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OLさんは魔法少女  作者: 永杜光理
二章 魔法少女が戦う理由と、あの人の秘密。
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第17話 衝撃

「まずいぞ。〈シード〉をこうとしてるに違いない」

「〈シード〉をくって?」


 球体に近づきながら、桃香はどこかにいるルーンへ向かって問う。


「あいつは〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉の中でも、〈シード〉をばらまいて自分たちの生存率を上げる役割を背負っているんだ。さっさと浄化しないと、これから桃香の出動回数が増えるよ!」

「嘘でしょ?」


 愕然とした桃香をあざ笑うかのように、再び出てきた黒い煙の中に、何かが浮遊している。黒い大量の粒のようだ。


 あ、と叫ぶ間もなく、球体は自らはじける。その勢いで、黒い粒が四方に飛んだ。


「きゃあっ」


 桃香へ飛んできたいくつかの粒は、触れたとたんに消失した。魔法少女の持つ魔力に勝てないのだろう。


 つまり、この粒たちはまだ力が弱いのだ。


「桃香!」


 うなずいた桃香は、両手でイヤリングをはじく。そして、青空へ舞い上がる大量の黒い粒へ向かって叫んだ。


「レジーナ・ブロッサム・ストーム!」


 また何かルーンが突っ込んだ気がしたが、桃香は気合をこめて一層両手を空へと突き出した。大量の青薔薇の花びらが蝶のように舞い、黒い粒を片っ端から包み込んでいく。数十秒で、全ての黒い粒は回収された。


 腕を下げた桃香は、両膝から崩れ落ちた。全身から汗が噴き出ていて、息も荒い。


「大丈夫かい?」


 駆けてきたルーンに「平気だよ」と答えるが。


 やはり、一日に二度も戦うのはダメージが大きいようだ。視界がどうもぼんやりしている。


 目をこすり、何とか立ち上がる。球体のせいで歪んだフェンスが目に入った。さらにその奥に。


 呆然と口を開けた瀬河が立っていた。中村商事のある側で戦っていたらしい、と今更気づく。


(うわ、まずい)


 焦りはいっさい表に出さず、次の挙動をどうしようか、とにかく必死に考える。


 桃香にとって、魔法少女のバイブルは『ルナティック・シリウス』のアニメだ。主人公のるうなちゃんは、こういう時何と言っていただろう。近しい人に変身後の姿を見られるといったエピソードは、あったような気がするが。


(恥ずかしいけど、試してみようかな。他に思い浮かばないし)


 桃香は笑顔を浮かべた。いかにも魔法少女がしそうな、とびきりまぶしい笑顔を。


「安心してください。町の平和は私が守ります」


 瀬河は、例え太陽が真っ青になってもこんな顔はしないというくらいの、大きな驚愕を浮かべていた。


「雪平さん、こういうことしてたのね」


 納得したように何度もうなずく。桃香は凍りつく。


 幸い笑顔は崩れなかったので、そのまま言葉を絞り出した。


「人違いですよ。私はユキヒラさんって名前じゃありません」

「どうみても雪平さんじゃない。それくらいわかるわ。それに」


 瀬河は腕を持ち上げ、桃香の隣を指さす。


「そこに立ってる兎の子、少し前からまとわりついているのは見えてたんだけど。あなたが雪平さんを魔法少女に選んだのね」


 ルーンは両耳をぴんと立てた。


「僕が見えるのかい?」

「見えるわ。あなたの声がまともに聞こえたのは、今日が初めてだけど」


(どういうこと?)


 ルーンは桃香以外に姿は見えていないはずだ。そういう力が働いているらしい。例外なのは魔法少女の関係者と、ルーンが酔っ払ってうまく力をコントロールできなくなった時だけ、のはず。


「まさか」


 ルーンのつぶやきに、瀬河はうなずいた。


「私も、本当に短い間だけど、昔魔法少女だった時があるの」


 数拍の時をおいて。


「え……えええーーっ?!」


 桃香もそしてルーンも、大絶叫をグラウンドいっぱいに響かせていた。







 黒い〈シード〉がたったひとつ、空中をふわふわと漂っていた。


 魔法少女の攻撃から唯一逃れられたそれは、高校のグラウンドを風にのって横切っていく。ゆっくりと、あせらず。ここまでくれば、後は適当な人間に憑依するだけだ。その宿主が〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉と相性が良いかどうかは未知数だが、もしたぐいまれなる幸運に恵まれれば、〈悪の元素ヴィラン・エレメンタル〉側はいっきに有利になる。


 風に乗り、〈シード〉はひとつの教室の中へ入った。しばし天井を旋回し、今度は廊下からまた外へ。そして風向きを利用して別の窓から侵入した。


 人間には目視できない〈シード〉は、たまたま廊下に出ていた一人の男子生徒に当たった。


「……っ!」


 その男子生徒は、左肩を押さえて眉をしかめる。

 近くにいた友人が、異変に気づいた。


「どうしたんだ?」

「いや、いきなり針で刺されたみたいに背中が痛くなって」

「え? そこって部活で怪我したとこか?」

「違う。こんなとこ痛めた覚えはないけど。一体何だったんだろ」


 男子生徒は肩を回し、違和感がないかを何度も確認した。


「もう痛くないな。気のせいだったのかな」


 腑に落ちない様子の男子生徒へ、友人は明るく笑いとばしてみせた。


「何もないならいいじゃん。早く教室へ戻ろうぜ、那波人」

「う、うん」


 那波人はなおも肩や背中を押さえて確認しながら、先を行く友人に遅れまいと歩を進めた。

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