見上げるだけの少女
「私と組もう、ノエル」
そう言って、手を差し伸べてくれたのは、リノア・アルヴェイン。
いつも私のことを気にかけてくれる。
クラスのみんなは、ろくに飛べない私を嘲笑っていたが、
唯一、私を笑わない子だった。
リノアは名家アルヴェイン家のお嬢様だ。
私たちGクラスは飛ぶことしか教わっていない。
けれど彼女は、家で学び、既に風魔法や土魔法まで使える。
彼女は言うまでもなく、進級は確実視されていた。
でも、進級するには「校外実習」を達成する必要がある。
「ありがとう……。でも……」
私と一緒では、彼女の足を引っ張り、
今回の進級を見送ることになりかねない。
「余計なことは考えない。私はあんたと一緒がいいんだ!」
私の両手を包む彼女の手は、とても心強かった。
リノアは私の瞳を真っ直ぐ見つめ、ニカッと笑った。
リノアの瞳は、ウラオモテを感じない。
実際、とても真っ直ぐな性格だ。
この真っ直ぐな瞳で、言われてしまうと断れない。
彼女は、私と一緒でも「校外実習」を達成できる自信があるようだ。
「ありがとう……」
私はコクリと頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日は、冒険実習の日です。
緊張で朝から落ち着きませんでした。
怖い……。
自分で志願したというのに、体は震えています。
飛ぼうとしますが、
いつものように数センチ浮くことさえできずに、もたつきます。
落ちるたびに、周囲から笑われました。
「ねぇ見て、また、あのボロほうき持ってる」
「まだ使ってるんだ……」
「絶対、飛べないのに」
ほうきのせい、なんかじゃない。
私が未熟だからだ。
私は自分のことを悪く言われるのは平気でしたが、
この「ほうき」のことを悪く言われるのは嫌でした。
私はぎゅっとほうきを抱きしめた。
彼女たちの声が、この子に聞こえないように……。
もちろん、本当に耳があるわけじゃない。
それでも、私はそうしたかった。
私のほうきは色褪せていて、柄も穂先もところどころ欠けている。
柄には何度も補修した跡がある。
博物館に飾っているような古道具感があふれていた。
でも、私には、世界で1番大切なほうきだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
周囲のささやきが消えたのを見計らって、話しかける。
「……今日も、よろしくね」
小さくささやく。
手の中でほうきがほんの少しだけ、ぷるる……と動いた気がした。
「また話しかけてる」
クスクスと笑い声。
周囲に聞こえないよう、小さくささやいたつもりだったけど……。
いや、いつもそうしているから、
今日も、そうしてると思ったのかもしれない。
私は慣れていた。
入学してから、ずっとこんな調子なのだから。
飛べない落ちこぼれ。
ほうきと会話する変な子。
そう呼ばれていた。ずっと、ずっと……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おばあちゃん」は、言ってました。
「ほうきは『言葉』は話せないけど『意思』を持ってるんだよ」
話しかければ「気持ち」は、ほうきにも、伝わると思ってました。
だから、いつもほうきに話しかけるのです。
けれど、周囲はそれを見て嘲笑います。
ほうきに「意思」など、あるハズがないと……。
それでも、私は知っていました。
ほうきがかすかに反応を返してくれていることを。
その時。
ゴォォォォ……
遠くの谷の方から、不気味な風の音が響いた。
まるで、何かが私たちを呼んでいるみたいに。
その音が聞こえたのは――
私だけだった。
この時は、まだ知らなかった。
この実習が、私とリノアの運命を変える1日になることを。
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※※ 次回 6/21 20:00 公開 ※※
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