竜喰いの裂け目
「伏せて!」
リノアが風魔法を放つ。
魔法で生み出された風がぶつかり、
《ガルグレイブ》の軌道が逸れる。
だが――
2体、3体と、
霧の中から《ガルグレイブ》が次々と現れる。
「なんで、こんな!」
私のほうきが大きく揺れる。
怖い……。
心が乱れると、さらに飛べなくなる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「逃げるよ!」
リノアが私の手を引いて叫ぶ。
私たちは、元来た道へと引き返す。
しかし、霧が強い。
どちらから来たのかすら怪しい。
谷の周囲には、
落下防止のため、赤く光る警告灯が設置されてる。
その光から離れるように飛べば、
元の場所に近づける。
そう思って飛んでいるはずだ。
だけど、
――警告灯の光は、遠ざかるどころか、だんだん近づいていた――
なんで?
時々、谷から吹き上がる風がとても強い。
いや、違う!
谷から風が吹いているんじゃない。
――谷そのものが、周囲の空気を吸い込んでいるんだ!――
煽られる。
うまく飛べない。
後ろには《ガルグレイブ》がいる。
止まれば、確実に死んでしまう。
逃げても逃げても追ってくる!
いや、違う。
よく見ると、
追ってきているんじゃない。
――怖い状況なのに、不思議と頭は冷静だった――
《ガルグレイブ》の飛び方がおかしい。
羽ばたいているのに、前へ進めていない。
まるで何かに引きずられるように、
もがいている。
私たちと同じように。
《竜喰いの裂け目》へ。
――おそらく《ガルグレイブ》も、谷に吸い込まれてる――
お互い同じ方向へ流されている。
だから距離は変わらない。
「っ……!」
一体が、私へ突っ込んできた。
いや、私の方へ飛ばされてきたと言うべきか。
避けきれない。
その瞬間。
「危ない!!」
リノアが割って入った。
ガッ!!
《ガルグレイブ》の爪が、リノアの肩を切り裂く。
リノアが顔をゆがめる。
「くっ……」
「リノア!!」
「平気っ……!」
しかし、その衝撃で彼女のほうきが大きく傾いた。
その瞬間、谷へ吸い込む力が一気に強くなった。
リノアの体が一気に谷へ引き寄せられた。
「きゃ……!?」
リノアの身体が、ほうきから離れた。
時間が止まったようだった。
彼女の目が驚きに見開かれる。
リノアの手が空をつかむ。
私の手も空をつかむ。
届かない。
「リノアァァァ!!」
手がちぎれそうなくらい、私は手を伸ばした。
届け……。届け……。届けぇ……。
願いながら、力の限り手を伸ばした。
けれど……
届かなかった。
触れることさえできなかった。
彼女の体が霧の向こうへ消えていく。
彼女が落ちていくのを見ていることしかできなかった。
深い谷だ……
底など、見えない。
私は知っている。
この谷に落ちて、生きて帰った者はいない。
そして私は――
自分がまだ飛んでいることに、
初めて気づいた。
--------------------------------------------
・・ 次回 毎日 20:00 公開 ・・
--------------------------------------------
お読みいただき、ありがとうございます!
少しでも続きが気になったら、
【ブックマーク】や【ポイント】で、
応援いただけるとうれしいです。
今後の執筆の励みになります!




