲まれていることは間違いない。ガイゼンはそれほど広くはないし、百以上のガルフリア達が、外側から行く手を遮ろうとしているだろうことはわかっている。逃げ場が徐々になくなっている。
思った以上に、ガルフリアは街中での戦闘を嫌ってはいないようだった。賭けには勝てなかった。ガルフリアの噂が不明瞭だったため、人気のある場所では戦闘しないのではないか、と思っていたのだが。奴の分身は依然健在だった。こんな様子を見られれば、今後、噂されるだろうことは間違いないのだが、ガルフリアにとって大した問題ではなかったのだろうか。
だが、もう遅い。この場から逃げることは困難。
背後の怒号を無視し、道なりに進むレスト。正面、突き当り。左右に道が延びている。どっちだ。どっちに行けばいい。
ガイゼンの地理はある程度把握している。ガルフリアの調査をしている期間、念のため配置を確認してもいたからだ。それは商人であるダルタニアンを逃がさないためであったが、ここに来て、その経験が活きた。
右に行けば西門。左に行けば、街の中央へ戻る。
街を出る方向へ行くか、それとも街中に深く踏み入れるか。
レストは逡巡したが、大した考えもなく、直感で右へ行った。どちらにしてもこの状況はまずい。街中でガルフリアの戦力が低下することを期待したが、その目論見は無為だった。狭い場所ではいずれ袋小路に追い込まれる。一度に相手にする数が少なくて済むが、ガルフリア相手ではそれも大して意味を成さない。
遠距離で戦える外の方がいいだろう。それには遠距離攻撃、つまり矢が必要になるのだが、せめて幾らかの矢を確保できれば。
「ぐっ!」
衝撃が背中に走った。この硬い感触は、足の裏。どうやら追いつかれ、ガルフリアに蹴られたようだった。態勢を崩し、そのまま転倒しそうになるが、何とか堪える。そのまま走ろうとしたが、肩と背中に鋭い痛みが走った。暗闇の中でも、肩口から、煌めいた二つの筋が見えた。凶刃はレストに届いていた。
痛みを無視して、尚も走るレスト。温かさと、肌を滑る気持ち悪い感触。それが同時に背中と脇腹に生まれた。出血したようだった。
動く度に痺れるような感覚が走る。だが、レストは足を止めずひたすらに走った。
「逃がすか!」
幾度も、背を斬られた。街中であれば単純な走力の勝負になる。森のような慣れた場所でないのならば、有利な点はなくなる。必然、身体能力のみが鍵となる。レストはすでにかなりの体力を失っている。追っていたガルフリアも同じだろうが、レストよりも快調のようだった。さすが英雄。その身体能力も体力も常人とは一線を画している。
それに追っている方と、追われる方では心労が違う。追われる方が体力を削られやすいことは間違いなかった。
殺気のようなものを感じると、レストは瞬間的に速度を上げる。その繰り返しのおかげで、致命傷は免れていたが、そんなものは、その場しのぎでしかない。
やがて、その時間に終わりは来た。
「がっ!?」
太腿に、これまでにない衝撃が走った。
あまりの痛みに、レストは耐えきれず、転倒してしまう。走っていた最中だったため、地面を転がり、やがて壁に叩きつけられた。どれほど痛みに慣れていようと、強じんな精神力があろうと、深手を負えばまともに動けはしない。
「くっ……はっ……!」
足が熱い。その上、背中を強打したらしく呼吸もまともにできない。
視界が不明瞭で、寝起きの情景を想起させた。ずっと走り続けていたが、ついに足を止めてしまった。その反動で、レストの身体が休息を訴えた。こんな状況でも、身体は言うことを聞かず、横たわったまま動こうとしない。足からは鮮血が溢れ、地面を濡らしている。こんな時に限って、綺麗な月明りがレストを照らしていた。
「ここまでだな」
ガルフリア達が続々と、レストに近づいてきた。
二十人程度。他のガルフリア達は、周辺で待機しているのだろう。
レストは歯噛みし、脳内を働かせる。この場から逃れる方法を。この絶望の中でも、相手を殺す方法を模索した。逃げられない。殺せない。それではどうすればいいのか。
諦めるという文字は、レストにはない。何を犠牲にしてもノアを助けると、そう決めたのだ。どんな状況でも諦めるということは決してない。
だが、どうする。
この絶望的な状況で、どうすればいい。
囲まれている。逃げ場はない。
手段は浮かばず、レストは何とか立ち上がり、ナイフを構えた。
「まだやるか、大したもんだな、おまえ」
一斉に、ガルフリア達が得物を振り上げた。剣、槍。
二十人中、十七人程度が槍。三人が剣。
槍、剣。
剣……。
剣?
その言葉に違和感を抱いた。
ガルフリアは没落貴族、騎士の出で、槍や剣、馬術に長けている。ならば剣を扱うこともおかしいことではない。だが槍の名手であるガルフリアならば、わざわざ見劣りする剣を扱う必要があるのだろうか。確かに、剣の腕前自体もかなりのものなのだろう。だが、槍使いであると流布されるほどなのだから、剣を用いる必要があるかは疑問だ。
狭い場所では槍は不利だから。そういう場合を想定してのこと、なのだろうか。その割には剣持ちの数が少ないが。いや、だからこそ少ない、のか?
それにまだ引っかかることがある。この数日、まだ見ていないものがある。
白馬だ。
最初と、三回目の邂逅では白馬を見た。
レストは、主人を殺されても優雅に先を進んで行ったあの姿を思い出した。あの情景もおかしかった。違和感があった。
あの、まるで『主人が死ぬことが当然のような白馬の振る舞い』に関して。突然、主人が死んだのだ。ならばもう少し動揺しそうなものだし、せめて走るくらいはするだろう。だがあの馬は慌てることもなく、いや慌てることをしてはならない、と思える程に冷静に離れて行ったのだ。
その行動にレストは違和を感じた。まるで気配と同じ。森の中、自然とは違う。動物とは違う別の何か、その気配を探る時と同じ。ガルフリア達に追われていた時に感じていたあの感覚に近い。
そう。
まるで『人間のような振る舞い』に。
ならば。
もしかしたら……。
あの馬は。
「まだ何か考えてんだろ? 恐ろしい奴だ。だけどよ、ここで終わりだ。いい加減、死ね!」
何をしてももうどうにもならない。
レストは恐怖した。ノアを救えないことに。あれだけの覚悟をしたのに、何もできず終わってしまうという事実に。
周囲に集まったガルフリア達が武器を振り降ろした。
終わってしまう。そんなこと、受け入れられるはずがない。
死んでたまるものか。
そう思った瞬間。
「ガルルルゥゥッ!」
聞きなれた声が響いた。同時に、鮮血が虚空に飛び散った。
「なに!?」
驚愕のままに、後ろへと振り返ったガルフリア達。その隙を見逃さず、レストは姿勢を低くして、一回転しながら大型ナイフを振るう。その攻撃により、ガルフリア達の足首に浅い傷を走らせた。
「くっ、てめぇ!」
激昂するガルフリア達に向かい、レストは肩で体当たりをした。屈強な肉体を誇る英雄は、狩人の行動に抵抗できない。毒の回りは早く、すでに身体が痺れ始めているようだった。
レストは包囲を抜け、ようやく視界が広がる。そこにはリオンとルスカが立っていた。
「こっちに!」
ルスカの先導で、レストは走り出した。身体中が痛むが構ってはいられない。足は痙攣し、速度は遅いが、それでは必死で走った。ルスカはレストの様子に気づき、即座に肩を貸す。ところが小さな体、華奢な体躯ではレストの身体を支えきれない。
「いい、おまえは先に、走れ……」
「わ、わかった」
ルスカは何か言いかけて、首肯した。自分では役に立たないと自覚したらしい。その判断の早さに成長の兆しが見えた。
隠れていると思っていたのに、まさか助けに来るとは。驚きと共に、レストは素直にルスカとリオンに感謝した。言葉に出すことはなかった。なぜ逃げなかったのかとも聞かなかった。
無言でルスカの背を追った。どこへ行くのかという疑問はあったが、血を流し過ぎたことと、体力が著しく低下していることが相まって頭が働かない。ルスカに任せた方がよさそうだと、何とか判断した。
少し走り、細い路地を抜けると、僅かに開けた空間に出る。そこでルスカは立ち止まった。
「だ、大丈夫? 酷い怪我……」
「問題ない」
痛いだけでまだ動ける。ならば問題はないだろう。
ルスカは心配そうに顔を顰めていたが、腰から何かを取り出した。
「これ」
それは矢筒だった。中には数十本の矢が入っている。
「必死で考えて、これくらいしか思い浮かばなくて。その……お店から盗っちゃったんだけど」
状況を考え、端的な言葉を選んだらしい。ルスカは気まずそうにしながら、矢筒を差し出してきた。その瞳には、怯えた子供ような純粋な、気遣いが見られた。どうやら怒られると思ったのだろう。それとも足手まといだと思われたのかと怖がっているのだろうか。
レストが抱いた感情はどちらでもなかった。
「助かる」
そのたった一言を受け、ルスカは目を見開き、そして嬉しそうに笑った。
だが悠長にしている時間はない。レストは意識を強引に覚醒させて、ルスカから矢筒を受け取る。
まだ身体は動く。頭もまだ働いている。大丈夫。戦える。
「おまえは、隠れろ」
「ううん、一緒に行く。今の状態なら、足手まといにはならないよ。それに今、あたしだけが逃げても無駄だから。邪魔なら捨てて。絶対に着いて行くよ。あたしも、盾くらいにはなれるんだからっ!」
現状を鑑みれば、ルスカだけ逃がしても意味はないだろう。街中で二手に別れても、むしろ危険だし、隠れられる保障はない。ならば一緒にいた方がいいだろう。
自分の命を投げ打ってもいいと覚悟している。ルスカの目は真摯で、迷いはなかった。ならばもう突き放す必要もないだろう。ここからは一蓮托生。いや、ルスカの命はレストのものなのだから。
ルスカやリオンがいなければ、すでにレストの命はなかった。ならば認めよう。弱くとも、彼女の存在がレストを救ったのだと。
レストはルスカに向けて、大きく頷いた。するとルスカは泣きそうなほどに顔を歪ませ、頷き返した。まるで心が救われたと、言っているかのように。
「リオン、馬を探せ、においは覚えているな? 合図はいつも通りに」
「ウオン」
命令に従い、リオンは跳ねた。瞬時にその場から走り去ると、ルスカと二人だけになる。気配は迫っている。ここは危険だ。ひとまずの武器は手に入れたので、何とか移動はできるだろう。
どこへ行くか、もう決まっている。
「行くぞ」
「うん」
どこへ行くのか、どうするのか。ルスカは聞かなかった。理解しているわけではない。信じている。いや信じることさえ必要ないのだろう。ルスカにとってレストは主人で、レストにとってルスカは奴隷。その関係に信頼は必要ない。主従の関係には、そんな綺麗事は必要ないのだから。主人の意思は奴隷の意思なのだから。
突如として、レストは弓を構えた。
またガルフリアなのか。気配が近づいてくる。レストの行動を見て、ルスカも剣を抜き、不恰好ながらも構える。そうして数秒。影が路地裏から現れた。
「ん? きゃっ!?」
そこにいたのはシャールだった。ゼノの妹。服屋の店員。ルスカと仲が良い、あのシャールだった。奴隷を見下していたのに、レストを共通の敵として、ルスカと仲良くなったという娘。
こんな時に再会するなんて。
「あ、シャール」
ルスカは一瞬だけ嬉しそうにしたが、すぐに表情を硬くする。
「何でこんなところに?」
「よ、夜に何か変な音が聞こえると思って、様子を見にきてみたんです。そしたら……ルスカちゃんがいるじゃありませんか!」
レストもルスカも構えを解いたが、警戒は継続した。他に気配はないようだ。ガルフリア達はまだ気づいていないのか、まだ距離があるだけなのか。とにかくこの場から離れなければならない。
レストはシャールに構わずに歩を進めた。その様子を見て、ルスカも戸惑いながらも後に続く。
「ま、待ってください、ルスカちゃん。突然いなくなって心配してたのですよ?」
シャールはルスカに走り寄り、ぐっと手を掴んだ。
「ご、ごめん、その、今、急いでるから」
「そんな……私達は友達だと思っていたのに……」
「あ、あたしも友達とは、思ってるよ」
「だったら少しは話を……え、レストさん、あなた怪我をしているのですか? それにルスカちゃんもとても顔色が悪いみたいです。何があったんですか?」
「え、えと、その」
おろおろとしているルスカだったが、レストは二人を無視して先を進んだ。構ってはいられない。こんなところで時間を費やしてはガルフリアに見つかるし、それにシャールにとっても不幸なことになりかねない。すぐにこの場を離れなければならない。それはレストの最低限の優しさでもあった。
「ごめんね……こ、今度話すから」
ルスカはやんわりとシャールの手を放すと、レストの背中を追った。
「ま、待ってください!」
シャールが尚もルスカを追おうとしたが、すでにレストとルスカは闇の中に消えて行った。残されたシャールはその場に佇み、ただ、呆然としていただけだった。
レストは遠くからシャールの様子を一瞥し、振り切るように走った。強い痛みはあるが、まだ足は動いた。不幸中の幸い、槍の先端が突き刺さっただけで、傷の範囲は小さかったようだった。だがそれでも動き続けることは困難だろう。走れば傷は広がるのだから。早めに決着をつけなくてはならない。
横目でルスカを見たが、俯いていてよく見えない。顔を顰めているだろうが、気遣っている余裕は今はない。
駆け足程度の早さでレスト達は進んだ。ガイゼンの西門へ向かうために。




