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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
一章 OLさんは、ある日突然魔法少女になりました。
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第4話 他人の愚痴はつらいよ

 二人が次々に愚痴を言うと、もう一人が「そうだね」と相槌をうつ。


 最初に愚痴をもらした石山は、いつも黒髪のロングヘアを丁寧にコテで巻いて出社している。オフィス用メイクも毎日一分の隙も無くて、外見を磨くことに力を入れているのがよく分かる。彼女に応えた荒田は、茶色のボブカットのせいか快活な印象のある子だ。短い相槌をしたのは、いつもハーフアップの髪を同じバレッタで留めている草薙。この三人は桃香の一つ年下で、今年二十六歳になる。


 皆、最終学歴も雇用形態も違うが、どこか共鳴するものがあったのだろう。高校が同じ石山と荒田は、派遣の草薙に声をかけ、いつしか一緒に行動することが多くなった。桃香からすると、中高生の女子たちがやっているような濃いつるみ方をしているように見える。


 石山と荒田の二人で、瀬河に関する悪口が展開されていく。草薙はたまに同調するだけで、止めようとする気配はない。


「さっきだって小野松君が怒られてたじゃん。もっと優しくしろっての。聞いてらんなかったよ」


 石山はそう言うが、桃香としては瀬河が小野松を叱った事実はないと思う。彼女はよほど、瀬河のことが気にくわないのだろう。


 荒田は深くうなずく。


「私が就職した時からあの感じ、変わってないよね。むしろひどくなってない?」

「言えてるかも。おまけに見た目より老けてるよね? もっと気を使えばいいのにさ」

「あの人今年で三十五だっけ? 四捨五入したら四十じゃん!」

「えー、私ならその年まで独身とか絶対に嫌。子供もせめて一人は産んでおきたいよね」

「ねえ蓮歌(れんか)、そう思わない?」


 荒田から急に名を呼ばれた草薙は、肩を一瞬震わせた。


「えっ……私は、結婚しようとかあんまり考えてない、んだ」

「そうなんだ。意外かもー」


 やや(にら)むような視線の石山に、桃香はため息をつく代わりに口をすすいだ。


(心の排せつ物を他人の耳に流し込むのは止めて! 結婚するかしないかなんて人それぞれで、文句言うことじゃないでしょ。それに三十目前でフラれた私の前でそんな話しないでよ。キツイから)


 だが桃香も、石山や荒田を糾弾できる立場ではない。元カレと付き合っている時、特に就職して以降、桃香には奇妙な安心感があったのだ。恋心や長年の信頼関係とはまた違う、打算的な思惑が。


 彼がいれば、いつでも会社を辞める口実になる。彼と結婚できれば、独身という宙ぶらりん状態から解放される。独身者はみじめで可哀想だと勝手に分類する思考が、桃香のなかにひとかけらもなかった、とは自信を持って言いきれない。


(にしても、さすがに公の場でここまで言う気にはなれないな。ある意味すごいな、石山さんと荒田さん)


 と、桃香の目線は急速に草薙の手元に照準を当てた。ほぼ同時に、荒田が弾むような声でいう。


「それ『レインボーガーディアンズ』のコラボコスメだよね? かわいー」

「うん、この間たまたま見つけたんだ」


 それは、作中に出てくる変身アイテムのボールペンをかたどったリップだ。パッケージは全部で七色展開だが、草薙が使っているのは青色のものだ。


(『ルナティック・シリウス』のるうなちゃんと同じ青色キャラの子が好きだったんだ。センスいいね、草薙さん)


 声には出さないように努めていたが、口の端が勝手に上がるのを感じる。ポーチに歯ブラシ等を片付けていくが。


「まだそんなのが好きなんだね、蓮歌」


 呆れるような石山の声に、桃香の手が止まった。


「可愛いじゃん。祥子(しょうこ)だって『レインボーガーディアンズ』見たことあるでしょ?」


 荒田の問いに、石山は一万円近くするであろう高級リップを塗り直しながら、深いため息をついた。


「勿論見てたよ。あの頃は好きだった。でもさ、私たちもう二十六だよ? アラサーだよ? そういうのはとっくに卒業してなきゃな年齢でしょ」


 そうかな、とつぶやく荒田の横で、草薙が無言でリップをポーチにしまった。硬い表情の彼女へ、思わず桃香は口を開く。


「たとえ自分がいくつになっても、これが好きだっていう気持ちを卑下する必要なんてないんだよ?」


 三人の丸く見開かれた目が、一斉にこちらを向いた。


(げ、しまった!)


 仕事に関することのみ、彼女たちとは口をきかないように注意していたのだが、まさかこうなってしまうとは。


 これも今朝見た夢の影響のせいだろうか。


「っと……私の友達にも『レインボーガーディアンズ』が好きな子がいるの。その子に失礼だなって思っただけ……じゃ、じゃあね!」


 咄嗟に思いついた嘘を残し、足早に退散する。


 廊下を競歩レベルの速さで進みながら、桃香は夢に出てきた元恋人にひたすら八つ当たりしていた。


(あいつめ! 私が魔法少女がまだ好きで何が悪いの? 本物のあいつは一度も馬鹿にしてこなかったけど、今日の夢のことは絶対に許さないからね!)


 窓の外にある小さな影が、ずかずかと進む桃香の姿をうかがっていた。






 仕事終わりに感じるのは大抵が疲労感で、達成感はたまにしかない。


 今日は特にどちらも感じることのない仕事内容だったが、どうにも両肩が重く感じられた。ついつい、石山や荒田たちの様子を伺ってしまう。


 桃香の言葉など記憶の彼方なのか歯牙にもかけてないのか、いつも通りに固まってたわいもない話をしていた。


(あーもう、今日は寄り道しちゃおう。こんな気分で家に帰る気にならないもん)

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