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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
三章 かつて魔法少女にあこがれた、ごく普通の人。
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第21話 話に花が咲く

「姉貴の変身の呪文って、元ネタは『ルナティック・シリウス』だよな、たぶん」

「間違いないよね。確かブルージュエル・インカーネーション、だったよね?」


レモンサワー缶を呑みながら、桜輝がうなずいた。


「確かそうですね」

「おや? 桜輝君は『ルナティック・シリウス』も知ってるの?」

「はい。姉貴の漫画を読んだことあるし、配信サービスでアニメもみました」


 その動画配信サービスは、桃香が契約しているものだ。月額料金がそこそこ高い方なのだが、なんせそこでだけしか『ルナティック・シリウス』が視聴できないのである。


 いつでも大切な作品に浸るため、涙をこらえて料金を収めているのだ。これもある種の推し活なのかもしれない。


「前から思ってたけど、君ってたしなむジャンルは少年漫画とミステリー小説が基本だったよね? 大学生になってからオタク度がパワーアップしてない?」


 桃香はたこ焼きとケーキを交互に食べながら、なぜ風音が桜輝の嗜好をそこまで把握しているのか疑問に思ったが、空腹を満たす方が先なので黙々と咀嚼する。


「そうかもしれないですね。大学は文芸サークルと漫画サークルを掛け持ちしてるんですけど、俺より圧倒的にオタクを煮詰めた濃い奴らがたくさんいるんですよ。それで負けてられないって思って。時間もあるし、とにかく面白そうな作品にたくさん触れたいと思ってます」


 風音は今度は、手を叩いて爆笑する。彼女は酒が進むと、笑い上戸になる傾向があるのだ。


「他の子に対抗心燃やしてるんだ、しかもオタク度合で? 普通は隠して生きるものじゃない?。不思議なことしてるねー」

「相手もオタクなんで平気ですよ。それに俺、大学に行って世界が広がったんです。サークルの友達がハマってる漫画やアニメやネット小説を教えてもらって、ああ、世の中にはこんなたくさんの面白い物語があるんだな、俺が死ぬまでにあとどれだけの物語に出会えるんだろうって考えちゃって。だから今まで積極的に触れなかったジャンルにも、手を出すようになったんです」


 そうなんだねー、と風音が相槌を打つ中で、ようやく桃香は口を開いた。


「桜輝、それって世界広がってるの?」


 口についたクリームを舐めながら、弟は力強くうなずいた。


「勿論。俺にとっては三百六十度地平線の果てまで見渡せるくらいに広がったぞ」

「それって二次元の話じゃない? 大学生なら、他にも経験できることいっぱいあると思うけど」


 突然二人分の鋭い眼光が突き刺さり、思わず悲鳴をあげかけた。


「え、何?」

「桃香、二次元を馬鹿にしちゃだめよ。それで救われてる人がたくさんいるんだし、励みにしてる人も楽しんでいる人もいるし、この不景気の中で日本経済をガンガンに回してるんだから!」

「そうそう。俺は自分の趣味をとことん満喫してるぞ」

「それにね、人によって何を経験したいのか、するのかはそれぞれが選ぶことでしょ? だから桜輝君が大学四年間をすべてオタク趣味に費やしたとしても、彼がそれで満足してるんならそれでいいのよ」

「まあ、他にもやりたいことあるけどな。勉強も少しはしたいし、一人で低予算の旅行とか。でもメインはそれかな」


 桃香は気圧されてうなずくしかなかった。


「わかった。口出ししてごめん」


 風音は新しい缶ビールを空けながら、懐かしそうに言う。


「なんか珍しいなって思っちゃった。桃香ってさ、高校生の頃に私が一方的に乙女ゲームの話をしても、ちゃんと聞いてくれたじゃん。そんな桃香でも桜輝君にこういうこと言うんだね」

「ゲームの話を聞いてたのは、風音の説明がすごくわかりやすくて面白かったからだよ。あと桜輝には、いろんな経験をしてほしくてああいう事言っただけ」


 脳裏に高校時代のことがよみがえる。昼休みや放課後の時間、風音はハマっている乙女ゲームについて一生懸命に熱く語っていたのだ。彼女の家へお邪魔してプレイしているところを何度か見せてもらったこともある。


(あの頃も楽しかったな。高校といえば、この間那波人君の通ってる学校で〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉と戦ったけど……ん?)


 桃香の手がふいに止まり、その目がカっと見開かれる。色々ありすぎて記憶の奥底にしまわれた疑問が、たった今浮上してきたのだ。


 桃香は腰をあげると同時に、桜輝の両肩を掴んで無理やり自分の方へと向かせた。


「わっ! な、何だよ?」

「あんた一体、那波人君に私とあいつの関係をどんなふうに話したの? 正直に白状しなさいっ!」


 極上のネタを嗅ぎつけて興奮気味の風音を無視し、弟に一か月前の出来事を話した。那波人に、元恋人と結婚すると勘違いされていたことを。


「え、あいつまた女の子の告白を断って吊し上げられてたんだ? イケメンってのは大変なんだな」

「そういう感想はいいから! 私はね、どうして那波人君が、私が結婚するって誤解したのか知りたいの。余計な事言ってないでしょうね?」

「余計な事ぉ? うーん……」


 後頭部に手を当てる弟を腕組みしてにらんでいたら、風音がそっと指先でテーブルを叩いた。


「ねえねえ、那波人君ってどういう子なの?」


 すかさず桜輝が答える。


「俺が小学校の時の、サッカークラブの後輩なんです。今は高二かな。小さい時からすごく顔立ちが良くて、今じゃそのへんのアイドルとか蹴散らすくらいのイケメンに育ったんですよ」


 イケメン、と聞いて風音の目が光った。


「いいね。ちょっと顔面を拝ませてもらいたいな」

「あーでも、あいつは見た目を褒められたりイケメンとか言われるのが、ものすごく嫌いなんです。だから告白されても片っ端から断っていて、それで一部の女子から恨まれてるみたいですよ」

「……桜輝、私の話忘れてないよね?」


 低い声で問うが、酔っ払い二人は盛り上がっている。

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