巨大樹を登る少女
巨大樹の下では、魔法師団が救出方法を話し合っていた。
ここは風が強すぎる。
話し合うだけでも、大声を張り上げなければならない。
もう、考えられる案も出し尽くした。
目の前に助けを求める子どもがいるのに、何もできない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
その時だった。
何かがすさまじい速さで横を駆け抜けた。
振り向くと、ほうきにまたがった少女だった。
喫茶店のエプロンを着けたまま飛んでいる。
どう見ても飛びにくそうだ。
だが、それ以上に異様だった。
強風の中なのに、機体がまったく流されない。
2本のほうきを同時に操っている。
魔法師団の精鋭ですら、その飛び方を理解できなかった。
それでも少女は、巨大樹へたどり着く。
さらに、彼らを驚かせる出来事が起きた。
少女は――
巨大樹の幹を、垂直に昇り始めた。
そんなことをしたら落ちる。
誰もがそう思った。
だが、落ちない。
なぜだ?
理由などどうでもいい。
あの子が助かるなら、それでいい。
魔法師団は、この常識外れの少女に望みを託すしかなかった。
誰一人、目を離せない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、魔導ビジョンも、この異様な少女を映し出していた。
この少女なら、何かをやってくれる。
報道屋の勘が、そう告げていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ノエルはそんな人たちの思惑など知らず、巨大樹を昇っていく。
いや、正しくは違う。
巨大樹の幹と平行に飛んでいた。
ノエルの飛行魔法は少し特殊だった。
地面と平行に飛ぶのではない。
自分が「地面」だと認識したものに対して、平行に飛ぶ。
だから幹も地面になる。
しかも、低く飛ぶほど他の力の影響を受けにくい。
強風も重力も、その飛行を乱せなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リノア!!」
ノエルは巨大樹の頂上へたどり着いた。
リノアは少し驚いたあと、笑った。
「ノエルなら……来てくれると思ってた!」
「何それ」
「だってノエルだもん」
満面の笑顔だった。
「怖くないの?」
「怖いよ」
「じゃあ何で笑ってるの?」
「ノエルが来てくれたから」
だが、本当の問題はここからだった。
ノエルは、幹を地面として飛ぶ方法をリノアへ説明する。
その方法でここまで来たのだと伝えた。
リノアは、その言葉を信じた。
今まで教わってきた飛び方は、地面から離れて飛ぶ方法だった。
だが、ノエルは違う。
幹を地面として認識し、そのすぐ近くを飛ぶ。
常識とは真逆の飛び方だ。
この飛び方では、「前」を見てはいけない。
地面を意識すると、そちらへ平行に飛ぼうとしてしまうからだ。
飛ぶには、これまでの常識を捨てなければならない。
それでも、親友の苦労を無駄にはしたくない。
何よりリノアは、ノエルの言葉を信じられる子だった。
「信じるよ。ノエルが言うなら、できると思うから」
ノエルは笑う。
「大丈夫。それでここまで来たんだもん」
リノアが先を飛び、ノエルが後ろに続く。
リノアからもらったほうきも、ここまで来る間にこの飛び方を覚えていた。
あとはリノアが、常識を吹き飛ばせるかどうか。
それだけだった。
時折ノエルが声を掛ける。
「巨大樹の方を見て」
「前を見ないで」
その声で、リノアは校外実習を思い出した。
「前見て!!」
「下見ないで……」
あの時、自分がノエルへ掛けた言葉だ。
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
今度は、立場が逆だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔法師団も、魔導ビジョンの中継も、2人から目を離せなかった。
あり得ない飛び方をする少女が2人になった。
暴風が吹き荒れる中。
2人だけが穏やかな空を飛んでいるかのように降りてくる。
誰にも理解できない。
もう、何が起きているのか分からなかった。
これは、本当に現実なのだろうか。
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