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飛べない魔女と古ぼけたほうき  作者: 秋月心文


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6/6

竜喰いの裂け目

「伏せて!」


 リノアが風魔法を放つ。


 魔法で生み出された風がぶつかり、

 《ガルグレイブ》の軌道が逸れる。


 だが――


 2体、3体と、

 霧の中から《ガルグレイブ》が次々と現れる。


「なんで、こんな!」


 私のほうきが大きく揺れる。


 怖い……。


 心が乱れると、さらに飛べなくなる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「逃げるよ!」


 リノアが私の手を引いて叫ぶ。


 私たちは、元来た道へと引き返す。


 しかし、霧が強い。


 どちらから来たのかすら怪しい。


 谷の周囲には、

 落下防止のため、赤く光る警告灯が設置されてる。


 その光から離れるように飛べば、

 元の場所に近づける。


 そう思って飛んでいるはずだ。


 だけど、


――警告灯の光は、遠ざかるどころか、だんだん近づいていた――


 なんで?


 時々、谷から吹き上がる風がとても強い。


 いや、違う!


 谷から風が吹いているんじゃない。



――谷そのものが、周囲の空気を吸い込んでいるんだ!――


 煽られる。


 うまく飛べない。



 後ろには《ガルグレイブ》がいる。

 止まれば、確実に死んでしまう。


 逃げても逃げても追ってくる!


 いや、違う。


 よく見ると、

 追ってきているんじゃない。



――怖い状況なのに、不思議と頭は冷静だった――


 《ガルグレイブ》の飛び方がおかしい。


 羽ばたいているのに、前へ進めていない。


 まるで何かに引きずられるように、


 もがいている。


 私たちと同じように。


 《竜喰いの裂け目》へ。

 

――おそらく《ガルグレイブ》も、谷に吸い込まれてる――


 お互い同じ方向へ流されている。


 だから距離は変わらない。


「っ……!」


 一体が、私へ突っ込んできた。

 いや、私の方へ飛ばされてきたと言うべきか。


 避けきれない。


 その瞬間。


「危ない!!」


 リノアが割って入った。


 ガッ!!

 《ガルグレイブ》の爪が、リノアの肩を切り裂く。


 リノアが顔をゆがめる。


「くっ……」


「リノア!!」


「平気っ……!」


 しかし、その衝撃で彼女のほうきが大きく傾いた。


 その瞬間、谷へ吸い込む力が一気に強くなった。


 リノアの体が一気に谷へ引き寄せられた。


「きゃ……!?」


 リノアの身体が、ほうきから離れた。


 時間が止まったようだった。


 彼女の目が驚きに見開かれる。


 リノアの手が空をつかむ。

 私の手も空をつかむ。


 届かない。


「リノアァァァ!!」


 手がちぎれそうなくらい、私は手を伸ばした。


 届け……。届け……。届けぇ……。

 願いながら、力の限り手を伸ばした。


 けれど……


 届かなかった。

 触れることさえできなかった。


 彼女の体が霧の向こうへ消えていく。

 彼女が落ちていくのを見ていることしかできなかった。


 深い谷だ……

 底など、見えない。


 私は知っている。

 この谷に落ちて、生きて帰った者はいない。



 そして私は――


 自分がまだ飛んでいることに、

 初めて気づいた。

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 ・・ 次回 毎日 20:00 公開 ・・

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