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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
三章 かつて魔法少女にあこがれた、ごく普通の人。
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第23話 異変と憂鬱

「おーい、起きてるか那波人? まだ八時前だぞ。ご飯は食べたのか?」


 兄の声で那波人は目を開ける。着替えもせず、ベットでうつ伏せになって寝ていた自身にびっくりした。しかも。頭と足の方向が逆だ。


 兄の海人が部屋の電気をつけてくれた。まぶしさに目を細めながら、那波人は困惑する。


(いつの間に部屋まで来たんだ? 全然覚えてない)


「疲れてるのか? ダンス部が楽しいのはいいことだけど、あんまり無茶はするなよ」

「あ、うん」


 空返事をするが、心配をかけたくなくて、無理やり会話を続ける。


「兄ちゃん、帰ってくるなら連絡くらいしてくれよ。びっくりしただろ」


 現在二十四歳の兄は既に独り暮らしをしているが、時々荷物を取りに実家へ戻ってくる。今日は父が夜勤で不在の日なので、もし兄がついでにご飯を食べるつもりならば今から準備をしないといけない。ちなみに戸田家の母は、那波人が中学校に進学する前に病気で他界している。


「服を取りに来ただけだし、別にいいかなって。今日父さんはいないのか?」

「そうだよ」

「じゃあ、ついでだしファミレスでも行くか? 俺がおごるよ」

「え、いいの?」


 正直、料理をしなくていいのは助かる。那波人は兄の提案をありがたく受けることにした。


 先に居間へ降りてもらって、着替えようとしたのだが。


「……っ!」


 左肩に電流のような痛みがはじけ、すぐに消える。


「またか。何なんだ一体?」


 ここ数日、こんな調子で苦しめられている。最初は気にすることの程でもなかったのだが、日に数度痛みに襲われるというのは、あまり気分のよくないものだ。


「湿布でも貼った方がいいのかな。それとも整体でも行……」


 と、突然今度は視界が歪んだ。近くでカメラのフラッシュでもたかれたみたいに、強烈な光が目の奥ではじける。つられるように、右耳だけ大きな耳鳴りがした。

 めまいがして、その場にしゃがんでしまう。


「っ……なに、が」


 不安が増すと同時に、こめかみ辺りに疼痛とうつうがする。


「っ、痛てて。調子悪いのかな?」


 戸惑うことしかできない中、頭の中に声が響いた。


 ――もう少し、だな。


「え?」


 その数瞬後、嘘のように痛みもめまいも消え去った。


 明らかに異様な出来事に、那波人はしばらく動けずにいた。


「これって疲れてる、だけじゃないよな? 夏バテ? いや、まだ早いような」

「おーい、那波人まだかー?」


 呑気な催促の声に、那波人は慌てて準備をした。


 車に乗り、近くのファミレスまで移動する。時間帯の関係か、それなりに客がいた。兄と同じハンバーグ定食を注文し、スマホをいじったり雑談したりしながら待っていたのだが。


「あのー」


 遠慮がちな声が聞こえて、那波人は眉をしかめた。対照的に兄は、にこやかに反応する。


「何? 俺たちに何か用?」


 声をかけてきた少女――明らかに那波人が目的のようだが――は、海人に無言で会釈した後、すぐ那波人に視線を移す。


「櫻田高校の戸田那波人君だよね? 私のことわかる? 椿高校の東野っていうんだけど」

「……うん、知ってる。椿高校の女子ダンス部の前のキャプテンだよね?」


 スマホをテーブルの上に伏せ、淡々と言う。相手が息を呑んだのがわかる。


「ありがとう。こんなところで会うなんてびっくりしたよ。家近いんだね? 私もこの辺に住んでるんだ」


 話しかけながら、さりげなくしゃがみこんでこちらを見上げてくる。那波人は、後頭部の辺りをかきむしった。


「那波人君、高校からダンス始めたって聞いてるけど、動きがキレキレで上手じゃん。だからいつかお話ししてみたいなと思ってて……」

「ごめん。そういうのいいから。やめてくれない?」


 そこで初めて那波人は、相手の顔を見た。頬を少しだけ赤くした東野はしばし固まっていたが、はっとしたようにまた口を開く。


「あ、えっとね。私は本当にお話ししたいだけで」

「ほんとごめん。そういう女の子、うんざりしてるんだよ」


 那波人は再びスマホをいじり始めた。東野はうつむき、唇を横一文字につぐんで立ち上がる。


「ごめんなさい。お邪魔しました」


 意気消沈したその背中へ、海人は「お疲れさま」とささやいた。


「やめろよ、兄ちゃん」

「だってさ、あの子はお前と付き合おうとか一切思ってなくて、純粋に話がしたかっただけかもしんないだろ? だったら可哀想だよな。一度は話してみたかった相手が女の子全員を警戒しすぎるあまり、ひどい態度取られちゃうんだからさ」


 海人は腕組みし、大仰にため息をつきながら後ろへもたれかかる。


「お前のことが理解できないんだよな。俺だったら女の子たちを受け入れてハーレム目指すのにさ。なんで修行中のお坊さんみたいに異性をことごとく断っているのかわからん」

「俺も兄ちゃんが何言ってるのかわかんない。ハーレムなんてこの時代に作ったら、不誠実だろ」

「そりゃそうかもしんないけど、平等に愛嬌振りまいて歓声浴びるなんて、めっちゃ楽しそうじゃん。俺がお前レベルの顔面だったら絶対に一度はやる。勿体無いなあ」

「……」


 海人は特筆するほどの美形ではないが、それでも十人並みと称するのも適さない程度には男前だ。だが弟の女子人気が突出しすぎているせいか、時折那波人の顔面について好き勝手に言うことがある。


 兄を半眼でにらみかけたところで、ハンバーグ定食が運ばれてきた。

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