校外実習当日
「気にするなって」
後ろから、明るい声がした。
振り向くと、夕陽を受けたような赤い髪が軽く揺れていた。
その色は、火というより「光そのもの」に近い。
リノアだ。
リノアは私と目が合うと、ニカッと笑った。
その笑顔が私を勇気づけてくれた。
「今日は、よろしくね」
「ありがとう。あの……」
どうして私と組むって言ってくれたの?
私がろくに飛べないことを知ってるのに。
そのことをずっと聞けなかった。
実習当日の今でも、まだ聞けないままだ。
「私は知ってる!
あんたが毎日、誰よりも練習してること」
「でも……」
「浮ける時間、確実に長くなってるし」
「うん……」
「大丈夫! 大丈夫だって!」
「今日は教室じゃない。きっと自由に飛べるよ」
その言葉だけで、胸が少し温かくなる。
実際、いろいろ言われるたびに萎縮していた。
「それにね……」
リノアは私のほうきを覗き込んだ。
「そのほうき、なんか、好きなんだよね」
「え?」
「古いけど、
とても大切にされてる感じがする」
私は目を丸くした。
そんなことを言ってくれた人は初めてだった。
「……おばあちゃんの、形見なの」
「そっか」
リノアは笑った。
「なら、おばあちゃんも見守ってくれてるよ」
私は胸が熱くなるのを感じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ピィィ~~!!
先生の笛が鳴った。
「全員、整列!」
厳格な飛行魔法の教師、ブレンダ先生が生徒たちを見渡す。
銀色が混じった髪をきっちりまとめ、
感情の読めない鋭い目が並ぶ列を一瞬で射抜いた。
「本日の実習区域は《夜霧の丘》だ」
生徒たちは顔を見合わせ、ざわめいた。
《夜霧の丘》
この学校周辺で、最も危険な場所として有名だ。
深い霧。
強い風。
肉食性の魔物。
奥には《竜喰いの裂け目》と言われる深い谷。
この谷は、竜すら上がって来られないと言われるほど深い。
さらに谷の中は危険な魔物がウヨウヨしているという噂だ。
「谷には絶対に近づくな。
絶対に……だ。
落ちれば、まず助からん」
「はい」
皆は気を引き締めた。
先生の低い声。
「2人ひと組で行動。
指定通り『夜光草』を5本採取。
明朝までに戻れ!」
「はい」
「実習開始!」
生徒達が一斉に飛び立つ。
空へ舞い上がっていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まだ飛び立っていない私たちのもとへ、先生がやってきた。
リノアに言った。
「ノエルを頼んだぞ」
「はい!」
私は深呼吸した。
「……お願い」
ほうきにまたがる。
浮いて……。
今日こそ。
ふわり、と少しだけ浮いた。
だが次の瞬間、バランスを崩す。
「きゃっ!?」
空の上から、笑い声がする。
「始まった……」
「やっぱり……」
「ふふ……。無様ね……」
私が転ぶのを待っていたようだ。
本当に意地の悪い人たちだ。
だけど――
「あれ……?」
私は思わず、自分のほうきを見た。
転んだはずなのに、
いつもなら地面に叩きつけられるはずなのに。
今日は、なぜか痛くなかった。
まるで誰かが受け止めてくれたみたい。
ほうきがぷるる……と小さく震えた。
転んだはずの私は、
なぜか元の場所から、一歩も動いていなかった。
強風に煽られたはずなのに。
まるで何かに守られているみたい。
「……今の、何?」
私は息を呑んだ。
視線の先には、古びた相棒。
すると、
ほうきがもう1度、ぷるる……と震えた。
--------------------------------------------
※※ 次回 6/21 21:00 公開 ※※
--------------------------------------------
お読みいただき、ありがとうございます!
少しでも続きが気になったら、
【ブックマーク】や【ポイント】で、
応援いただけるとうれしいです。
今後の執筆の励みになります!




