おまけ短編9 真逆に見える世界
「私、あんたと一緒は嫌だわ」
Gクラスのパミラ・ルーカスは、実習のペアに愚痴った。
相手は8歳も年上の男だ。
「そうは言っても……
君のお父さんからの依頼で、僕はここにいるんだ。
文句なら、お父さんに言ってくれるかい?」
この男、ルード・レインは、最後のひとりと呼ばれていた。
電車事故に遭っても生き残る。
飛行機事故に遭っても生き残る。
しかし、本来事故とは滅多に起こるものではない。
それを何度も経験している時点で、すでに異常だった。
ルードは異常な頻度で事故に巻き込まれ、そのすべてで生き残っている。
だから彼は、《ラストワン》と呼ばれる。
パミラの両親は、彼を「事故でも娘だけは守る護衛」だと考えていた。
偽名を与え、魔法学校の実習にも同行させた。
だが両親は気づいていなかった。
この男がいる限り、「何も起きない」という前提は成立しないことに。
今回の実習も例外ではなかった。
本来なら、数年は何事も起こらないはずだった。
だが、彼が同行した時点で、その前提は崩れていた。
こうして事故は、起こるべくして起こった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
谷に近づいたことを知らせる警告灯が見えた。
離れようとしているのに、距離は縮まっていく。
「そんな……流されてる?」
ルードはふと、飛行をやめた。
直感のようなものが、それを選ばせた。
「あんた、何やって……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その瞬間。
パミラは、地面に半身を埋められていた。
「えっ?」
さっきまで空を飛んでいたはずなのに、動けない。
見上げれば空はそのまま。
なのに、自分だけが地面にめり込んでいる。
しかも、場所は――出発地点だった。
「先生ー!、助けてー!」
声は届かない。
周囲は妙に慌ただしく、誰も気づかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ニルス・ルードか、よく戻ったな」
……と言いかけて、違和感に気づく。
(1人……だと?)
「ペアの者はどうした?」
「たぶん、この辺りに『埋まってる』と思います」
「は?」
「さっきまで一緒に飛んでいました」
「……まあいい。とにかく無事なんだな」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後の確認で、もう1人の生存が判明した。
発見場所は――出発地点だった。
そこに彼女はいた。
半身を土に埋もれたまま、動けない状態で。
だが、致命傷はない。
誰かが埋めたような形跡もなかった。
「どういうことだ……?」
先生はつぶやいた。
ニルス・ルードは少し首を傾げる。
「飛んでたので、そういう状態になったんだと思います」
《ラストワン》の周囲では、すべてが「真逆の結果」になる。
飛んでいた者は、地面にいる結果になる。
前へ進んだはずの行程は、出発地点にいる結果になる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パミラ・ルーカスは土の中から掘り起こされながら、つぶやいた。
「やっぱり、あいつと一緒は嫌だわ」
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この話は、
起きないハズの事件が発生した理由です。
また、本編でノエル生還時に、
もう1人帰ってきてることを書いていますが、
そのもう1人がラストワンです。
事件は、偶然ではなく、必然でした。
パミラ・ルーカスは、ノエル生還の後に発見されます。
最終的に帰ってきたのは4人になりました。




