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飛べない魔女と古ぼけたほうき  作者: 秋月心文


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3/13

見上げるだけの少女

「私と組もう、ノエル」 


 そう言って、手を差し伸べてくれたのは、リノア・アルヴェイン。

 いつも私のことを気にかけてくれる。


 クラスのみんなは、ろくに飛べない私を嘲笑っていたが、

 唯一、私を笑わない子だった。


 リノアは名家アルヴェイン家のお嬢様だ。


 私たちGクラスは飛ぶことしか教わっていない。

 けれど彼女は、家で学び、既に風魔法や土魔法まで使える。


 彼女は言うまでもなく、進級は確実視されていた。

 でも、進級するには「校外実習」を達成する必要がある。


「ありがとう……。でも……」


 私と一緒では、彼女の足を引っ張り、

 今回の進級を見送ることになりかねない。


「余計なことは考えない。私はあんたと一緒がいいんだ!」


 私の両手を包む彼女の手は、とても心強かった。


 リノアは私の瞳を真っ直ぐ見つめ、ニカッと笑った。


 リノアの瞳は、ウラオモテを感じない。

 実際、とても真っ直ぐな性格だ。


 この真っ直ぐな瞳で、言われてしまうと断れない。


 彼女は、私と一緒でも「校外実習」を達成できる自信があるようだ。


「ありがとう……」


 私はコクリと頷いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 今日は、冒険実習の日です。


 緊張で朝から落ち着きませんでした。


 怖い……。

 自分で志願したというのに、体は震えています。


 飛ぼうとしますが、

 いつものように数センチ浮くことさえできずに、もたつきます。


 落ちるたびに、周囲から笑われました。


「ねぇ見て、また、あのボロほうき持ってる」


「まだ使ってるんだ……」


「絶対、飛べないのに」


 ほうきのせい、なんかじゃない。


 私が未熟だからだ。


 私は自分のことを悪く言われるのは平気でしたが、

 この「ほうき」のことを悪く言われるのは嫌でした。


 私はぎゅっとほうきを抱きしめた。

 彼女たちの声が、この子に聞こえないように……。


 もちろん、本当に耳があるわけじゃない。

 それでも、私はそうしたかった。


 私のほうきは色褪せていて、柄も穂先もところどころ欠けている。

 柄には何度も補修した跡がある。

 博物館に飾っているような古道具感があふれていた。


 でも、私には、世界で1番大切なほうきだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 周囲のささやきが消えたのを見計らって、話しかける。


「……今日も、よろしくね」


 小さくささやく。

 手の中でほうきがほんの少しだけ、ぷるる……と動いた気がした。


「また話しかけてる」


 クスクスと笑い声。


 周囲に聞こえないよう、小さくささやいたつもりだったけど……。


 いや、いつもそうしているから、

 今日も、そうしてると思ったのかもしれない。


 私は慣れていた。

 入学してから、ずっとこんな調子なのだから。


 飛べない落ちこぼれ。

 ほうきと会話する変な子。


 そう呼ばれていた。ずっと、ずっと……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「おばあちゃん」は、言ってました。


「ほうきは『言葉』は話せないけど『意思』を持ってるんだよ」


 話しかければ「気持ち」は、ほうきにも、伝わると思ってました。

 だから、いつもほうきに話しかけるのです。


 けれど、周囲はそれを見て嘲笑います。

 ほうきに「意思」など、あるハズがないと……。


 それでも、私は知っていました。


 ほうきがかすかに反応を返してくれていることを。



 その時。

 ゴォォォォ……

 遠くの谷の方から、不気味な風の音が響いた。

 まるで、何かが私たちを呼んでいるみたいに。



 その音が聞こえたのは――

 私だけだった。



 この時は、まだ知らなかった。


 この実習が、私とリノアの運命を変える1日になることを。

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※※ 次回 6/21 20:00 公開 ※※

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