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【本編完結】飛べない魔女と古ぼけたほうき  作者: 秋月心文


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新たな相棒

 地図に記された場所へ、私はたどり着いた。

 古びた建物だったが、そこには不思議な整いがあった。


 壁の一部は新しい木材で補修され、割れた窓枠も丁寧に差し替えられている。

 必要なところだけ、静かに直し続けてきた店だ。


 手入れの「跡」が、そのまま積み重ねられている。

 

 ――いい店だ。


 そう直感した。


 扉を押して中へ入る。

 鈴の音が、静かに鳴った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 店内には、とても多くの品が並んでいた。


 「ほうき」だけではない。


 魔導具や生活道具、用途の分からない器具まで並んでいる。

 見慣れない品が多く、視線が自然と引き寄せられる。


 一瞬、足が止まりかける。


 ――いけない。

 ――いけない。


 私は軽く首を振る。


 今日は仕事だ。


 目的を見失ってはいけない。


 足を奥へ進める。


 ほうき売り場は、そのさらに奥にあった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 そこには、圧倒されるほどの「ほうき」が並んでいた。


 派手な装飾のもの。

 質実なもの。

 重そうなもの。

 軽そうなもの。


 形も、気配も、まるで違う。

 

 どれを選べばいいのか一瞬わからなくなった。


 私は小さく息を吸って、いつものように頭を下げた。


「こんにちは。

 今日は、私の相棒を選びに来ました。

 よろしくお願いします」


 その瞬間だった。


 近くで品物を見ていた客が、何人かこちらを振り向いた。

 店の奥から、ひそひそとした声が聞こえる。


「……今、話しかけた?」


「ほうきに?」


「しかも、頭まで……」


 またか。


 ざわめきはすぐに消えた。

 理由は分からない。


「見てはいけないものを見た」

 そんな空気だけが残った。


 私は気にしない。

 慣れている。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 私の声にいくつかのほうきが反応してくれたが…… 


 1本だけ、私の声に跳び起きるように反応したコがいた。


 跳ねるように動き、こちらへ向かってくる。

 急に眠りから引き戻されたような、不自然な動き。


 ――起こしてしまったかな?


 そのコは何かを確かめるように、ゆっくりと近づいてきた。

 まるで猫のように、私の足元へ擦り寄る。


「……こんにちは」


 そう声をかけると、ほうきは小さく震えた。


 ぷるる……


 やわらかい反応。

 どこか、懐かしい。


 そのコの周りだけ、少し空いていた気がする。


 ……気のせいだろうか。

 そのコ以外を選んではいけないと

 言われているようだった。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 そのコは、見るからに「新しいほうき」だった。


 だが、新しさ特有の軽さも、粗さもない。


 長く存在し続けたような、落ち着いた重みがあった。

 包み込むような気配。どこかで会った気がする。


 「安心」という言葉に近い何か。


 ――なのに、見た目だけ、新しい。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 そっと手を伸ばした。

 そのコは、拒まなかった。


 むしろ、さらに寄り添ってくる。

 ぷるる……ぷるる……

 待っていた……そう言われた気がした。


 そのコを選ばなければ、いけない気がした。


 私は小さく息を吐いた。


「……このコにします」


 店員は一瞬だけ言葉に詰まった。


「……それを?」


「はい」


 即答だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 店員に案内され、奥のカウンターへ向かう。


 その間も、ほうきは私の手の中で小さく震えていた。

 歩くたびにうれしそうに揺れる。


 まるでスキップしているみたい。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 カウンターの奥には、店主と思われる男がいた。

 静かな目をした人だった。


 店主は私とほうきを見比べると、


「これは……」


 言葉を切る。


 小さく息を吐く。


「……懐かれましたね」


「えへへ……そうみたいです」


 自分でも少し照れくさい。


「そいつに、決めたんだな?」


 私は言った。


「このコでお願いします」


 店主は一度だけ、目を閉じるようにして、息を吐いた。


「……そうか」


 短い言葉。


 だが、その中には、妙な確信のようなものがあった。

 まるで、その結論を最初から知っていたような声だった。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 私は、ほうきにそっと触れる。


「よろしくね」


 ぷるる……

 小さく震えた。


 その震えは不思議なほど自然で、

 まるで最初から――

 すべて決まっていたみたいだった。

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