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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
六章 真相と、意外そうで意外でもないこと。
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第47話 本業は社会人です







 疲労感の多い一週間だった。


 会社の皆からの視点だと、桃香は「泊りがけの暑気払いで急に体調を崩して眠りこけていたうえに家まで送ってもらい、月曜日も休んでしまった」わけで。なぜかはわからないが、数人から差し入れを貰ってしまった。青汁だの、貰い物のハチミツだの、愛用している高麗ニンジンのサプリだの。しかもそのうち一人は桃香の車を家まで運転してくれた小野松だったので、恐縮してしまった。何かお礼をしたいと言ったが、笑顔で断られる。


「それよりも、早く良くなってくださいね?」


 取りあえず先輩の立場であるので、缶コーヒー一本だけだが奢ることで決着がついた。


 次の日は、ひっそりと草薙が入浴剤を渡してきた。


 パッケージを見ると『レインボーガーディアンズ』のコラボグッズであり、発売元が桃香もよく知ってる有名なアメニティ商品販売会社だ。


「いいよ。草薙さんには今まで迷惑かけてきたのに」

「お菓子を何回か貰ってるので、そのお礼です。うっかり買いすぎちゃったんで、雪平さんさえよければ使ってください」


 大人しい彼女にしては珍しく、押し付けられてしまう。


 そういうことがあったものだから、桃香はふと思った。


(私って、会社の人間関係は悪くない方なんだよねえ)


 取り立てて仲のいい人はいないが、険悪な人もいない。勿論面倒に思ったり苛立つこともあるが、それはあちらも同じかもしれない。桃香の言動を不快に感じる人が、いないとは限らないからだ。


 いざこうなって心配され物まで貰うことになり、桃香は嬉しくもあり戸惑ってもいた。正直なところ、愛社精神はないし愛着もそこまであるわけでもない。が、人の温かみに触れて心動かされるものがあった。


 入浴剤をもらった日の昼休み。トイレの洗面台で歯を磨いていると、去っていく石山が小さく言った。


「すみませんでした」


 歯ブラシを口に突っ込んだまま振り返る。一瞬しか目は合わせてくれなかったが、浅く会釈して石山は去っていった。荒田も笑顔で頭を下げ、その後ろを追いかけていく。


(そういえばひと騒動あったな。エイビスと戦ったせいか、すっかり遠い昔のことみたい)


 廊下を歩いていると、比見課長が前方からやってきた。


「お疲れ様です」


 軽く会釈すると相手は足を止め、心底心配してるんだという顔で話しはじめた。


「雪平さん、体調ずっと悪いみたいだけどもう一回病院行った方がいいんじゃない? それに最近暑いけど、ちゃんと温めてる? 冷えは女性の敵だよ。ウチの奥さんも温活してるし、やって損はないと思うよ。これから経験を積んで段々ベテランになってくんだし、ますます冷えには気をつけないと、ね?」

「………」


 目上の人だというのに、桃香はよっぽどにらんでやろうかと思った。


(ほんっと、ギリギリアウトな発言するのが上手だよね、この人。たまに変なこと言っちゃう以外はそこそこ良い上司なのに)


 しかも本人はわざと話しているわけではないので、タチが悪すぎる。


 漂う沈黙に、比見課長は何かに気づいたようだ。


「あ。またまずいこと言ったか。ごめんね雪平さん」


 そそくさと去っていく課長。一人廊下に取り残される桃香。


 拳を握り、桃香はズカズカと歩を進めた。


(心の中で叫ぶくらいなら、許されるよね。今だけは許して……何アホなこと言ってるのよあのオッサンはーっ!)


 階段を進みながら、桃香は思う。


 人間関係はそこまで悪くないかもしれないが、社会人はいろいろと面倒くさいことがあるものだ。







 エイビスと戦ったあの夜から、一週間以上が過ぎた。


 夏の入り口というより、真夏に等しい蒸し暑さが訪れた日曜日の午前。ルーンとフルリがそろって話があると前夜に予告していたので、桃香はダイニングテーブルに立つ一匹と一羽と対面していた。


 しかし余計な聴衆が二人いる。


「何で桜輝と風音がいるの?」


 あえて刺々しく聞いてみるものの、まるで効果がない。


「いいじゃん。桜輝君から聞いたけど、強敵が現れてすごく大変だったんでしょ? 私も心配だったし、ちょっとくらい聞かせてもらってもいいかなって」


 風音がここにいるということは、桜輝が勝手に連絡したということだ。桃香は軽く弟をにらんだ。


「俺と風音さんの心配している気持ちと野次馬根性に命じて、許してくれよ」

「結局は半分楽しんでるだけじゃん!」


 だんっ、とテーブルを叩く。ルーンとフルリの身体が少し揺れた。


「落ち着きなよ、桃香。ここで二人を追い出したって、後から質問攻めにあうのは君だよ?」


 桃香はがくり、とうなだれる。ルーンの方が諦めているが、これが正しいのだろうか。


 フルリがぼそりとつぶやいた。


「魔法少女の関係者が多いな。なるほど確かに、桃香は珍しいパターンと表現するに相応しい子かもしれないね」

「珍しい?」


 ルーンはジャケットを前脚で整え、口を開く。


「ざっくりおさらいしておこう。桃香は確かにエイビスを撃退した。ただし浄化でも封印でもない。あいつが心変わりをおこして、宿主の那波人の身体に引っ込んだだけだ」


 桜輝がボソボソ喋っている。風音に詳しく説明しているらしい。


「こんなケース、僕たちは全く目にしたことがない。フルリにも丁寧に〈記憶の海(メモリア・スープ)〉を調べて貰ったけど、そんな記録は残ってなかった。つまり覚醒した〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉を元の人間に戻すためには、絶対に魔法少女が戦ってあちらを負かさないといけないんだ。なのに」


 ごほん、とフルリが咳払いして胸を張る。カラスがそんな仕草をするのが、桃香は何だか面白く感じた。


「過去に覚醒したエイビスの記録も、改めて調べたよ。四天王クラスのあいつは、本来ならば〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉の中でも一、二を争うくらいに冷酷で残忍で、血を好むんだ。攻撃も苛烈で、周囲の無辜むこの人間を巻き込むこともいとわない。血も涙もないという表現が似合いすぎるくらいの敵なんだよ。基本は、ね」


 言い方に含みがあったので、桃香は首を傾げた。


「基本って?」

「〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉は、この星だと人間に宿らなければ覚醒できない。どうしても宿主に依存しなければいけない分、宿主から何らかの影響を受けるんだ。ちなみにだけど俺が調べた限りでは、今回目覚めたエイビスは過去一眉目秀麗だね。俺は人間の美醜の価値観はまだ理解できてないけど、それだけは断言するよ」


 桃香は深く同意する。


「そりゃそうでしょ。宿主が那波人君だもの」


 ルーンが「余計な説明だよ」と言い、聞いていた風音の目が輝いた。


「そうなの? 一回拝んでみたいなあ」


 桜輝がうんざりしたように遠くを見る。


「止めておいた方がいいですよ」


 フルリは再び、わざとらしく咳をする。


「とまあ、俺とルーンでここ数日記録を調べて、辿りついた結論は」

「エイビスは、那波人から何らかの影響を強く受けた。だからこそ桃香と戦うのを途中で止めた。仮説でしかないんだけどね」

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