戻ったあとに
2人が巨大樹を降り、地面の上に立った……
「おかげで助かったよ。ありがとう」
「ううん」
「絶対、来てくれると思ってたけどね」
「だから何それ」
ふと気づくと、ものすごい風が吹き荒れていた。
飛行魔法の効果が消えたからだ。
立っているだけでも精一杯かもしれない。
――こんな中を飛んでいたんだ。
ノエルは改めて驚いた。
魔法師団の大人たちが、一斉に駆け寄ってくる。
「大丈夫か!」
「さっきの魔法は、何だ?」
「どうやったら、あんなことができる?」
大人としては、まず子どもたちの無事を確かめたかった。
だが、魔法のエリートとしては、あの飛び方の正体を知りたかった。
その2つの思いが入り混じり、思わず口をついて出た言葉だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、魔導ビジョンを見ていた人々の関心は、ただ一つだった。
――あの2人は、何者なんだ?
救出劇を最初から最後まで見届けた以上、気にならないはずがない。
直接、話は聞けないのか。
何か情報はないのか。
皆、必死に情報を集め始めていた。
リノアは、お嬢様として多少は知られた存在だ。
まずは、そこから話を聞くしかなさそうだった。
こうして、世間は大騒ぎになっていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リノアが家に帰ると、家族総出で迎えられた。
魔導ビジョンを見ながら、ずっと心配していたらしい。
家の外には報道陣が押し寄せていたが、今のリノアには、そんなことはどうでもよかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方のノエルは、そんな騒ぎなど気にも留めていなかった。
今、目の前の問題をどうするか。
それだけを考えていた。
大好きなほうきと再会できた。
それは、とてもうれしい。
けれど、このほうきは喫茶店のものだ。
自分のもののように扱っていいわけではない。
そう思うと、胸が苦しくなった。
意を決して、喫茶店主のグレンさんへ尋ねる。
「このほうきを譲ってもらえませんか?」
「譲る?」
グレンさんは、不思議そうな顔をした。
「それは最初から君のものだよ」
「……え?」
ノエルは意味が分からなかった。
グレンさんは静かに語り始める。
これは、ノエルが知らなかった、もう1つの物語。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
古いほうきの依り代が壊れると、ほうきは新しい依り代へ転生するよう運命づけられている。
多くのほうきは、その時に記憶を失う。
だが、このほうきは違った。
記憶を残したまま、生まれ変わったのだ。
生まれた場所は、木霊族・コーダさんの工房。
木霊族は、ほうきの声を直接聞くことができる。
だから、ほうきは願った。
――魔法学校のノエル・アストレアに自分を渡して!!――
木霊族は長命だ。
何百年もの間、数え切れないほどのほうきを見てきた。
それでも、こんな願いを口にするほうきは初めてだった。
よほど心残りがあったのだろう。
コーダさんは、そう感じた。
まず魔法学校を訪ねた。
だが、ノエルは休学中だった。
連絡先も分からない。
そこで、魔法学校に一番近い道具屋へ預けた。
「ノエル・アストレアに、このほうきを渡してくれ」
そう頼んで。
道具屋も、知り合いへ声をかけて回った。
やがて、その話は喫茶店主グレンさんの耳にも届く。
ある日。
アルバイトを希望してきた少女の話が、その特徴と一致した。
ほうきが壊れたこと。
魔法学校へ通っていたこと。
名前がノエル・アストレアだったこと。
グレンさんは確信した。
だからノエルへ手紙を渡し、あの道具屋へ向かわせた。
ほうきはようやくノエルと再会した。
壊れても。
生まれ変わっても。
忘れたくなかった相手に。
このほうきは、最初から売り物ではなかった。
工房から、ノエルへ託されたものだった。
だから、買う必要など最初からなかったのだ。
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