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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
四章 到来しつつある危機
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第26話 何かが動き出している

 空が白み始めていた。ビルが林立するこの大通りにも、雀たちの喜びのさえずりが響き渡っている。


 道路の中央に植わる街路樹に、一羽のカラスが羽を休めていた。その瞳は深海のような深い青色だ。カラスは何事かに思いはせているように、暁をこえて間もない空をじっと見上げていた。


 やがて黒々と美しいくちばしを動かす。


「ルーンか。ちょうどよかった」


 木の枝がしなり、カラスの頭上からひとつの影が降りてきた。


 後ろ足を使って枝へ飛び乗ったルーンは、やや表情を曇らせている。


「そんな言い方をするってことは、僕に伝えたい情報があるんだね? フルリ」

「おや、うすうす何かに気づいていそうな顔をしてるな」


 フルリと呼ばれたカラスは、体ごとルーンに向きなおる。


 ルーンが魔法少女を指名する、指名班の役割を与えられている一方で、フルリはあらゆる情報を探る役割があった。仲間内では索敵班と呼ばれている。


 索敵班の集めた情報は指名班に直接伝えられるか、もしくは〈記憶の海(メモリア・スープ)〉にひたすら蓄積されるのだ。


「ずばり言うぞ。〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉を浄化する作業も虚しく終わったみたいだ。おそらくは、奴らの誰かが再び動き始めた」


 告げる内容の深刻さに、ルーンの肌が泡立つ。


「滅多なことを言うなよ。不吉すぎるじゃないか」


 フルリは自らの身体にくちばしを突っ込む。


「そう口では言いつつ、あんまり驚いちゃいないな。まあ、魔法少女の出動回数があれだけ多けりゃ、何かを疑うよな」


 ルーンは朝の光に濡れる葉を横目で見る。


「桃香はよく頑張ってくれてるよ。元々は僕がうっかり酔っ払ったせいで魔法少女になったのに、〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉に真面目に立ち向かってくれている。でも明らかに回数が多い。初心者には厳しすぎる」


 ルーンはそこでため息をついた。二人のいる樹のそばを、雀の集団が飛んでいった。


「だからといって今、桃香より適性の高い子も同等レベルの子もいないんだ。候補者はいるにはいるけど、まだ魔法少女になるには早いんだよね」

「じゃあ俺の予想が正しいとなると、桃香という魔法少女ひとりだけで、奴らのうち誰か一人と戦う可能性がある訳か」


 カラスと兎は一呼吸おいて、同時に呻いた。


「桃香が気の毒すぎるよ。厳しい戦いになるのは間違いない」

「だな。この国に他に魔法少女はいるが、いざという時に呼んで来れるか? 駆けつけるのにはそれなりに時間がかかるだろ。だからといって、〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉が完全に覚醒するまでここで待機してもらうのも難しいだろうし。どうする?」

「どうするも何も……ねえフルリ。君はあくまで可能性の話をしているんだよね。確定事項ではないよね?」


 フルリはうなずいた。


「ああ、宿主はまだつかめていない。あちらは力を取り戻しつつも、巧妙に隠れてる。ただひとつ俺から言えるのは、昼間にこの辺りにいる人間の誰かが宿主になってるだろう、ということだ」


 ルーンは両の耳をぴんと立てた。


「桃香の会社はこの通りの周辺にある。そんな偶然ってあるんだね」

「もしかしたらこの近くで〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉と戦った時、知らぬ間に逃げおおせた〈シード〉があったのかもな。断っておくけど、俺は桃香とやらを責めたいわけじゃないぞ。それに、似たようなことは過去に起きてるしな。今はミスを突き詰めるより、大事なことがある」


 太陽が昇りきった。朝の静謐な空気が辺りに満ちている。


 反対に一匹と一羽は、重苦しい雰囲気をまとったままだ。


「宿主を早く特定し、出来れば覚醒前に浄化できるといいんだけどな。せめて、そいつが四天王クラスでないことを祈るよ」


 フルリのぼやきに、ルーンは浅くうなずくことしか出来なかった。


 が直後、がばりと顔をあげる。


「どうした?」

「妙な気配がしたような……ごめん、気のせいだ」

「気が立つのは仕方がないさ。俺も、索敵班の名にかけてしっかり調査するよ。やれることはやっておかないとな」


 一匹と一羽のいる街路樹からそうっと離れていく黒い羽根は、この世の誰にも視認できない。


 それを離れた地から操っていた、人影以外は。







「もうさあ、金輪際視界に入れないし気にしないと誓ってもイライラしちゃうわけ、わかる?! あいつは確かに仕事出来るよ、私の同期の中で一番にね。悔しいけど認めるしかない。でも若くてかわいい子が入社したらやたら話しかけるし、自分の好みで女性社員を区別して態度を変えてるんだよ。そりゃ誰にだって好き嫌いはあるけど、あくまで会社の中にいるのにさ、表に出す必要あると思う? お互い仕事してるんだよ? 学校じゃあるまいし。仕事に支障出るほどの区別をするなっての。本当に見てらんない!」


 一気にまくしたてた風音は、コンビニで手に入れたビックサイズのプリンをかきこんだ。同じタイミングで、桃香もプリンを口にする。


「あ、これ美味しいね」

「そうでしょ? コンビニって割高に感じちゃうけど、月に一、二回はこのプリンが食べたくなるんだ」


 今日は雪平家に桜輝の姿がない。ゲーム好きの友人の家に、数名で泊まるそうだ。今夜のおかずは弟お手製の作り置きおかずを中心に、久々に味噌汁でも作るかと思っていた桃香だが、いきなり風音が襲来してきた。そして台風のごとく愚痴を叩きつけているというわけだ。


 たまにある現象なので、桃香は付き合うことにしている。それに風音はこういう時には必ず、お菓子やらを持ってきてくれるのだ。相手がそこまでするからには聞いてあげたいというのが、桃香の思いだった。

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