Episode * Ⅴ * 黎黄のスカビオサ
涙を流しながらうずくまる。
私の涙が頬をつたい、時子おばあちゃんの傷口にポチャンッ――と落ちた。
パ――ッと光り出し、時子おばあちゃんと私の足元に、人ひとりを包み込むような魔法陣が現れた。
周りでみんながザワザワと「なんだこれは!?」と言っている側で、私は涙を流しながらニコッと笑った。
私の目線の先には、傷の治った時子おばあちゃんが居る。
目はうっすらと開き、ほんの少し笑っているように見えた。
身体の傷も治り、私は時子おばあちゃんに抱きついた。
「良かった。よかったぁあ!!」
私が顔を上げると、みんなが不思議そうに私達を見ていた。
「ど、どうしたの?」
私があわあわしていると、レオンさんが私の肩に触れる。
「あ、あの。」
レオンさんがうーんと考え込んでいる。
「梨花さん?だっけ。」
「あ、梨花で大丈夫です。レオンさん。」
「ありがとう。じゃぁ梨花。君は今どうやって魔法使ったんだい?」
レオンさんは不思議そうに私に問いかける。
「私が、魔法?使った、ですか?え。いつ!?どうやって!?」
「無意識か……。」
レオンさんは肩をポンポンと叩き、何かを考えながら離れていった。
「同じこと、もう一回できる?」
アンジェさんが私の腕を掴む。
「俺じゃ、もぉこれ以上治せないんだ。」
私はアンジェさんの必死な顔に二つ返事で「はいっ!」と言ってしまう。
急いで治おじさんの側に座り、どうやったかわからないけれど、とりあえず同じ様に手を握って、うーんうーんと願ってみる。
苦戦していると、アンジェさんが私の手の上に手を添え、もう片方の手は肩に添える。
そして私の耳元で、
「魔法はイメージだよ。治るイメージ。」
私はアンジェさんに言われるた通りにイメージをした。
「そぅ、その調子だよ。頑張って。」
傷がみるみる塞がっていく。
治おじさんの傷が治ったところで私は意識を失った。
――後から兄さん達から聞いた話だけれど。
私が意識を失い、倒れたところをアンジェさんが支えてくれて、怪我なく済んだそうだ。
時子おばあちゃんと治おじさんは持病まで治っていた。
治おじさんは、杖なしで歩くのはしんどそうだったのに、杖なしでも軽々と歩いていたそう。
バスの残骸を片付け、荷物をまとめ荷車に乗せると、すぐに宿に戻った。
私達の泊まっていた宿は元から貸切状態だったが、レオンさんが宿を本当に貸し切ってくれた。
気を失っている間、アンジェさんが私を運んでくれたらしい。
あんな可憐な人にそんな事をさせてしまって申し訳ない。
兄さん達は目を覚さない紗子さんを部屋まで運び、寝かせたそうだ。
各々一部屋ずつ用意してもらった。
遅い時間に帰ったのに、宿屋の主人達は本当に良くしてくださったらしい。
――そして今に至る。
私は半日程、気を失っていたらしい。
由紀夫兄さんと凪沙兄さんは、眠らずに様子を見てくれていた。
和希兄さんは腹を出して寝てる。
私が起き上がって、ベッドから降りようとしたら全身に痛みが走る。
兄さん達に、「もう少し寝てなさい。」と言われて、布団に戻る。
私は再び眠りについた。
翌朝、宿にレオンさんとアンジェさんが来ていた。
宿屋の主人がおもてなしをして、レオンさんはすっかりくつろいでいた。
「あ、レオンさんアンジェさん。おはようございます。ごめんなさい。お待たせしてしまったみたいで、」
と急いで階段を降り、一階の食堂へ向かう。
朝食を食べながら、話をすることになった。
「梨花。君は昨日無意識に魔法を使った様だけど、ちゃんとした先生を付けるべきだと判断した。
それと、治癒魔法でもそうだが、蘇生魔法なんてものを使うものは滅多に居ない。
人前で使うのは控えた方がいい。下手したら教会に監禁される。」
レオンさんは、真面目な顔で口元にソースをつけながら話す。
「俺レベルの回復魔法でも声を掛けてくる様な奴らだ。君みたいに上級魔法まで使える魔法使いは、必ず手の内に入れておこうとするはずだよ。」
アンジェさんとレオンさんは、昨晩遅くまで策を講じてくれていたらしい。
「だから俺と、俺の姉のディアが君達の先生をしようと思ってね。俺は魔法の、姉のディアは剣術や体術だ。」
「この世界で、自分を守れる最低限の魔術くらい使えなければ、何も出来ず命を落とすだけだからね。」
鑑定の書を人数分用意出来るまでは、魔法の使い方の特訓と体を鍛える事に専念する事になった。
そして、レオンさんは私達の服がこの世界では浮くからと、数着ずつ衣服を用意してくれていた。
けれどこれは……貴族様のお洋服では!?
なんだか街中ではあまり見ない様な豪華な装飾がついたお洋服が並んでいた。
着替えがなかったから、着替えられるだけでもありがたいけど。
一度みんなで集まって話をしたところ、今の宿は少々隙間風が入って寒いから、暖かいところが良いという意見と、お屋敷は豪華すぎて落ち着かないという意見で半々だった。
そこでレオンさんが、アンジェさんの家に住んだらどうだと言い出した。
アンジェさんのお家は一人暮らしには少々広く、ほとんど家にも居ないので好きに使っても構わないだろうとのことだった。
昔リムの貴族が住んでいたお屋敷だった様で、レオンさんのお屋敷より一回り小さく、アンジェさんがあまり豪華なのは好みじゃないらしく、落ち着く家具でまとまっていた。
アンジェさんは、2階の部屋を皆んなに貸してくれた。
一人一人部屋、個室だ。嬉しい!!
部屋を片付けると、冒険者登録をする為にギルドへ行っていた。茂さんと冬海先輩、祐希先輩が戻ってきた。
「咲月君。明日にはアンジェさんのお姉さんが街に到着するそうだよ。特訓は明後日からになるみたいだね。
明日はみんなで依頼を受けに行ってみようかと、話していたんだけど。君もどうかな?」
冬海先輩は少し楽しみなのか、ワクワクしたように聞いてきた。
「はい、私も行きたいです!」
薬草摘みくらいなら私でも出来そう!
なんて簡単に考えていた私が甘かった……




