誰も行けない谷へ
頭が真っ白になった。
周囲の音が、だんだん遠くなっていく。
私の横を《ガルグレイブ》が次々と通り過ぎていった。
もがくように羽根をバタつかせながら。
呆然としている私の手の中で、
ほうきが――強く震えた。
何度も。
何度も。
まるで「負けるな」「行こう」と言っているみたいに。
私は我に返った。
「うん、そうだね。行こう」
私はほうきにそう応えると、リノアの後を追った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
谷へ向かった頃には、
もう《ガルグレイブ》の姿はなかった。
おそらく谷へ吸い込まれてしまったのだろう。
やがて谷の裂け目が見えてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
落ちることなんて怖くなかった。
死ぬかもしれない。
そんなこともどうでもよかった。
リノアを助けたい。
ただ、それだけだった。
――不思議と頭は冷静だった――
私はなぜか直感的に、
いつもなら絶対にしない行動に出た。
私は谷の壁沿いを飛んだ。
なぜ飛べるのか。
そんなことを考える余裕はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
谷の壁沿いを滑るように降りていく。
どれだけ降りただろう。
谷の壁沿いの木に、
リノアが引っかかっているのを見つけた。
生い茂る木の葉がクッションになってくれたようだ。
私もその木へ降り立つ。
「リノア……?」
返事はない。
肩から流れた血が木の葉を赤く染めていた。
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※※ 次回 6/22 21:00 公開 ※※
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