おまけ短編4 雑な魔女と、優秀すぎる相棒
「何なんだ、何なんだ、こいつは」
私の側近たちが、次々と崩れていく。
魔族の中でも選りすぐりの精鋭だ。
本来なら、いかなる侵攻にも耐えるはずの者たちだった。
それが抵抗する間もなく姿を変えていく。
「えい」「えい」「えい」
詠唱も構築もない。
ただの掛け声。
相手の魔法は、あまりにも雑だった。
放たれるたびに、毎回違う結果をもたらしていた。
ある者はカエルに姿を変えられ、
ある者は花瓶に変えられる。
普通、結果は同じになるんじゃないのか?
防御魔法も結界魔法も効かず、
こちらの攻撃も、魔法を編む前に崩される。
(……意味が分からない)
それが、少しずつ私の元へ近づいてくる。
「さぁ、覚悟しなさい。魔王、アーデルハイド!」
「ローゼンハイムだ!」
訂正している場合ではないが、つい言い返してしまった。
次の瞬間、ぐにゃりと視界が揺れた。
身体が根底から作り変えられていく。
直接的な形の書き換えだ。
(これは……魔法の種類じゃない)
形が変わっていくにつれ、意識の奥へ戦場とは無縁の妙な思考が入り込んでくる。
(家事……整える……効率化……)
「ふぅん、あなた、家事がしたいのね」
(誰だ……!?)
声の主は、さっきのデタラメな女だった。
「ねぇ、私の家の家事、やってみない?」
(ふざけるな……!)
その直後だった。
さっきの魔法の影響なのか、気づくと私は二つに分かれていた。
だが、完全に切り離されたわけではない。
不思議な力で、意識だけが繋がっている。
(私は……今、どういう存在になった?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前では、グレンという男が料理をしていた。
その動きは正確で、無駄がない。
(いい動きだ……)
妙なことに、共感できてしまう。
デタラメな女は、この男の手首に、もう一方の「私」を巻き付けた。
女は、私のことを「ほうき」という存在だと言っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
気が付くと、私は喫茶店にいた。
そこには、先ほどの男がいた。
私は、掃除が進んでいく光景を見ていた。
だが、「身体を動かしている」という感覚はない。
家事をすることを思い浮かべるだけで
それがそのまま魔法として実行される。
このフロアを掃除する。
食器を片付ける。
野菜を炒める。
そう思うだけで、作業が同時に進んでいく。
埃や汚れは、掃くのでも吸うのでもなく、
見えない力でまとめて取り除かれ、消えていく。
「すごいな。すごいなんてもんじゃない……」
グレンが思わず言葉をこぼす。
その瞬間、奇妙な高揚が生まれた。
(分かるのか。
これが『ちゃんとした仕事』だと)
「でしょ、でしょ。もっと褒めていいのよ!」
女が満足そうに笑う。
すべての元凶のはずなのに、場を支配しているのが妙に自然だ。
「褒めるよ。君じゃなくて、相棒の方をね」
その一言で、私の居場所が決まった。
この男と共にある「相棒」として――。
「僕はグレン。これから頼むよ、相棒」
……悪くない。
そう思ったことに、少しだけ違和感があった。
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