折れてしまった相棒
リノアはちゃんと息をしていた。
最悪の事態だけは免れた。
そう思いたかった。
こういう時に揺するのは厳禁だ。
彼女のほうきは――
探してみるが、見つからなかった。
谷底まで落ちてしまったのかもしれない。
私は背負いカバンの中からロープを取り出した。
自分と彼女を縛りつけた。
もう一度、谷の上へ向かった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
なんとか谷の上へ戻ることができた。
その時、空気が一変した。
寒かった空気が、元に戻っている。
また季節が変わったみたいだ。
気づくと霧は薄くなっていた。
来る時にはたくさんいたはずの魔物も、不思議と姿を見かけなかった。
魔物たちも谷へ吸い込まれてしまったのだろうか。
そんなことを考えながら、私は出発地点を目指した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「先生!」
私はほうきから降りると、先生の元へ駆け寄った。
悔しいことだけど、
今の私は、ほうきで飛ぶより、走った方が速い。
この時、どこかで、パキッ……ピシッ……という音が聞こえた。
何の音か、気になったが、
まずは先生に報告しなきゃ。
それから、リノアを救護所へ運ばなくちゃ。
先生たちは慌ただしく動き回っていた。
あまりに慌ただしく、私の声は聞こえなかったようだ。
「先生!!」
もっと大きな声で呼びかける。
「おぉ、ノエル、リノア……。無事だったか!」
先生は、何か言いたそうな、微妙な表情を浮かべた。
私がリノアを自分に縛りつけているのを見て、
「何があった?」と、気になったのかもしれない。
それでも、無事をよろこんでくれた。
ロープをほどくと、リノアを救護所へと運んでくれた。
私は先生の後を追うように、救護所へ向かった。
救護所に向かう中、先生は今回のことを教えてくれた。
《竜喰いの裂け目》は、
定期的に魔力の強いものを「食べる」らしい。
谷が食べているのか、
谷の底にいる何かが食べているのか、
それは、わからない。
けれど谷は、
満腹になるまで「捕食」するそうだ。
そして「満腹」になると、
「捕食」をやめるらしい。
リノアを谷の上まで運んだ後、空気が変わったと、感じたのは……
「食べ終わった」ということなのだろう。
谷まで、吸い寄せられながらも、生き残ったのは「奇跡」だったようだ。
この「捕食」は
おおむね15年周期で発生しているらしい。
前回の発生から、まだ5年しか経っていない。
だから、誰も今回の発生を予想していなかった。
これが、発生すると、この辺の魔物は、ほとんど喰われてしまうらしい。
帰りに魔物がほとんどいなかったのは、そういうことらしい。
今日の実習では、生徒20人のうち17人が、まだ戻っていない。
先生は、その先を言わなかった。
けれど、帰還者名簿に並んでた名前は、私たちを含む3人だけだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
救護所にリノアを預け、少しホッとした。
改めて、いつものようにほうきへ話しかけた。
「おつかれさま。今日も助けてくれてありがとう」
そう言って、いつものように柄を撫でた。
けれど……反応がない。
いつもなら、ぷるる……と小さく震えてくれるのに。
「……あれ?」
もう一度、撫でる。
反応はない。
その時だった。
パキッ――
柄に走っていた亀裂が、大きく広がった。
「え……?」
ほうきの先が、力を失ったみたいに、ぽとりと垂れ下がる。
「……」
声にならない声が漏れた。
私は震える手でほうきを抱きしめた。
けれど、返事はありません。
頭が真っ白になった。
周囲の音がだんだん遠くなっていった。
「ノエル……ノエル……」
遠くから誰かが呼ぶ声がした。
けれど、
私は答えられなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私の腕の中で、
ほうきは、二度と震えなかった。
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・・ 次回 毎日 20:00 公開 ・・
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