Episode * Ⅲ * 邂逅のキブシ
私達は冒険者ギルドに戻っていた。
由紀夫兄さんと凪沙兄さんが帰ってきて、受付で依頼料を貰う。
緊急依頼だったので、通常より少し割高で報酬を貰えたそう。
近頃この街では、怪我人が多く薬草が枯渇している。
それを聞いて外へ出た兄さん達は、少し多めに採取して帰ってきたんだって。
だから報酬もその分多く貰えた。
兄さん達を連れて荷物を置いている宿へ向かった。
主人のお爺さんとお婆さんは明るく迎えてくれ、食事の準備をしてくれていた。
有り難く席に座り、温かいご飯を食べた。
少し硬いパンに温かいスープ、それにローストビーフみたいなお肉。パンはスープに浸しながら食べた。
食事を終え部屋に戻り、会議を始めた。
いわゆる家族会議だね。
「これからどうしようか。」
初めに口を開いたのは和希兄さんだった。
「とりあえずみんなで移動できる手段が必要だね。バスが動けば良かったんだけど。」
由紀夫兄さんはそう言い頭を抱える。
「あ、由紀夫兄さん!私この街に入って和希兄さんと宿を探してた時、大きなお屋敷を見つけたの!そのお屋敷の前に、馬車?みたいなのが停まってたわ。何処から、馬車を借りれたらみんなで此処まで来れるわ。」
私がそう軽く言うと、兄さん達は「それだ!」っと顔を上げた。
「まぁ、最悪馬車借りれなかったらさ、食料多めに用意して何日かかけて歩けば良いさ。」
と和希兄さんは、明るく「プランBだな!」と話す。
明日の予定を決め、眠る事にした。
――翌朝
由紀夫兄さんと私、和希兄さんと凪沙兄さんの二手に分かれて行動する。
食料を買うには、もう少しお金が必要な為、和希兄さんと凪沙兄さんは冒険者ギルドで依頼を受ける。
食料以外にも必要な物は沢山あるからね。
由紀夫兄さんと私は、馬車の入手。
まずは宿の主人に、馬車を借りれる所は無いかと尋ねたけれど、分からないとの事だった。
次に、冒険者ギルドで馬車が必要な時はどうしたら良いのかと尋ねた所、冒険者ギルドでも貸し出しをしているのだけれど、今はあいにく全て使えないとの事だった。
盗賊に冒険者達の馬車も襲われて、壊れてしまったそう。
今街の外に出ている人が戻って来たら貸し出せるのだけれど、どの冒険者もあと四日は戻らないとの事だった。
由紀夫兄さんと私は冒険者ギルドの外へ出る。
「由紀夫兄さん、どうしよう。一か八か昨日見たお屋敷の所行ってみる?昨日停まってたからもしかしたら。」
私は不安げに提案すると、由紀夫兄さんは――
「そうだね。早く迎えに行かないと、外に残った皆んなも危ないかもしれない。」
と案に乗ってくれた。
そう、この世界は魔法が使える。
そして危険な魔物も存在する。
私達が元いた世界で例えるなら、猟銃も持たず、食糧も持たず、何日も猛獣の暮らす森に居るようなもの。
そんな事を考えながら、昨日和希兄さんと宿を探している時に見つけた大きなお屋敷へと向かった。
入り口には兵士が立っていて、止められてしまった。
由紀夫兄さんが、家の人に会わせて欲しいと頼んでいた。
貴族の家だったらしく、アポ無しでは会えないと断られてしまったが、そこをなんとかーと粘っていると、
昨日冒険者ギルドで受付をしてくれたアンジェさんに声を掛けられた。
「こんな所で何をしているんですか。」
私と由紀夫兄さんが必死で訴えると、アンジェさんは小さくため息を吐いて私と由紀夫兄さんを連れて中へ入れてくれた。
アンジェさんは、この家の方に報告があり来ていたそう。
兵士に危険だと言われていたけれど、「新米冒険者くらい自分1人で抑え込めるので大丈夫です。」と冷たく言い放った。
その表情に、少し怖いと思ってしまった。
でも、少しでも話す時間を貰えるだけで有難い。
豪華な内装に、私は見惚れてしまった。
部屋に通され、ソファに綺麗な衣服を着た紳士が座っていた。
「掛けなさい。」
と言われて私達はソファに座る。
その紳士はレオン・アルレウス。この街リムの領主様だそう。
領主様の正面に私と由紀夫兄さんが座り、お誕生日席にアンジェさんが座る。
最初にアンジェさんが話し始めた。
「この2人がアルレウス卿にお話があるそうで、屋敷前で居座られるのは迷惑かと思い連れて来ました。」
「ほぅ。私に話か。言ってみなさい。」
領主様は器の広いお方の様で、ニコッと笑いながら私達に問いかけてくれた。
「あ、あの……」
私が話そうと言い淀むと、由紀夫兄さんが私の前にそっと手を出して話し出した。
「挨拶が遅れ申し訳ありません。私は咲月由紀夫。そして妹の咲月梨花です。不躾ではございますが、私達は急ぎ人を運べる様な馬車、もしくは荷車をお借りしたく参りました。」
領主様は「ほぅ。」と少し顔を傾けた。
「見た所君達は、異世界人と言われる者達ではないか?」
領主様はニコニコと私達に笑顔を向ける。
私と由紀夫兄さんは顔を見合わせて、由紀夫兄さんが動揺したように立ち上がる。
「どうしてわかるのかって?」
と領主様はニコニコと由紀夫兄さんに問いかける。
「は、はい……」
と由紀夫兄さんはソファに座り直した。
「まぁ、単純に見た目が違うしね。街中でも周りからの視線をよく感じたのではないか?服の仕立てやデザインも全く異なるんだ。見られて当然だがね。」
由紀夫兄さんはハッとした様に呟く。
「てっきり弟や妹が可愛すぎる為に、見られているものだと……」
なんて恥ずかしい事を真面目な顔で言っている。
「恥ずかしいからやめてよ、由紀夫兄さん……」
と俯いていると、領主様は快く貸し出してくれると言ってくれた。
私と由紀夫兄さんがびっくりしていると、領主様がゆっくりと話し始める。
「私の祖父が異世界人でね。よく言っていたんだよ。急に異世界に飛ばされて、みんな自分の事でいっぱいいっぱいになってしまう。
祖父が居た世界には、魔法も、魔獣や魔物。そんな物は一切無かった。そんな人達が急に、生きるだけでも命懸けの世界に来てしまったらすごく混乱するだろう。ってね。
だからアンジェ君が君達を連れてきた時から、私に出来る事なら協力しようと思っていたんだよ。」
と優しく笑いかけてくれた。
「金が欲しいとか、そんな事だと思っていたというのに、馬車か荷車って。身構えていたのに拍子抜けだよ。」
と笑っていた。
本当に有り難い。
これで今日にでも迎えに行ける。
先輩達を。




