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飛べない魔女と古ぼけたほうき  作者: 秋月心文


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8/16

折れてしまった相棒

 リノアはちゃんと息をしていた。


 最悪の事態だけは免れた。


 そう思いたかった。


 こういう時に揺するのは厳禁だ。


 彼女のほうきは――


 探してみるが、見つからなかった。

 谷底まで落ちてしまったのかもしれない。


 私は背負いカバンの中からロープを取り出した。

 自分と彼女を縛りつけた。


 もう一度、谷の上へ向かった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 なんとか谷の上へ戻ることができた。


 その時、空気が一変した。


 寒かった空気が、元に戻っている。

 また季節が変わったみたいだ。


 気づくと霧は薄くなっていた。


 来る時にはたくさんいたはずの魔物も、不思議と姿を見かけなかった。

 魔物たちも谷へ吸い込まれてしまったのだろうか。


 そんなことを考えながら、私は出発地点を目指した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「先生!」


 私はほうきから降りると、先生の元へ駆け寄った。

 悔しいことだけど、

 今の私は、ほうきで飛ぶより、走った方が速い。


 この時、どこかで、パキッ……ピシッ……という音が聞こえた。


 何の音か、気になったが、

 まずは先生に報告しなきゃ。


 それから、リノアを救護所へ運ばなくちゃ。


 先生たちは慌ただしく動き回っていた。

 あまりに慌ただしく、私の声は聞こえなかったようだ。


「先生!!」


 もっと大きな声で呼びかける。


「おぉ、ノエル、リノア……。無事だったか!」

 

 先生は、何か言いたそうな、微妙な表情を浮かべた。

 私がリノアを自分に縛りつけているのを見て、

 「何があった?」と、気になったのかもしれない。


 それでも、無事をよろこんでくれた。


 ロープをほどくと、リノアを救護所へと運んでくれた。

 私は先生の後を追うように、救護所へ向かった。


 救護所に向かう中、先生は今回のことを教えてくれた。



 《竜喰いの裂け目》は、

 定期的に魔力の強いものを「食べる」らしい。


 谷が食べているのか、

 谷の底にいる何かが食べているのか、

 それは、わからない。


 けれど谷は、

 満腹になるまで「捕食」するそうだ。


 そして「満腹」になると、

 「捕食」をやめるらしい。


 リノアを谷の上まで運んだ後、空気が変わったと、感じたのは……

 「食べ終わった」ということなのだろう。


 谷まで、吸い寄せられながらも、生き残ったのは「奇跡」だったようだ。

 

 この「捕食」は

 おおむね15年周期で発生しているらしい。


 前回の発生から、まだ5年しか経っていない。

 だから、誰も今回の発生を予想していなかった。


 これが、発生すると、この辺の魔物は、ほとんど喰われてしまうらしい。

 帰りに魔物がほとんどいなかったのは、そういうことらしい。


 今日の実習では、生徒20人のうち17人が、まだ戻っていない。


 先生は、その先を言わなかった。


 けれど、帰還者名簿に並んでた名前は、私たちを含む3人だけだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 救護所にリノアを預け、少しホッとした。


 改めて、いつものようにほうきへ話しかけた。


「おつかれさま。今日も助けてくれてありがとう」

 そう言って、いつものように柄を撫でた。


 けれど……反応がない。


 いつもなら、ぷるる……と小さく震えてくれるのに。


「……あれ?」


 もう一度、撫でる。


 反応はない。


 その時だった。


 パキッ――


 柄に走っていた亀裂が、大きく広がった。


「え……?」


 ほうきの先が、力を失ったみたいに、ぽとりと垂れ下がる。


「……」


 声にならない声が漏れた。


 私は震える手でほうきを抱きしめた。


 けれど、返事はありません。



 頭が真っ白になった。


 周囲の音がだんだん遠くなっていった。



「ノエル……ノエル……」 


 遠くから誰かが呼ぶ声がした。


 けれど、

 私は答えられなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 私の腕の中で、

 ほうきは、二度と震えなかった。

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・・ 次回 毎日 20:00 公開 ・・

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