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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
三章 かつて魔法少女にあこがれた、ごく普通の人。
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第19話 傷をかかえていた女の子

「確か高校一年の夏だったと思う。あの頃の私、何もかもに自信が無くてね。勉強も部活もいまいちで。全ての指標において、姉の方が頭ひとつ以上抜きんでていたの。両親は姉をしょっちゅう褒めていたけれど、私はおまけで『よく頑張ったな』って素っ気なくねぎらってくれるだけ。それを気に病まない性格ならよかったんだけどね。どうしても勝つことのできない、優しい姉のことが憎くて、でも家族としては大好きだった。色々な思いで心がはちきれそうになった時に、指名班の子が現れたの」


 瀬河にとっては、その日が運命の日だったのだろう。


 物語の始まりにはよくあることだ。


 君は選ばれた存在だ、果たさなければならない使命がある――そんなようなことを言われたら、不安を覚える一方でワクワクしてしまうに違いない。


 日常でやるせなさを抱えている場合は、特にそうだろう。


「魔法少女にふさわしい子だよと言われて、最初は訳がわからなかったけど、そのうち嬉しくなっていったわ。こんな私にも出来ることがあるんだ。認めてもらえることがあるんだ。しかもなれる人が限られている、魔法少女になれるんだっ、て。私もね、雪平さん、『レインボーガーディアンズ』を毎週楽しんで見ていたことがあるの」


「そうだったんですか」


 桃香は瀬河との年齢差を改めて思い起こす。確か八歳違いだ。もしかしたら、小学校高学年か中学生の頃に『レインボーガーディアンズ』を楽しんでいたのかもしれない。この社会的ヒット作は七年間放送されていたので、有り得るだろう。


 人によっては魔法少女アニメを卒業している年齢かもしれないが、瀬河はその頃に、魔法少女達からときめきと励ましを受け取っていたのだろうか。


「アニメの登場人物みたいに、仲間と助け合ったり思いやったり、協力したりは無理だと思ってたな。それでも私に魔法少女が務まるなら、誠実に向き合おうと決意したの。そして、ちょうどそのころに……」


 瀬河は話すのを止め、缶コーヒーを口へと持っていった。


「あらやだ。空っぽだった」


 再び苦笑する彼女へ、ルーンが両耳を垂らして頭を下げる。


「申し訳ない。何をどう詫びれば適切なのかはわからないけども、ごめんとしか言えないよ。期待させるだけさせて、申し訳なかった」

「もう止めて。悲しかったのは事実だけど、今は気にしてないから」


 桃香は口を開いた。空気を読まない行動だとは思ったが、確認したいことがあったのだ。


「ねえルーン、魔法少女の契約を打ち切った子のリストを作るのはどうしてなの? 別の指名班が間違えないようにするため?」

「あ、うん、それもあるんだけど」


 言いよどむルーンに、立ち上がった瀬河が尋ねる。


「あなたたちの情報を多少は知っているものね。後で〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉側へ裏切るかどうか、チェックするためじゃない?」


 ルーンは両耳をピンと張り、しばし無言だった。図星らしい。


「みんなを疑っているわけじゃないんだ。ただ」


 缶をゴミ箱に捨ててきた瀬河は、再びベンチに腰を降ろした。


「慎重になるのは仕方がないわ。あなたたちの故郷は壊滅状態なんでしょ? 敗北を恐れるのは当然よ」

「そう言ってもらえるとありがたいよ」


 瀬河はまた空を見上げた。少しずつ夕方の気配が近づきつつある。


「今のあなたみたいに、あのリスの子も相当落ち込んでいたわね。でも、それで気がついたことがあるの」

「気がついた事、ですか?」


 桃香が繰り返すと、瀬河はうなずいた。彼女からは、過去に強く囚われている様子は感じられない。少しの感傷はあるようだが、それくらいだ。


「魔法少女になれたことで、私のコンプレックスはすべて吹き飛ぶと勘違いしていた。姉に勝てないこと、親に褒めてもらいたいだけ褒めてもらえない不満。それが全部ナシになると思ってた。けどたった一週間ぽっちでクビになって、何度か朝まで泣き明かしてね。ああ、私ってこの程度の人間だったんだって思い知ったの」

「この程度……つまり、どういうことですか?」

「誰かから与えられたもので自分を大きく見せれると思った、もしくは自分を変えられると思った、考えの浅い人間だって」


 桃香は数秒おいて、思わず感嘆の息を吐いた。


「高校一年で、ショックを受けてるのにそこまで考えたんですか?」

「ちょっと荒れていたけどね。でも、他人が突然プレゼントしてくれた魔法少女という属性にすがりたかった、弱い私がいたのは事実よ。こんな性根じゃ、姉にも勝てないし親にも褒めてもらえるわけもないわよね。そこから自分の納得いくように、自分なりに努力を重ねてきたつもり」


 瀬河には、魔法少女の契約を切られ傷ついたかつての面影はない。


 そこにいるのは、羽がなかろうと走れなかろうと、泥まみれになっても這って前へ進み続けた一人の女性だ。


 そして彼女は努力の果てに、勤める会社で一定の評価を着実に得た。


「まあ、そんな私が傍からどう見えているかは、わかってるつもりだけど。男も逃げ出すカタブツ女とかなんとか……」

「いや、すごいです瀬河さん!」


 桃香は前のめりになって、瀬河に顔を近づけた。反対に相手がのけぞって距離をとる。


「ゆ、雪平さん?」

「正直言いますと瀬河さんのことを、仕事はしっかりこなすけど少し取っつきにくい人だって思ってたんです。でも、お話しして考えが変わりました。世の中の人ってそれぞれが努力したり悩んだりしてるのに、みーんなそのことを忘れがちですよね。瀬河さんのお話を聞いて、改めてそのことを思い出せました」

「そ、そう。よかったわね」


 ルーンが小声で「びっくりさせちゃってるよ」とつぶやいたので、桃香はベンチに座り直す。


「ありがとうございます。会社に嘘までついて休憩させてもらって。今日瀬河さんとお話しできて、本当によかったです」

「こちらこそ、あなたの事情を聞いちゃってよかったのかしら。それに変な昔話までしちゃって」

「いいえ、とんでもな……」


 会話の途中で、桃香は突然立ち上がる。ルーンもするどい視線で周囲をキョロキョロと伺った。


 瀬河が何事かと口を開く前に。


「桃香、変身だ!」

「わかってる!」

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