特別な喫茶店
学生の身では、できることなど限られている。
私はまず、学校の近くの喫茶店へ向かった。
何度か来たことのある、どこか懐かしさを感じさせる店だ。
この店には、いつも求人の紙が貼られている。
しかも、ほかの店より時給が高い。
――理由は、わかっている。
勤務は深夜から早朝。
それに、この店には「普通ではない客」が来る。
獣人、竜人、
あるいは人とは呼べないほど姿の違う種族たち。
この国では共存しているはずの彼らを、
人は見た目だけで怖がる。
言葉がうまく通じないことも、
その印象に拍車をかけていた。
だから彼らは、人目を避けた時間にやって来る。
問題はない。
今は……あの子がいない。
だから、そう思えた。
中途半端なまま魔法学校に通う気にはなれなかった。
それに、おばあちゃんの家では、
いろいろな種族の人と何度も会っている。
みんな、私によくしてくれた。
だから彼らに抵抗はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
喫茶店主のグレンさんは、年配の男性だった。
年齢はわからない。
ただ、落ち着いた雰囲気のおじいさんという印象だった。
少しだけ、おばあちゃんを思い出す。
「働こうと思った理由を聞いてもいいかい?」
「私の『相棒』のほうきが壊れてしまって……
修理するお金が必要なんです」
グレンさんは静かに頷いた。
「なるほど」
少し間を置いて尋ねる。
「君の名前は?」
「ノエル・アストレアです」
グレンさんの目が、一瞬見開かれた気がした。
「ここは少し変わった客が来る店だ。
怖いと思う者もいる」
「……問題ありません」
私は即答した。
「子どもの頃、おばあちゃんと暮らしていました。
そこにはいろいろな種族の方が来ていて……」
思い出す。
怖さより、温かさの方が強く残っている。
「だから、抵抗はありません」
「そうか。それは助かる」
グレンさんは、少しだけ目を細めた。
「この仕事は、向き不向きがはっきり出る」
「それでもやるかい?」
「やります」
迷いはなかった。
「今夜からでも働けます」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
グレンさんは小さく息を吐くと、机に向かった。
紙に何かを書き、封筒に入れる。
それと地図を私に差し出した。
「まずはここへ行ってくれ」
地図の一点を指で示す。
「仕事で使う『ほうき』を選んできてほしい」
「……私が、ですか?」
「そうだ」
グレンさんは続ける。
「相性のいいものを選ぶんだ」
その言葉に、胸の奥が少しだけ反応する。
「その時間も含めて、今日の仕事にしておく」
「焦らず選びなさい。
絶対に適当に決めるな」
「……わかりました」
私は地図と封筒を受け取った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほうきは、何にでも使える万能道具だ。
火を灯し、
光を生み、
生活を支える。
ほうきには意思がある。
そう教えてくれたのは、おばあちゃんだった。
だから相性がある。
合わなくても使えないわけではない。
ただ「それなり」に使えるだけだ。
多くの人は、それを知らない。
ただの道具だと思っている。
壊れれば捨てる。
合わなければ返品する。
それだけだ。
けれど、グレンさんは違う。
「それなり」の仕事で終わらせる気はない。
「……ちゃんと選ばないと」
私は小さくつぶやいた。
これは、ただの仕事道具じゃない。
仕事を共にする大切な相棒なんだから。
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