一縷の望み
「ノエル……ノエル……」
その声に、はっと顔を上げた。
ブレンダ先生だった。
どうやら私は、数時間その場に立ち尽くしていたらしい。
先生は私の手にある折れたほうきを見つめ、
言葉を選ぶように口を開いた。
「……リノアの意識が戻った」
「……良かった」
私はそれだけ言うのが精一杯だった。
少しだけ足取りが軽くなった。
私は救護所へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リノアは助かったとはいえ、軽傷ではなかった。
木の葉に救われたとはいえ、あちこちを骨折していた。
今はベッドの上で、身動きひとつ取れない。
「後遺症は残らない見込みです」
医師のその言葉だけが救いだった。
だが、骨がつながっても、数か月のリハビリは必要らしい。
――留年は、避けられない。
いくつか言葉を交わしたはずなのに、
ほとんど覚えていない。
ただ、リノアが生きている。
それだけで十分だった。
リノアの寝顔を最後に見つめ、私は静かに救護所を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほうきは、本来1人乗りだ。
なのに、2人で飛んだ。
無茶だったのだろう。
「……ごめんね」
私はそっとつぶやき、ほうきをなでた。
返事はない。
いつもの小さな震えも。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
救護所の前で、ブレンダ先生が立っていた。
私を見ると、静かに口を開く。
「私も昔、『相棒』を失ったことがある」
「……え?」
この学校では、ほうきはただの道具だ。
消耗品として扱う者がほとんどで、
壊れれば買い替える。
それが普通だった。
だが先生は違った。
「私は『相棒』とは、長く付き合っていくものだと思っている」
「そのためには、手入れも必要だし、
壊れたら修理もしなければならない」
先生は一枚の紙を差し出した。
「修理とメンテナンスをしている店だ」
受け取った紙には、
店の場所と連絡先、
修理代が書かれていた。
――高い。
新品なら何十本も買えるほどの金額だった。
「正直、新しく買った方が安い」
先生は静かに続ける。
「それでも……あれを直すなら、ここしかない」
そう言うと、深く頭を下げた。
「もっと早く伝えていれば……すまなかった」
先生は深く頭を下げたまま、顔を上げなかった。
その声は震えていた。
私は何も言えなかった。
ただ、頭を下げ続ける先生を見つめることしかできなかった。
「……この情報、ありがとうございます」
ようやく、それだけ言えた。
「頑張ります」
そう言うのが精一杯だった。
「そうか……」
先生は小さく息を吐く。
「足りなければ、私が出す。遠慮はするな」
その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。
「ありがとうございます」
私はもう一度頭を下げ、その場を離れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まずは、お金を貯める。
どれだけ時間がかかってもいい。
――絶対に、直す。
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