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飛べない魔女と古ぼけたほうき  作者: 秋月心文


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9/20

一縷の望み

「ノエル……ノエル……」


 その声に、はっと顔を上げた。


 ブレンダ先生だった。


 どうやら私は、数時間その場に立ち尽くしていたらしい。


 先生は私の手にある折れたほうきを見つめ、

 言葉を選ぶように口を開いた。


「……リノアの意識が戻った」


「……良かった」 


 私はそれだけ言うのが精一杯だった。


 少しだけ足取りが軽くなった。


 私は救護所へ向かった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 リノアは助かったとはいえ、軽傷ではなかった。


 木の葉に救われたとはいえ、あちこちを骨折していた。


 今はベッドの上で、身動きひとつ取れない。


「後遺症は残らない見込みです」


 医師のその言葉だけが救いだった。


 だが、骨がつながっても、数か月のリハビリは必要らしい。


 ――留年は、避けられない。


 いくつか言葉を交わしたはずなのに、

 ほとんど覚えていない。


 ただ、リノアが生きている。


 それだけで十分だった。


 リノアの寝顔を最後に見つめ、私は静かに救護所を後にした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ほうきは、本来1人乗りだ。


 なのに、2人で飛んだ。


 無茶だったのだろう。


「……ごめんね」


 私はそっとつぶやき、ほうきをなでた。


 返事はない。

 いつもの小さな震えも。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 救護所の前で、ブレンダ先生が立っていた。


 私を見ると、静かに口を開く。


「私も昔、『相棒』を失ったことがある」


「……え?」


 この学校では、ほうきはただの道具だ。


 消耗品として扱う者がほとんどで、

 壊れれば買い替える。


 それが普通だった。


 だが先生は違った。


「私は『相棒』とは、長く付き合っていくものだと思っている」


「そのためには、手入れも必要だし、

 壊れたら修理もしなければならない」


 先生は一枚の紙を差し出した。


「修理とメンテナンスをしている店だ」


 受け取った紙には、

 店の場所と連絡先、

 修理代が書かれていた。


 ――高い。


 新品なら何十本も買えるほどの金額だった。


「正直、新しく買った方が安い」


 先生は静かに続ける。


「それでも……あれを直すなら、ここしかない」


 そう言うと、深く頭を下げた。


「もっと早く伝えていれば……すまなかった」


 先生は深く頭を下げたまま、顔を上げなかった。


 その声は震えていた。


 私は何も言えなかった。


 ただ、頭を下げ続ける先生を見つめることしかできなかった。


「……この情報、ありがとうございます」


 ようやく、それだけ言えた。


「頑張ります」


 そう言うのが精一杯だった。


「そうか……」


 先生は小さく息を吐く。


「足りなければ、私が出す。遠慮はするな」


 その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。


「ありがとうございます」


 私はもう一度頭を下げ、その場を離れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 まずは、お金を貯める。


 どれだけ時間がかかってもいい。


 ――絶対に、直す。 

 お読みいただき、ありがとうございます!


 少しでも続きが気になったら、

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