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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
三章 かつて魔法少女にあこがれた、ごく普通の人。
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第25話 片想いに悩むかたわらで

「他の理由、な。とにもかくにも、感動がいつしか幼い恋に変化したってことか。俺から言わせると、お前はけっこう思いこみの激しい時があるよな。その片想いもその部類に入る気がするんだよなあ」

「違う。思い込みじゃない」


 公園で泣いた事実は、父や兄にも話していない。那波人と桃香だけが知っていることだ。


 桃香への想いが恋だとはっきり定まったのは、この出来事があったからだ。


「ちょっと落ち着いて聞いてくれ。顔だけ見て好きになるのと、初めて謝ってくれたから好きになる。これって似てると思わないか? その人のことを深く知らないで、はまり込んじゃうっていうところがさ。あくまでも俺の意見だけども、お前が煙たがってる女の子達と同じことを、お前も無自覚のうちにやっちゃってると思うんだよ」


 那波人はナイフとフォークを置いた。海人は肝心要となるきっかけを知らないので、そんな意見が出るのだ。


「違うよ。俺はそんなつもりは」


 ないと言いたいところだったが、確かに桃香の人となりを、そこまで詳しく知っているとは言いがたい現状ではある。


 黙りこくる弟の頭を、海人はぽんぽんと叩いた。


「小さい時の片想いって、甘酸っぱくて良い思い出だよな。けど、思い出に浸ってるだけで目の前が見えなくなることもあるだろ。ちょっとだけ、冷静になって考えてみたらどうだ?」







 海人がアパートへと帰った後。那波人は就寝の準備をして、自室でぼんやりしていた。


 兄のアドバイスが、心に突き刺さってなかなか取れない。


 那波人の顔の良さに惹かれ、アプローチしてきた単純な女子たちと、桃香のささやかな優しさに救われ、以来彼女を崇めるように慕っている自分――


 彼女たちと自分は違うのだ、と言い捨てたかったのに、どうにもそれが出来ない。


「確かに俺、桃香さんのことあんまり知らないな。昔から優しくしてくれる、素敵な人だなってことくらいしかわかってない」


 兄はもしかしたら初恋に囚われたまま進めない弟を、心配してくれたのだろか。


(桃香さんは、今彼氏はいない。俺はたぶん、弟の昔のお友達くらいにしか思われてない。いっそ思いきって、気持ちを伝えてしまう方がいいのかな……今さら告白するなんて、ちょっと怖いけど)


 悶々と考え込んでいたら、もう寝る時間だ。これ以上起きていると、明日の頭の冴え具合に影響してしまう。


 ベッドに潜り込んだ那波人は、すんなりと眠りに落ちた。


 ――奇妙なことは、その夢の中で起こった。






 濃い闇の中、まるで映画館のスクリーンのように、誰かの姿が映し出されている。


 桃香と桜輝、それに知らない女性だ。三人は雪平家で食事しているらしい。お酒をどんどん飲んでいく女性、ポイップクリームたっぷりの手作りケーキを頬張る桜輝と、二人から一斉に何事かをまくしたてられ、驚いて固まってしまう桃香。


(桃香さんのラフな部屋着姿、初めて見たかも。新鮮だな)


 と考えたところで、那波人は不思議に思う。これは一体、どういう夢なのだろう。桃香との関係について考えるあまり、妄想がこんな風景を作り上げてしまったのだろうか。


 にしては、やけに現実味がある。


 場面は一気に変わって、ソファーでぐったりする桃香が映し出される。桜輝がブランケットをかけていた。


 彼女の周囲に、数枚の羽根が舞っている。


「え……?」


 那波人が呟いたのと同時に、桃香も羽根が視界に入ったのか、目線だけで追いかけている。


 そして――ただ暗いだけだった空間に、突如白色の羽根が大量に舞いあがり、那波人の顔めがけて吹きつけてきた。


「わっ!」


 腕で顔を必死に守る中で、誰かの声が響く。


「私を覚醒させるだけのことはある。こちらの見たものを、無意識のうちにお前も見るとは驚いた」

「だ、誰だ?」


 聞き覚えがあった。今日の夜、ファミレスへ行く準備をしてる際に聞いた謎の声と同じ。


「悪いが、名乗りたくはない。お前は単なる宿主だからな。とはいえ、お前は久しぶりに出会った高い適性を持った人間だ。なんせ、この私がよみがえろうとしているのだから」

「さっきから何言ってるんだよ!」


 両手で払ううちに、羽根の嵐は止む。再びの闇の中で、向かい合わせにもう一人の那波人が立っていた。


「私が目覚めるまでもう少しだ。それまで誰にも言うなよ? 言ったが最後、単なる宿主のお前がどうなるか想像してみるがいい」


 もう一人の那波人は笑みを浮かべている。確定した勝利に歓喜するように。


 再び羽根が辺りを舞い、那波人は目を見開く。


 鏡合わせのように立っていたはずの自分が、美しい銀の長髪になっていた。


「感謝くらいならしてやろう。お前のおかげで、私はまた暴れることが出来るのだから」


 低い哄笑が、羽根と闇の中へ埋もれていく。


「……っ!」


 真夜中、那波人は突然目を覚ました。


「今の、夢?」


 呆然とつぶやいた直後、自身の態勢に愕然とする。


 何とそこは自室のベットではなく、玄関だったのだ。小さな橙色の廊下の照明が、靴箱に備え付けられた姿見を言葉もなく見つめる那波人を照らしていた。


 自然と片手が頭に行く。やっと、寝る前の行動と今の光景の矛盾を飲み込むことが出来た。


「ここで寝てた? いつの間に移動したんだ。夢遊病ってやつなのか?」


 左肩に痛みが走る。体を丸めるようにして手で押さえたら、視界に妙なものがよぎった。


「髪の毛?」


 さっきの夢で見た、銀色の長髪だ。自分の頭皮から生えているかのように床に向かって垂れ、さらさらと揺れている。


 あわてて身を起こしたが、鏡には何も映っていない。再び頭を触ってみるが、いつもの髪型だ。


「俺、本当にどうしたんだ……宿主? 覚醒? 一体何が起こってるんだ。誰か、教えてくれよ」


 一人の高校生の困惑だらけの叫びは夜の静寂に呑みこまれ、誰にも届かなかった。

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